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交渉をするようです

 「え、嫌だけど?」


 というか、謝るだけで許される問題じゃないと思うのだけど。うやむやにすればいいや、みたいなことを考えられると腹が立つし。


 「……やはり、予想はしていたが……そこを曲げて、なんとかならないだろうか?」

 「嫌だよ。そもそもの話として。あなたは自分が何をしたか、わかってる?自分の都合で勝手に追放して、力を持ったから戻って来てって言って。それは都合が良すぎるんじゃない?」

 「それは………」

 「まあ、別にそれ自体は目を瞑ってもいいのだけど」

 「何っ!?」


 王様が驚いていた。珍しい。あんまり表情がないから、アルヴァさんみたいなのかと思ってた。


 「いや、別に構わないよ?ちゃんと謝ってくれれば。だって、王様の考えは理解できなくもないし、正しい行動なのもわかるよ。だから、それについては文句は言わないよ」


 そこで一旦、息を大きく吸い込む。ちょっと疲れたからね。こういうのも、不便なところではあるかな。再び口を開いたときには、声色はもう変わっていたけど。


 「でもさ。この国はカトレアを迫害してるよね?それは許せそうにないな」


 王様が怯んだように感じる。でも、僕はそのまま言葉を続けた。


 「僕の大切な人を迫害して、不快な思いにさせて、それを当然と思っているような人たちをだよ?どうして助けなくちゃいけないのかな?そんなに都合が良くて、そんなに無茶苦茶な答えはあるの?それでも、あなたは同じことを言うの?」

 「そ、それは………」

 「まだあるよ。さっきから思ってたけど、そっちのシルヴィアさんのお兄さん。その人ひどいよね?シルヴィアさんにひどいこと言って、それがいつもなんでしょ?そんな人がいる国を救う意味が僕にはわからないかな」


 視線を合わせると、怯えたように目を逸らすシルヴィアさんのお兄さん。まあ、別にこの人はどうでもいいか。視線を戻す。


 「……力は貸してもらえないのか?」

 「むしろ、貸してもらえると思ったことに驚きかな。あ、一応言っておくけど、実力行使はやめてね?それをしたら、こっちもやらなきゃいけないことができるから」

 

 王様は怪訝そうな顔になった。でも、そのぐらいはやりそうだよね。この人なら。


 「それじゃ、一旦見せた方が早いか。これでどうかな?」


 指をパチンと鳴らす。すると、騎士たちや王様、勿論勇者のみんなとカトレア、シルヴィアさんも連れてきてる。クロ?クロが僕から離れるわけないじゃない。何の理由もないのに。


 「これは………?」


 初めて味わった人たちは戸惑っているけど、それを無視してするべきことをする。これで失敗したら、カトレアに危険が迫るからね。サボっちゃいけない。

 手の平を合わせて、ゆっくりと離していく。それと同時に、だんだん辺りの気温が上がってきた。さらに戸惑いを加速させちゃったみたいだ。すぐにわかるだろうけど。


 「上を見てよ。暑くなった理由がわかるから」


 全員が上を見て、言葉を失った。なぜなら、そこに巨大な火の玉があったからだ。


 「戦略級PSY『プロミネンス』。表面温度摂氏3000℃。中心にもなれば、750万℃にもなるよ」

 「……あれを、どうするつもりなのだ………?」

 「別に?でも、あれがお城に落ちたらどうなるだろうね?」


 王様の顔が真っ青になる。みんなも一様に、だった。一足先に、カトレアが叫ぶ。


 「ユート様、おやめください!そんなことをすれば!」

 「アルバートさんとエリサさんも犠牲になる、でしょ?問題ないよ」

 「問題ないわけがありません!」

 「ないよ。だって、店ごと避難させられるもの」


 そう言うと、今度こそカトレアは黙り込んでしまった。王国で助けたいと思った人はあの人たちぐらいだしね。ああ、フランさんも親切だったよね。あの人も助けなきゃ。


 「……なるほど。これは交渉にもなる。選択を間違えれば、王国は一夜にして滅ぶ、か」

 「そう。だから、馬鹿なことはやめてね?」

 「……わかった。実力行使に出ないことを約束しよう。もし出ようとすれば、私の名の下に必ず厳罰に処す。それでどうだろうか?」

 「うん、それならいいよ」


 再び手の平をパンと打ち付ける。すると、火の玉は消えた。王様はいくらかホッとしたようだ。


 「だが、我が国、我が世界のためにも、力が必要なのだ。どうすれば貸してもらえる?教えてくれないだろうか」


 頭を下げる王様。それだけ事態は深刻なのだろう。魔族の存在は脅威なのかもしれない。


 「んー、カトレアみたいな獣人の子の差別を止めること。あと、あのお兄さんの方がシルヴィアさんに不快な思いをさせないこと。これが絶対条件かな」

 「……すぐには厳しいだろうが、やってみよう。シルヴィアの件なら、すぐにでも取り掛かる。他には何かあるか?」

 「んーとね、今のとこはないかな?かと言って、世界を救うことはしないけど」

 「そうか………」

 

 王様はどうやら予測していたみたい。でも、今度はシルヴィアさんが出てきた。シルヴィアさんも頭を下げる。


 「ユート様、ユート様が不快な思いをしたのなら、私からも謝罪いたします。ですから、どうかこの世界のことを救っていただけないでしょうか?」

 「いくらシルヴィアさんの頼みでも、それは無理かな。救おうとするには、人の汚いところを見過ぎたから」

 「そう、ですか………」


 明らかに気落ちしたようなシルヴィアさん。でも、勘違いはしないでほしいかな。


 「ただね、大事な人もいるし、助けたいと思える人も確かにいるよ。だから、僕から魔族に対して能動的なアクションは起こさない」

 「……?どういうことでしょうか?」

 「つまりね。シルヴィアさんたちの旅にはついてくよ。でも、魔族と自分からは戦わない。もし、シルヴィアさんや凛花さんたち、僕とクロ、カトレアに危険が迫ったときだけ力を貸す感じかな?」

 「そ、それは!?」

 「他にも、助けたい人がいたら、その人は助けるよ。それが僕にできることかな」


 妥協点としてはこれが妥当なラインだと思う。魔族に支配されて、ちゃんと夜も眠れないというなら、僕はともかくカトレアとシルヴィアさんに悪いからね。


 「あの、ということは………」

 「一応、助けはするかな。緊急時だけに切れる切り札、って思えばいいと思うよ」

 「本当の意味での切り札(ジョーカー)ということか。それでも助かる。安全性がかなり上がるからな」


 シルヴィアさんもいくらかホッとした様子だった。優しいねえ。だから助けたいと思うのだけど。


 「ただ、勘違いはしないでね?僕はあくまで、『友人』としてのシルヴィアさんを助けるのであって、『お姫様』のシルヴィアさんではないよ。もし、国のために何かをしてくれ、と言われたら考えることになる。それに、シルヴィアさんだから聞くのであって、他の人に何を言われても反応はしないからね。わかった?」


 最後に一言は王様に向けての言葉だ。王様も神妙に頷いた。もし間違えればどうなるのかは、さっきのでわかったはずだ。


 「じゃあ、戻ろうか。そろそろ僕の能力も知りたいだろうしね」

説明回はまだまだ続きます。

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