VSクロノⅡ
「おい、その傷……それに、いつの間に………?」
「邪魔が入ったな。だが、問題ない。再開するとしよう、勇者たちよ」
あくまで八魔将は戦う姿勢を崩さなかった。でも、こちらには先ほどまでの勢いはない。不可解な行動に、放っておいても死にそうな敵。どうにも戦う気が起きない、と言うのが正しい感想だと思う。
「気になる点があるのだが。それを答えてもらわないと、とてもではないが戦う気にはなれんな」
「時間を稼ぐつもりか?」
「それがないとは言わん。だが、答えなければ後味が悪く、全力を出し切れないのも事実だろう。特に、そちらの二人はな」
アルヴァ様が差したのは、凛花様とジリアン様であった。二人はバツが悪そうにそっぽを向く。
「ふむ、それは困るな。私は武人だ。死ぬのならば、全力の戦いでと決めている。中途半端な戦いで死ぬのは御免被る」
魔族は頷くと、構えを解いた。それと同時に、勇者様たちも武器を下ろす。やはり、胸に何かを抱えてしまったのだろう。この魔族がユート様を庇ったことで。
「ならば話すとするか。この者との戦いを。そして、何故救う気になったのかも」
※ ※ ※
目の前の戦士は傷だらけであった。聞いた報告によれば、転移能力を持っているという。それは同じ八魔将であったディアボロスとは比較にならない、とんでもないものであるらしい。
曰く、その気になれば、どんなものでも移動させてしまうらしい。
曰く、そこに重量、数などは関係なく、いくらでも移動させてしまうらしい。
曰く、それはけして繋がっている必要はなく、一部分のみを移動させることも可能らしい。
この能力を使えば、きっとこの要塞とて意味をなさないであろうことはわかっていた。であるからこそ、この勇者の相手は私がしようと思っていたのだ。……流石に、たった一人で攻めて来るなどとは思いもよらなかったが。
目が焦点を結んでいない。きっと、まともに目が見えていないのだろう。息も荒く、立っているのが奇跡と言うほどである。それほどの状態であるのに、だ。
(逃げようともしないか……その意気やよし!)
今まで私と戦ってきたものは逃げることや、諦めることが多かった。レインなどがいい例だ。勝てない。そう自分に言い聞かせ、私に挑むことを辞めていった。敵対するものは、私を見るなり逃げ出した。正面から向かうものは、もはや存在しなくなっていたのだ。根が武人であった私は、それを心足りないと感じていた。例え自分の能力をわかった上でも、自分に向かってくるものを見たいと願ったのだ。
それが今、目の前にいる。か細く、今にも事切れそうな少年は、それでも諦めていない。その目が訴えているのだ。自分はまだやれると。
(このような戦いをしたいと思っていたのだ!)
彼の覚悟にこちらも応えなければならない。能力を発動し、時間を止めた。残酷かとは思うが、これが私の本気なのだ。それを見せないことこそ、彼に対する侮辱なのではないかと思う。
停止した時間で彼が動き出すことはなく、私の剣は勇者の身体に吸い込まれた。時間が再び動き出し、勇者は吐血する。
「最後に聞いておきたい。君の名は何という?」
「ゆー、と……だよ………」
彼の身体が倒れていく。私は剣を抜き、鞘へと収めた。
「ユート、か。その名前、確かに私の胸に刻んでおこう」
勇敢なる戦士であり、生涯において初めて絶望的な状況においても逃げなかった相手。その相手に大きな敬意を払う。その力が私に届かなかったとしても。
「……………………よ」
「む?どうした?」
消え入るような声で、何かを呟いた。遺言かと思い、聞き取ろうとした。その瞬間。
「まだ、安心するには早い………そう言ったのさ…………」
勇者が私の身体に手を回す。正面から抱き着かれる形になったのだ。何を、そう思ったときには彼が答えを発していた。
「《操炎》!」
「ぬうっ………!」
ユートと名乗った勇者がしたことは単純。考えれば、誰でも思いつく策だった。だが、誰もその覚悟がなかった。この勇者にはあった。それだけのこと。
まさに、肉を切らせて骨を切る。そんな言葉が合う作戦。この勇者は停止した時間内では私に勝てないとわかっていたのだ。
ならば、と私に攻撃をさせ、解除するのを待った。そして、崩れ落ちる瞬間を使って、私に組み付く。組み付かれれば、停止した時間では相手の腕でも切り落とさない限り、引き剥がすことはできない。何故なら組み付いた、という状態で止まっているのだから。
さらには、この勇者は剣が抜けないよう、私の腕をしっかりと掴んでいた。これにより、無理矢理引き剥がすこともできなくなった。
すぐに振り払おうともしたのだが、むこうの動きの方が早かった。自身の危険も顧みず、私の後ろで炎を出したのだ。無防備な私はまともに攻撃を喰らい、大怪我を負った。とてもではないが、助からないほどの。しかし、その代償として彼は瀕死の状態となっていた。
(……そこまでの覚悟を決めていたのか………)
彼の傷からとめどなく血が流れていく。そう遠くないうちに、彼は死ぬだろう。人類を救った代償として。
「フッ……残された者の気持ちも考えるといい」
勇者の宣言を聞いた私は、何故か見捨てるという気になれなかった。いいや、本当は理由などわかっているのかもしれない。どうして見捨てられないか。それはきっと………
「私の力で、君の時間を停止させる。助かるかどうかは、五分五分ではあるかもしれんがな」
彼の血の流れが止まる。呼吸が止まり、閉じられた目が開くことはない。鼓動も止まった。
「さて、早く来るといい。さもなければ、このまま死んでしまうぞ?」
私はここにいない勇者たちに向けて、そう呟いた。




