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虚弱巫女の健康日誌  作者: のな
エルフ暗躍? 編
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第97話 本物の!?

「全ての元凶は例の世界樹にありそうな気がする。だからこそ、世界樹の元へ行く」


 私の言葉に、オリビアはむむむと唸る。

 そんな私は幌馬車の中に転がされ、現在顏と手と膝がすりむけ、体中腐臭を漂わせ、鼻血を拭いているという満身創痍ぶり。

 

 決め台詞が全くのカラ振りとは何事だ…。

 思わずズーンと心が暗くなった。

 

なぜかそんな私の横には、いつ、そしてどこから現れたのか、お城のメイド黒猫さんが現れ、真新しいタオルでかいがいしくお世話をしてくれていた。

 

これまたなぜだ…?


 唖然としながらも、されるがままに汚れを拭われていく。


 チラリと馬車の中を見回せば、芸人一座の皆さんが、アニトラの力なのか、それともユメトラの力なのか、荷物と共に仲良く片隅に転がされて眠っている。

 エルフに捕まった後、余計な被害が出ない様に眠らせていたのだそうだ。


 エルフは基本人間に興味を持たないので、放置されていたらしい。まぁ…馬車の中とはいえ、寒空の下に放置はいただけない。ただ、彼等に被害がなかったのは幸いである。


 そんな馬車の中、かいがいしくお世話するメイドの姿にシニヨンはぼそりと呟いた、


「何だこの状況…突っ込みどころが満載なのに、誰も突っ込まないってどういうことだ…」


 人が世界樹についての真面目な話をしているというのに、なぜかシニヨンが絶望的な表情を浮かべていた。

 ちなみに彼の視線は、いつの間にかあらわれていた目の前の黒猫さんの胸元…から一生懸命逸らそうと戦い中である。


 お前も突っ込みどころ満載だ!

 とは、元男として言わないおくことにする。

 

 そして、シニヨンが気にしているであろう裏子猫隊に関しては完全スルーしておくに限る。

 何しろ、リュークの記憶を持つこの私ですらわからないのだから!


 うむ。胸を張って言うことでもないな…。


「王都はどうされますか我が君」


 オリビアもいろいろと突っ込むのはやめたようで、話を真面目な方向へと修正した。

 もちろんスケベシニヨンは無視だ。


 そんなオリビアの質問に答えたのは、私の顔を拭いた後、なぜか今にも服を脱がそうとする黒猫さんである。

 一応言うが、もちろん服を脱がされるのは阻止したとも!


「王都の竜王達でしたら、先程仔猫様が見事なピコハンの雨を降らせ、ちびくまちゃんの消化不良でケシズミ…あ、いえ、気絶させられておりましたのでまだ大丈夫です」


 何があった王都…。そして、なぜフラウの屋敷にいるはずの裏子猫隊がこのピンチ時にタイミングよく王都へ??

 いや、気にしてはイカン。彼等は私では計り知れぬ種族なのだから。


 首をぶんぶんと横に振り、気を取り直す。

 とりあえず、王都が無事だと情報は得ることができたのだから、このまま世界樹に向けて旅をすることは可能と言うことだ。

 心配の種は少しだが減ったと思う。


「王都の竜達のことは大丈夫ってことで今は横においておく。それより、外の国の人間が竜達の事を嗅ぎつければ、敵はさらに増える・・・これが問題だ」

「反魔法勢力もいることだしなぁ?」


 アニトラの付け足しに私は頷く。

 竜族の多いヴァイマール王国。その力によって他国を牽制し、平和を保ってきた。しかし、その竜族自体が国を滅ぼしかねない状態で大暴れしていると他国が知れば、これを機に攻撃を仕掛けてくる…なんてきな臭いことが起きないとは限らないのだ。


「竜達を封じ、その上で他国を牽制、さらに世界樹の謎を解く…か、体がいくつあっても足りない」

「始めから通常の人間の4分の1だしな」


 ボソリとシニヨンが呟くのを聞いた私は、目をギラリと光らせたが、私が天誅を下すよりも早く、黒猫によって彼は天国と地獄の抱擁を受けていた。


「気になる子をついつい虐めてしまうというのは、男としてまだまだですわ」

「もふもふもふー! (窒息するー!)」


 私の抱きつき攻撃にですらデレッとしていた彼だ。息苦しくても、きっと現在至福の時を味わっていることだろう。

 「鼻血が…」という最後の呟きが聞こえた気もするが、聞こえなかったことにする。


 合掌。


 と、いかんいかん話が脱線した。

 首をフリフリ気持ちを立て直すと、そこへタイミングよくオリビアが告げる。


「牽制も大事ですが、魔力を使わないよう、あらゆる国の国民に指示することの方が重要です」


 オリビアがすべきことを指折り数える。その中には、現在の不安定な魔力の弊害を、全ての国の民に伝えなければならないことも含まれている。

 まぁ、確かに魔法が使えなければ戦争も起きにくいので、これを一番に考えるべきではある。

 これは差し迫った命の危機でもあることだし。

 

「余計な混乱を起こさないような情報操作が必要だな…。しかし、範囲が広すぎる。今も被害は出ていそうだしな」


 魔法によるパニックはすでに起きているかも知れない。


 私は唸りながらどうすべきか考えた。

 エルフに悟られぬよう動くならば魔法は禁止だ。だが、大勢の無関係な人々を救うのならば、この魔力制御の不安定な中でも、なんとか魔法を紡いで世界中に忠告をすることはできる。

 

 今の私はどちらを選ぶ…? エルフの脅威を避けるか、それとも、世界中の人々を一人でも多く救うべきか…。

 

c世界中を救うなどと言うのは傲慢な考えだ。できても、世界中の人間のほんの一部を救うぐらいか。ならば、どうやって…?

 

 ふとはまりこんだ思考のループに黙り込むと、その私の肩を誰かがポンポンと叩き、振り返った私の頬に…。


 ぶすり


「いだー!」


 人差し指を立てて振り返った頬に指を当てる…。


 古典的なひっかけ遊びだが、これをオリビアが行うと、指を立てて構えるなどという優しいことはせず、指をつっこんでくる。そのツッコミは、頬の皮を破るのではないかと言う殺人的突きだ。 

 青痣になったらどうしてくれる!


 頬を押さえながら睨めば、逆に仁王立して胸を張ったオリビアが堂々と言い放った。


「我が君がすべきことは、何ができるかより、誰が使えるか(・・・・・・)です!」

「・・・利用した人間に袋叩きにされそうなセリフですね、オリビアさん」

 

 呆れて思わず敬語になったよ。


「散々(アンセル)を利用しておきながら、今更きれいごとをおっしゃりますか?」

「いや、言わないけど…」


 私は苦虫を潰したような表情を浮かべてしばらく黙りこんだ。

 だが次の瞬間、にんまりと微笑を浮かべ、アニトラ、シニヨン、オリビア、そして黒猫に向き直った。


「リュークと違って何も持たないルゼですが、ご協力していただけるでしょうか?」


 自分が駄目なら周りを使え。

 これはリュークのの時代では基本的な事だった。


 リュークのような見返りを与えられないならば、心から頼み込むしかない。

 ここにいる者達をじっと見つめて尋ねれば、彼等はほんの少し笑みを浮かべて答えた。


「俺は目的があるからな。どちらかと言えば持ちつ持たれつってやつだ」

「まぁ、世話のかかる妹だし」

「ずうずうしく参りましょう。我が君」


 ずうずうしくは余計だよ我が騎士…。


「ふふふふふ。ルゼ様のお着替えで手を打ちますわ」


 黒猫さんの承諾には、ぞくりと背筋に寒気が走った。

 なんだろう…悪魔と契約したかのような恐ろしい感じがしたよ…。

 早まったかな…。




「そう言うことなら、情報操作はお任せにゃ!」


 空から声が響き、何やら銀色の円盤がくるくる回りながら降りてくる。

 エルフの結界にも引っかからないところを見ると、この銀の円盤も裏子猫隊の何かだろう。そう思って見つめていると、その銀の円盤は、ゆっくりと目の高さまで降りてきた。

 

 くるくる回る円盤には銀色の毛の猫が乗り、なぜか共に猛スピードで回転している。


「おぉおぉぉぉぉ! にゃぜか世界が回るのにゃ~!」

「世界ではなく、自ら回っておいでですわ銀猫様」


 黒猫さんが円盤…ではなく、喫茶店で見るような銀のトレーを指でつまんで止めると、銀色の猫は目をぐるぐる回しながら、ぼてっと地面に落ちた。


「失敗したのにゃ…」

「そんなわけで、情報操作は裏子猫隊にお任せくださいませルゼ様」


 黒猫さんは銀色の猫を抱き上げると、にこりと微笑んだ。

 そんなわけって、どんなわけなんだ黒猫さん…。





「そんじゃあ、こっちも任せようかねぇ」


 アニトラの声に振り返れば、馬車の周りには無数のアンデッドが湧き出ようとしている所だった。

 

「人間の気配に気づかれたようです」


 幌馬車の上から声がして、冷たい氷の風が吹き荒れ、アンデッド達を凍らせる。それを行ったのは、茶色の毛にアイスブルーの瞳をした猫だ。

 そして、凍ったアンデッドを風が切り裂く。


「道を開く…」


 告げたのは、鎌を振りながら衝撃波を飛ばす幼女メイド。さらに、その後ろの影の中からにょきりとあらわれたのは、なぜか目が座っているパンダの着ぐるみを着た幼女と、掌サイズの黒い猫の着ぐるみ姿のわんこだ。


「ふっふっふっ…。家事ストレス発散の場がやってきた!」

「竜王は任せるにゃわんっ。闇の中で眠ってもらうにゃわんっ。ルゼ様は心置きなく世界樹に向かうにゃわん!」


 裏子猫隊に後押しされ、私が頷くと、アニトラが何もない場所に手を突っ込み、別空間から緑の西瓜…ならぬ、翠の縞模様のトラを引っ張り出した。


「おきねぇか、ユメトラ!」

「今いいとこ~、もう少しで千人切り達成なんだよぉ」


 今にも涎を垂らしそうな勢いでユメトラの頭ががくがくと揺れる。

 半分以上眠っているようだ。


「起きやがれエロトラ! 打ち上げんぞ!」


 アニトラの叫びにユメトラはバチッと目を覚まし、続いて辺りを見回すと、ガクリと項垂れた。


「現実…」

「夢も現実のくせして何ほざいてやがる。仕事だ仕事。世界樹の元へ案内する仕事だ」


 アニトラの言葉に、ユメトラはぱちぱちと大きな目を瞬かせ、首を傾げた。


「それ、僕の仕事じゃないよねぇ?」

「途中まではてめぇの仕事だ。さっさとリュークの記憶を呼び起こして、世界樹のありかを探し出せ!」


「「は?」」


 何やら、聞き捨てならない言葉を聞いた気がして、私とオリビアが同時に首を傾げると、アニトラはユメトラを私の方へ投げてよこし、私は彼をキャッチする。


本物の(・・・)世界樹の場所は、今や隠されちまって見えなくなってやがるのさ。それがあったからエルフはリュークに手出しができず、リュークは天寿を全うした。そして、それがあったから、そこの従者も記憶を持ったまま転生した。詳しくはリュークの記憶を完全に覚醒させてからだ。それまでは俺達がお嬢ちゃんを護ってやらぁ」


 アニトラのその言葉を最後に、私の目の前はぐにゃりと歪み、私は深い眠りの底の底、記憶の眠る海へと旅立ったのだった。


 


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