4 サッカーがしたい!
「はぁ!?」
凌駕の突然の提案に、虹子は思わず素っ頓狂な声を上げた。
「いやいやいや、何言ってんの!?」
スマートフォンを耳から離して深呼吸する。
事情を聞くと、東京ヤングシスターズが臨時でセレクションを実施するらしい。
トップチームが成績不振によって監督を解任。
ヤングシスターズの女性監督がトップへ昇格した際、教え子だった高校三年生を一気に五人引き上げたという。
「それで、ユースの人員が足りなくなったってこと?」
「うん。だから高校一、二年生を対象に若干名募集するんだって。すごくイレギュラーなんだけど」
「イレギュラーって……中学生もいるの?」
「ヤングシスターズって、中学と高校の合同チームだから」
凌駕によると、ヤングシスターズは中高一貫校のような仕組みで、六年間同じチームで活動しているという。
U-15の大会には東京ヤングシスターズ・ネクストの名で、中学生だけで出場するが、U-18の大会なら登録さえすれば中学生でも出場できる。
もともと中学生を多めに受け入れ、そこから競争を勝ち抜いた選手がU-18の主力になっていく。
そのため高校生向けのセレクションは滅多に行われない。
今回は、かなり珍しいケースらしい。
「私に受けろと……」
「他に何があるんだよ。そういう相談じゃなかったの?」
「勝手に決めるな。ボールが蹴りたいだけで、チームに入りたいなんて一言も……」
「虹ねえの顔に、『サッカーがしたい』って書いてあるよ」
「え……」
虹子は思わず、スマートフォンのカメラがオンになっていないか確認した。
当然、なっているはずもない。
「顔なんて出してないわよっ! もう切るよ」
「あっ、ちょ、シスターズのホームページから申し込んで!」
「じゃあね!」
強引に通話を切った。
それでも凌駕の言葉が頭から離れない。
少しためらった後、東京シスターズの公式ホームページを検索し、ヤングシスターズのページを開く。
セレクションのエントリー期限は――あと二日。
「これはサッカーの神様の導きというものか……いやいや」
虹子はいったんベッドへ突っ伏した。
しかし、すぐに半身を起こす。
タブレットで同じページを開いた。
申請フォームには、名前、生年月日、学校、所属歴などの入力欄が並んでいる。
学生証と顔写真のアップロードまで必要だった。
「うわ、めんどくさ……」
そう言いながら、手は止まらない。
学生証の画像と自撮り写真をアップロードしたところで、最後の方にある項目が目に入った。
『推薦者』
「これって、かなり重要事項じゃないのか……な?」
虹子はスマホを手に取る。
虹子:お〜い、記入事項にある推薦者って?
凌駕:ああ。俺の名前入れといて。部長に伝えとくから。
1分もたたずに返ってきた。
「軽っ!」
普通、推薦者って大人じゃないのか。
クラブの監督とか、トレセンのコーチとか……。
そう思いながらも、
『古賀凌駕/RYOGA KOGA 』
役職には、
『東京ヤングブラザーズ選手』
と入力する。
すべての項目を埋めた。
必要書類も添付した。
あとは送信するだけ。
しかし――。
指が止まった。
「あたし、ほんとに女子サッカーなんて、やれるだろうか……」
また途中で投げ出してしまわないか。
ボールを蹴るだけなら、それこそ凌駕と一対一をしたり、パス交換したりすればいい。
地元のおじさんたちの草サッカーに入れてもらったっていい。
いや。
そうじゃない。
――ライバル。
華の言葉が、胸の奥を突いてくる。
自分が情けないとか、惨めだとか。
そんな負の感情とも違う何かが、虹子を揺り動かしていた。
サッカーがしたい。
試合に出たい。
ゴールを決めたい。
勝ちたい。
そうしたら、またどこかで華とつながる。
「そして、もっと……もっと」
虹子は天井の灯りへ右手を伸ばす。あの頃の感触が少し蘇ってくる。
目を閉じ、一つ深呼吸する。
そして――
送信。
『タイムオーバーになりました。もう一度やり直してください』
「やり直しかい!」




