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一夜明けて

 一夜明けて。お城の中をぽてぽてと歩いて……はない。『座標移動』を存分に使って、ショートジャンプを繰り返していた。若干眠くて頭が回らなくても、10年もの付き合いをしているんだ。特に何の意識をしなくても使える。便利だよね、と思いつつも、結局あまり見るようなところもなかったし、そのままお城の庭まで来てみた。


 (あれ、シルヴィアさんだ)


 眠くてぼんやりはしてるけど、見間違えることはない。シルヴィアさんが魔法の練習?をしていた。なんとなく気になったので、そちらへと移動してみた。地面に座りながら(どこからか取り出したブルーシートと座布団を敷いて)、シルヴィアさんの練習の様子を見ていた。シルヴィアさんは練習に夢中になっているようなので、僕には気付いていない。練習熱心なのはいいことだよね。ボーっとしながらも、そう思った。

 でも、ボーっとしてたのがいけなかったんだろうか?唐突に、『簡易(インスタント)時間旅行(タイムトラベル)』が発動した。視覚だけに訴えたそれは、どうやらこの魔法の直後に魔法が暴発するみたい。それが結構な爆発だから、シルヴィアさんが大怪我するところが見えたんだ。シルヴィアさんが痛い思いをするのは嫌だし、いつでも来て大丈夫なように準備をする。


 「クッ………」


 段々と雲行きがおかしくなってくる。シルヴィアさんも汗をかいているし、魔力?だろうか?が、かなり不安定なように思える。恐らく、もう暴発しそうなんだろう。

 そして、その瞬間がやって来た。


 「あっ………!」


 魔力らしきものが一気に膨れ上がる。その瞬間に合わせて、パチンと指を鳴らした。暴発するはずだった魔力はどこかへと消える。その感覚に違和感を覚えたのか、シルヴィアさんはきょろきょろと辺りを見回した。勿論、僕が目に留まらないはずがなくて。僕と目が合った。それはもうバッチリと。僕が見ているうちに、どんどん顔を赤くしていって……


 「ゆ、ゆゆゆゆゆゆゆゆゆユートしゃま!?い、いちゅからそこに!?」

 「……ええっと、いつからだっけ………?最後に記憶が残ってるのは、シルヴィアさんが火の玉?みたいなのを出してるときだったかな?」


 寝起きで全然働かない頭を頑張って動かし、そう答えた。……いや、まあ、ちゃんと起きてても、全然働かないのは否定しないけど。僕の答えに呂律が回らなくなって、慌てふためきながら変な動きをしているシルヴィアさんは固まってしまった。


 「う………」

 「う?」

 「うきゃああああああああああ!」


 そのまま駆け出して行ってしまった。一応、追いかけたけどね。でも、僕が近づこうとするたびに、段々と走るスピードが上がるから大変だった。結局、追いついたのは5分後。その頃には、二人とも肩で息をしていた。


 「お……お見苦しいところをお見せしました………」

 「いや……僕こそ、勝手に見ててごめんね………?」


 息が整うまでしばらく立っていて、シルヴィアさんと一緒に元の場所へと戻った。敷いてあるブルーシートの上に座って、水の入ったコップを二つ取り出した。一つはシルヴィアさんに渡す。シルヴィアさんはまだ顔を赤くしていたけど、ちゃんと受け取ってくれた。口を湿らせていると、シルヴィアさんの方から声を掛けてきた。


 「あの、ユート様……昨日のこと、なのですが……その、やはりそういうことだと思っていいのでしょうか………?」

 「え?昨日のこと?」


 シルヴィアさんを追いかけているうちに、やっと目が覚めた頭を回転させて答えを探してみる。……駄目だ、まったく思い浮かばない。昨日のことなんて、シルヴィアさんとカトレアが抱き着いてきただけじゃない。さっちゃんとチーちゃんのせいで。

 考えても考えてもわからない。うーん、助けて、ルーちゃん。


 『……ルーちゃんはよせとあれほど……もういい。お前に何かを期待する方が無駄だったな。答えてやると、その抱き着いた件に関してだろうな』 

 『そうなの?どうして?』

 『……もはや呆れてしまうな。このお姫様には男への耐性がないのであろうよ。だから、抱き着かれたことでいっぱいいっぱいになった。で、お前が自分のことを好きなのか、と勘違いしたのであろうさ。大方な』


 呆れた声で僕を罵倒してくるけど、なんだかんだ言ってやっぱり答えは教えてくれるところがルーちゃんらしい。口は悪いけど、根はいい子だからね。ルーちゃんって。


 『んーっと、じゃあ、正直に全部教えてあげた方がいいかな?』

 『だろうな。勘違いさせたままだと、その女が哀れだろう』

 『うん、わかった』


 ルーちゃんとの会話を切り上げて、チーちゃんに手伝ってもらいながら、一から説明した。さっちゃんは特殊な能力であること。僕とほとんど同一化していること。それ故、僕の所持している能力をすべて自分の意思で使えること。昨日のあれは、さっちゃんがチーちゃんの能力を行使したせいで、なかなか離れられなかったこと。そして、彼女たちが能力を行使すると、僕が自力で解かなきゃいけなくなるので、解除するまでに時間が掛かること。

 すべてを聞き終えたときには、シルヴィアさんは顔を赤くしながら、頭を抱えていた。あと、膝に顔を埋めてた。


 「シルヴィアさん?」

 「は、恥ずかし過ぎます……完全に勘違いをしていました………」


 なんだか、声も沈んでいるし。悪いことをしちゃったのかなあ?


 『いや、いい薬だろう。こいつはチョロ過ぎるからな。痛い目を見ておいた方が、騙されずに済むだろうさ』

 『そんな言い方しなくてもいいような………』


 シルヴィアさんが可哀そうだ。聞いていれば、シルヴィアさんだって初めてだったわけなのだろうし、間違えても仕方がないんじゃないかな。ルーちゃんの言い方にちょっとムッとしてしまった。


 『……ふーん?そういうことか。なるほど、確かに失言だったかもしれんな』

 『わかってくれればいいんだけどさ』


 ちょっと驚いてしまった。ルーちゃんが自分から間違いを認めるなんてことはなかなかないから。意外に思っていると、ルーちゃんは何故かクククと笑っていた。


 『どうしたの?』

 『いや?まさかマスターにもそういった気持ちがあるとはな、と思ってな。なんだ、そういうことなら構わん。一言、いや二言。こう言ってやるといい』


 次に聞かされた言葉に首を傾げながら、隣のシルヴィアさんの方を向く。シルヴィアさんはまだ、顔を上げていなかった。そんなシルヴィアさんに向けて、教えてもらった言葉を紡いだ。


 「ええっとね、シルヴィアさん。ちょっといい?」

 「……はい、なんでしょうか?」


 ゆるゆるとほんの少しだけ顔を上げてくれた。目だけを僕に向ける感じだけど。


 「その、えっと。ああ、そうだった。あのね。確かに、シルヴィアさんには恋はしてないと思うよ」

 「そ、そうですか………」

 

 シルヴィアさんの声のトーンがまた一つ沈んだ。でも、と言葉を続ける。


 「たぶん、なんだけど。シルヴィアさんのことは気になっていると思う」

 「…………………………はい?」

 「ええっと、ルーちゃんが言うにはね?たぶん、そうなんじゃないか、って。好きになりかけている、前段階なんじゃないかって………」


 好き、って気持ちがどう違うのかはわからない。でも、ルーちゃんから聞かれた問いには、確かに納得するようなものがあった。


 ――――お前は凛花やコルネリアといった女たちも好いているだろう?ならば、その女たちと、そのお姫様。どちらも別々の場所で危機に瀕していたとき、どちらから助けに行く?


 僕がすぐに助けたい、と思ったのは、シルヴィアさんだった。これがそうなんだろうか?ぼんやりとそう思う。まだ、気持ちというものは僕には難しい。また顔を赤くしているシルヴィアさんを見つつ、再認識したのだった。

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