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フィールドの虹をかける。 〜 ep1 リスタート 〜  作者: 河治良幸
リスタート
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22/44

21 富士山タイム

挿絵(By みてみん)

 金曜日は慌ただしかった。

 午後まで学校で授業を受け、都電で自宅へ戻る。

 制服からTシャツとジャージへ着替え、すでに準備していたリュックとスポーツバッグを玄関まで運んだ。


 陽子はまだ仕事から戻っていない。

 日曜の夜には帰る予定だ。


 たった二泊三日。

 それでも、外出慣れしていない虹子にはちょっとした冒険だった。


虹子:行ってきます!

 スマホで陽子へ送信。

 王子駅へ向かった。


 目的地は静岡県浜松市。

 橙山姉妹の家がある舞阪。

 京浜東北線で東京駅。

 そこから新幹線「ひかり」で浜松へ。

 最短ルートだ。


 東京駅での乗り換え時間は10分。

 だが、それでは駅弁を選ぶ時間が足りない。

 虹子は一本早い電車に乗った。


 ――これで5分増える。

 オレンジ色のジャージ姿で電車へ乗り込み、座席へ腰を下ろす。


「うっしゃー」

 隣の会社員がギョッとした。

 虹子は無言で頭を下げる。


 前夜から何度も見ている舞阪周辺の地図を、また開く。

「弁天島♪」

 旅行雑誌を読むのは虹子の趣味だ。


 実際に行く予定がなくても、画像や動画を見て勝手に旅した気分になる。

 その中でも弁天島の大鳥居は、特別なお気に入りだった。

 海浜公園を走りながら鳥居を見る。

 そんな妄想をしているうちに東京駅へ着いた。


 売店へ駆け込み、駅弁を探す。

 口髭の男性に、

「ジャージの姉ちゃん、この『味噌カツひつまぶし風 欲張り弁当』にしとけ」

 と勧められた。


 おいしそうだ。

 でも1250円。

 予算オーバー。

 虹子は900円の「とりごはん弁当」を選んだ。

「さ〜せん」

 なぜか男性に軽く謝った。


 17時03分発の「ひかり」。

 乗り込むと、ほぼ発車と同時に弁当を開く。


「いただきま〜す」

 品川を過ぎる頃には、ほとんど空になっていた。

 食べるのは昔から早い。


「そうだ、旅行雑誌っと」


挿絵(By みてみん)


 観光する時間などない。

 分かっている。

 それでも買ってしまった。


 浜松・浜名湖を見るつもりが、富士山麓の特集に目を奪われる。

 駅から歩ける場所を探す。

 富士駅。

「そのまんまじゃん……」


 新幹線の新富士駅とは少し離れている。

 乗り換えも不便だ。

 それでも虹子は、次に来る時のルートまで調べ始めた。


 そのうち、新幹線は三島へ。

 虹子は雑誌を閉じ、窓の外へスマートフォンを構えた。

 外は少しずつ夕焼け色になっている。

 山々の上が橙色に染まり始めた。

 橙色――。

 華の色だ。


 そして。

 愛鷹山の向こうから、白い頂が現れた。

「わあっ……」


 富士山。

 巨大な三角形が、夕焼けの中へ飛び込んできた。

 虹子は瞬きも忘れて見つめた。


挿絵(By みてみん)


 城北ウイングの遠征で新幹線へ乗った時、男子たちが富士山に騒いでいたことを思い出す。

 当時の虹子は、冷めた目で見ていた。


 今なら分かる。

 サッカーを辞めたからこそ、見えるようになったものもある。


 以前の虹子は、ただ夢中で上だけを目指していた。

 そこから離れたことで、日本で一番高い山を「きれいだ」と思えるようになったのかもしれない。


 富士山タイムは、あっという間だった。

「ディーネに合格したら、次は寄ってみるか……」


 まだ何も決まっていない。

 まずはクライネに認めてもらう。

 その先は、そこからだ。

 虹子は気持ちを引き締めようとした。

 ……いや。


「それは舞阪に着いてからでいいか」

 もう一度『ぶるる』を開いた。


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