説明の後で
まあ、あの後は色々とトラブルもあったけど、なんとかなって結果オーライ……とは行かなかった。だって、シルヴィアさんとギクシャクしてるし(正確にはむこうが一方的に、って感じかな?)、カトレアにもジトッとした目で見られるし。クロはシルヴィアさんを威嚇し始めてるし、王様からは変な忠告をされるし(ちゃんと責任は取れるのだろうな、とかなんとか)。とにかく、大変な一日だった。
シルヴィアさんと離れられた後は、流れ解散となって、そのまま休むことになった。部屋は元々の部屋を使えばいいと言われたので、召喚されたときに案内された部屋で休ませてもらった。メイドさんも必要なら募集する、って言ってたけど、カトレアがいるからいいかな。
「……ユート様は、ああいう女性が好きなのですか?」
「え、何のこと?」
「先程のことです。いつまでもあのお姫様と一緒にいて………」
カトレアがなんだかすごい不機嫌そうだ。どうしてだろう?頭を悩ませていると、どこからか声が響いた。この声はチーちゃんかな?
『おや、カトレアさんは自分もしてほしいのでしょうか。素直に甘えてもいいでしょうに……まあ、気が引けているのかもしれませんね』
『そうなの?』
『ええ。こういうときは、私が力を貸した方がよさそうですね』
チーちゃんの言葉に首を傾げている間に、事態は進んでいた。いきなり目の前にカトレアが現れて、さっきと同じ状態になった。……やっぱり、ご丁寧に『超念動』は使われてた。というか、さっちゃんも協力したんだ。そんなことをしてて、大丈夫なのかなあ?
『勝手に面倒を引き起こすな。後処理が面倒だ』
『というか、マスターの相棒は私。調子に乗らないで』
『おー、面白そうだな!あたしも参加するぜー!』
『僕は後が怖いからパスするよ………』
『あらあらー、せっかくの機会なので、私は参加しますねー』
『ギャー!マスター、ヘルプー!』
ほら、なんかみんなから総攻撃食らってるじゃない。フーちゃんとチーちゃんは参加してないけど、3.5×2.5×1.9×1.7?になるのかな?そしたら大体28ぐらいになるから、さっちゃんの4倍になるよね。頑張って。そう祈るだけに留めておいた。
『……あのさ、チーちゃん。これ、いつまで続くの?』
『カトレアさんが満足するまででしょうか。大丈夫ですよ、立つのに疲れればベッドまでは運ぶので』
『いや、そうじゃなくてね?』
なんだろう、何かがものすごく間違ってる気がする。さっきとは違う温もりと匂いに戸惑いながらも、辛うじてそう反論しておいた。……チーちゃんに言葉で勝てるわけないのだけど。僕が言葉を探している間に、10ぐらい反論を返してくるからね。コテンパンにやられて終わりだろうね。自信があるよ。
「あ、あの、ユート、様?」
視線を少しだけ横にずらせば、顔が真っ赤になっているカトレアがいた。なんだか前に食べたことがあるリンゴみたいだな、と不意にそう思った。
「えっと、あの、その、これは、一体………?」
「んーとね、チーちゃんの悪ふざけ、かな?みんなは自分の能力なら、自分の意思で発動させられるからね。例外はさっちゃんだけだよ」
「え、例外ですか?」
「うん。あの子だけ、他の子の能力も使えるんだ。ほとんど僕と同化してきてるからね。だから、一人称も『ボク』だったでしょ?」
そう教えてあげると、カトレアは見る見るうちに顔を青くしていった。すごいねえ、どうやったらこんなに変えることができるんだろ。僕には真似できないや。
「す、すみませんでした!勝手に勘違いしてしまったようで………!」
「……?別にいいんだけどね。こうしてるのは嫌じゃないし」
それどころか、ちょっと安心するかな?姉さんも僕をよく抱きしめてたし。なんでも、お前は抱き心地がいいんだ、だって。よくわからないや。
「……あの。もう少し、こうしていたいと思いますか?」
「ん?んー……カトレアが嫌じゃなければ、こうしてたいけど」
「えと、それなら、もう少しこのままでいいです」
しばらく、無言の時間が続いた。僕は声を掛けようか、とは思ったんだけど、何を話していいものかわからない。結局、口を開いては閉じての繰り返しになっちゃった。
「……ユート様は、シルヴィア様とこうしていたとき。そのままでいたいと思いましたか?」
「え、あ、ええっとね……うん、思ってた、と思う」
いきなり話しかけられたから驚いちゃった。カトレアの言葉でもう一度思い出してみたけど、やっぱりそうだと思う。もう少し、くっついていたかったかな。と思ってたはず。
「それなら……どちらの方が長くこうしていたいと思いますか。私と、シルヴィア様と」
「え?ううん、っと………」
どうしたんだろう?でも、今のカトレアを見ちゃいけない。そんな気がする。必死に頭を回転させて、なんとか答えを出そうとしてみた。でも、口からこぼれたのはなんとも情けない、と呆れられそうな答えだった。
「……ごめんね、わからない」
「そうですか……じゃあ、私と凛花様なら。いえ、コルネリア様でもいいです。誰を選びますか?」
また考える。けれど、目を閉じて、考えようとする前にパッととある情景が浮かんだ。さっきまではこんなことはなかったのに。不思議に思いながらも、それをそのまま伝えることにした。
「えっと、変なんだけど、ごめんね?今、考えようとしてみたんだ」
「……はい」
「そしたら、急になんていうか、その人とこうしてる場面が思い浮かんだんだ。変だよね、こういうの」
「いいえ、変なんかじゃないですよ。誰が思い浮かんだのか、教えてくれませんか?」
カトレアは優しく僕の頭に触れながら、そう言ってくれた。だから、僕は正直に答えることにする。
「カトレアがね、思い浮かんだんだ。二人とこうしてることをイメージする前に」
「そうですか。……少しだけ、安心しました」
「え、なんで?」
「なんでもありません。……そろそろ夕食の時間になりますよ。離れませんか?」
……いや、チーちゃんが離してくれないと無理なんだけどね。自力解除もできなくはないけど、チーちゃん能力を解くための暗号、凄まじく難しいように設定するから………
結局、チーちゃんが解除するまで、くっついていることになってしまったのだった。カトレアの機嫌は戻ったから、それだけが救いかなあ………




