↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フィールドの虹をかける。 〜 ep1 リスタート 〜  作者: 河治良幸
リスタート
PR
8/48

7 華と「七色棋士」

挿絵(By みてみん)

『HANA TOYAMA(橙山華)』


 検索すると、すぐに華本人と分かるアカウントが見つかった。

 アイコンは所属チームのユニフォームを着た華がボールと戯れている写真。

 しかし虹子が驚いたのは、背景画像だった。


「……これ」

 小学生時代の城北ウイングの集合写真。

 男子の仲間たちに囲まれ、虹色のヘアバンドをつけた虹子が、華と並んで映っている。


「こんな写真SNSに載せるなら、あたしにも許可ぐらい取れっての……」

 文句を言いながらも、画面を閉じる気にはならなかった。


挿絵(By みてみん)


 

 フォロワーは三千人ほど。

 星野夕輝ほしのゆうきには及ばないが、アンダー世代の代表選手だけあって、すでに多くのファンがいるらしい。


 投稿内容は、ほとんどサッカーだった。

 試合。

 練習。

 チームメート。

 代表活動。

 添えられた文章も、清々しいほど真面目で真っ直ぐだ。


 寝ても覚めてもサッカーのことばかり話していた、昔の華の顔が浮かんでくる。

「変わってないなあ……」

 思わず笑みがこぼれた。


 虹子は少し迷ってから、華をフォローした。

 使ったのは、オンライン将棋の情報交換でしか使っていない「七色棋士」のアカウントだ。

 そのままダイレクトメッセージを送ろうとして――。


「あれ?」

 送れない。

 華は、相互フォローの相手からしかダイレクトメッセージを受け取らない設定にしていた。


 だからといって、誰でも見られる場所で、

『華、あたしだよ。虹子だよ』

 などと書けるはずもない。


「それは無理……」

 想像しただけで恥ずかしい。


 結局、虹子は自分のアカウントへ、

『明後日はセレクションの日。楽しむぞ』

 とだけ投稿した。


 虹のペンダントをアイコンにした「七色棋士」のフォロワーは、オンライン将棋のファンばかりだ。

 それでも二千人ほどいるので、すぐに何件か「いいね」がついた。


『何のセレクションか分からないけど頑張って』

『ついにリアルなプロ棋士に挑戦か?』


「リアルなプロ棋士のセレクションって何だよ……」

 虹子は一人で突っ込み、スマホを置いた。


 これで華が気づくはずもない。

 分かっている。

 それでも――。

 ほんの少しだけ、期待している自分がいた。


     *


 セレクション前日。

 〝自称〟子分の古賀凌駕が、学校からまっすぐ飛鳥山へ来てくれた。

 数日続いた雨も上がり、まだ日は高い。


「いつも暗いところで一緒にやってるから新鮮だなあ」

 そんな言葉絵をさりげなく口にする凌駕へ心の中で感謝しながら、虹子はいつもの調子で返した。


「あんたの顔なんて別に見たくないけど、ボールが見やすいのはありがたいね」

 凌駕が膨れっ面をする。

 小学生の頃のままだ。


虹子「ぶりっこ系のわがまま女子か!」

凌駕「誰が女子だよ!」


 一時間ほど、ひたすら一対一を繰り返した。

 ボールを再び蹴り始めたばかりの頃は、まったく歯が立たなかった。


 それでも今では、五、六回に一回くらいはドリブルで逆を取れる。

 守備でも、たまにボールへ足を引っかけられるようになった。


「よしっ!」

 凌駕の重心が動く。

 虹子は右から左へ切り返した。


凌駕「おっ!」

 完全には抜けなかった。

 それでも一瞬、逆を取った。


凌駕「ブラボー!」

 凌駕が大げさにサムアップする。


「うるさい。今のは抜き切らないとダメ」

「褒めてんのに厳しいなあ」

 そう言われて、虹子も内心悪い気はしなかった。


 

 練習が一息つくと、凌駕が公園の自販機でスポーツドリンクとミネラルウォーターを買ってきた。

 市販のスポーツドリンクは選手にとって濃すぎるから、水と半々にする。

 城北ウイング時代からの、二人の習慣だった。


 コップなどないので、それぞれ少し飲んでから互いのペットボトルへ移す。

 世間的には間接何とやらだが、凌駕は気にする素振りもない。

 虹子も普段は気にしないが…


 これ、星野夕輝ほしのゆうきに見られたら怒られるんじゃないか。

 ただでさえ鋭い彼女の両目が、さらに吊り上がるところを想像する。


挿絵(By みてみん)


「……こわっ」

 だけど、そもそも二人が付き合っているかどうかすら知らない。

「ま、いっか」

 虹子の言葉に、凌駕は「えっ?」と驚いた反応を見せる。


「ああ、いや……そういえば、凌駕ってコメンターやってる?」と虹子。

「匿名で一つ持ってるけど、虹ねえにも教えられないな」

「うわっ、怪しい……アイドルの女の子ばっかりフォローしてるとか?」

「ちげ〜よ。eスポーツって知ってる?」


 凌駕によると、テレビゲームをリアルサッカーの状況判断や反射神経、戦略性を磨くことにも利用しているらしい。


「そんなもっともらしい理由つけて、楽しんでるだけでしょ」

 虹子の言葉に「それもある。楽しいよ」と凌駕。

 これまで聞いたことのない話だった。

 ただ、虹子もオンライン将棋をやる。

 そう考えると、少しだけ興味が湧いた。

 しかし今は、それ以上に聞きたいことがある。


「あのさ、橙山華って覚えてる?」と虹子。

「華ねえでしょ。覚えてるも何も……」

「たまたまコメンターで見かけたからさ」

「それは見たことない。UNITYはつながってるけど」

「えっ!?」

 思わず大きな声が出た。少し驚いた凌駕が続ける。


「代表の合宿場所が女子とかぶることあってさ。その時に交換したから」

「そうなんだ……」

「ん? 虹ねえ、もしかして華ねえとつながってないの? じゃあメッセ――」


「いやいやいやいや!!!」

 虹子は大慌てで、スマホを操作しかけた凌駕の手を両手で押さえた。

 目が合う。

凌駕「ん?」

虹子「近いわっ!」

 空いた手で、凌駕の顔を押しのける。


 小学校を卒業して別れて以来、華とは一度も連絡を取り合っていない。

 そう伝えると、凌駕は一瞬だけ驚きの表情を見せたが、それ以上は聞いてこなかった。

 凌駕は、そういう奴だ。

 ふざけて勝手に距離を詰めてくるくせに、本当に触れてほしくないところには踏み込んでこない。


 虹子の中で、ホッとした気持ちと――。

 ほんの少しだけ残念な気持ちが、交錯していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。