VSクロノⅢ
「……じゃあ、お前があいつをここまで保たせていた、ってことなのか………?」
「そうとも言える。だが、そのことを恩に着せるつもりはない。これはあくまで、あの戦士が戦い抜いたことへの称賛のつもりだ。むしろ、全力で挑まれない方が困るというもの」
クロノの魔力が増大していく。死にかけであるというのに、これだけの威圧を与えられる。これが万全の状態であったらと考えると、ゾッとしてしまう。現に、凛花様もジリアン様も怯んでいて、コルネリア様に至っては戦えそうもなかった。まともに武器を構えていられているのは、アルヴァ様だけであった。
「これで終わりだ。さて、そろそろ再開しようではないか。先ほどの勇者が最強であったようだが、他の勇者がどれほどやれるのかを見るのもまた一興。存分にやり合うとしよう」
八魔将は剣を抜き、刃を向ける。対して、凛花様とジリアン様にはまだ迷いがあるようだった。武器を持たずに、相手へと問い掛ける。
「……なあ、ほんとに戦わなきゃいけねえのか?あんたとは戦わなくたって、話ができるみてえじゃねえか。わざわざこんなことをしなくても………」
「否。こうする必要はあるのだ。部下たちが戦い、その命を散らしていったというのに、私一人が逃げ出すわけにはいかん。私には戦わなければならない理由があるのだ」
「けど、もう勝ち目はないでしょ?それなら………」
「それこそ望むところ。私は戦いに生き、戦いに死ぬ。そうと決めていたのだ。今さらこの考えを変えることなどできんだろうな」
凛花様たちはまだ追い縋ろうとしていた。魔族と言えど、その心がまっすぐだったからかもしれない。それは私にも言えることだった。今さっきまでは憎んでいたはずのこの魔族を、一概に悪と言えなくなってしまったのだ。
それを止めたのは、やはりアルヴァ様だった。
「もうわかっただろう。この魔族と私たちの価値観は違う。感謝しているのなら、この勝負に乗るのが筋というものだ」
「そうだな。そこの男の言う通りだ。手心は要らん、全力で来るといい」
八魔将の覚悟は変わらない。ジリアン様はため息をつき、武器を構えた。凛花様もそれを見て、どうしようもないとわかったのだろう。その手には再び光の剣が現れた。
「お前の考えはわからんし、同意もできねえ。けど、ここで戦わねえ方があんたにとっては苦痛なんだろ?仕方ねえ、やってやんよ」
「まったく……男って馬鹿ばっかり」
「感謝するぞ、勇者たちよ」
双方が睨み合う。緊張が場を支配する。その時間は永遠のようにも感じられた。
動き始めたのは僅かな音がしてからだった。アルヴァ様が発砲し、そのすぐ後にジリアン様の矢が迫っていく。魔族は急加速で両方を切り捨てた。
「チッ、まあそうだろうな!」
ジリアン様は吐き捨てると、次いで矢を放つ。今度は接近しながら、凛花様が魔法を撃っていく。反対側からはアルヴァ様が迫る。端から見ていても、完璧な連携だった。そして効くかどうかは別としても、当たるだろうとも。
「そんな!?」
けれど、その当ては外れた。クロノはさらに速度を増して、矢を捌き、二人を弾き飛ばした。凛花様もアルヴァ様もすぐに体勢を立て直すが、相手の方がやはり早い。まるで対応することができず、ボールのように吹っ飛ばされた。壁に叩きつけられたことで、一時的に二人は戦線離脱を余儀なくされる。
「おいおい、冗談だろ!?」
「よそ見をしている暇があるのか?」
再び一瞬にして距離を詰める八魔将。慌てて屈んだジリアン様の頭上を、剣が通り過ぎて行く。この間に、とコルネリア様が凛花様の治療を始め、アルヴァ様が加勢に向かう。逃げること、避けることに関しては、覗きの一件などがあるために上手いジリアン様のことだ。元の状態に戻すまで、時間稼ぎをしてくれるだろう。
だが、その考えもあっさりと破られる。
「がっ………!」
何かに殴り飛ばされたかのように吹き飛ばされ、地面を転がっていた。魔族の剣で薙ぎ払った後のような格好を見て、峰打ちをされたのだろうと推測することはできた。そしてジリアン様の下へと向かっていた、アルヴァ様に正面から激突してしまう。有利に思えていた状況も、たちまちピンチを迎えることとなった。
「なんだ……?身体が途中で止まったかみてえに動かなくなりやがっていた………」
「確かにな。あの能力をどうにかしないと、我々に勝機はない」
地に転がった二人はすぐさま飛び退き、差し迫った刃を躱した。そこに凛花様が加わり、ようやく最初の状態に戻ることができた。……形だけではあるのだが。
回復したとはいえ、凛花様は息が上がっている。ジリアン様は殴りつけられたせいで、軽い脳震盪を起こしているらしく、動きに精彩がない。先ほどもアルヴァ様の補助を受けて、避けたようなものだ。アルヴァ様もなんでもないように振る舞ってはいるものの、いつもと比べれば動きが鈍い。壁に叩きつけられたときに、ダメージを負ってしまったのだろう。
「……クソッ、どうすりゃいいんだよ」
「銃弾よりも速く移動しているとなると……銃はほとんど役に立たんな」
「おまけに、魔法を同時展開しても当たらない……このままじゃ………」
このままではむこうの気が変わった瞬間に殺されかねない。けれど、能力がわからないことには対処法すら思い描けない。まさに、万事休すといった言葉が合うだろう。
「……ふむ。よく戦うものだな」
「そりゃあ、それなりに場数は積んできたんでね………」
「感謝するぞ、勇者たちよ。そして、よき戦士に出会うことができた今日という日を感謝する。悔いはない」
私たちが違和感を持っていると、八魔将がバランスを崩すように倒れる。倒れ込んだ地面には、鮮やかな赤が広がっていく。
クロノはとっくに限界だったのだ。




