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それから数日。
つくよはまだ子供たちと同じ部屋に寝かされていた。
「あれ? つくよ?」
結の幼い声が静寂を破る。
駆け寄ったのは藍丸と千世だ。
精一杯首をひねり、朔也も心配そうな顔をした。
「結さま?」
「うん。つくよ、大丈夫?」
気を利かせた藍丸が廊下に走り出た。
すぐにバタバタと音をさせて数人の使用人が雪崩れ込んだ。
「つくよ! 目を開けたか」
「ああ……姐さん」
「喋らなくていい。それよりもおまんまじゃ」
ふと視線を移すと、いくつも欠けた土鍋を盆にのせた膳部の長が目に飛び込んだ。
「かまんでも良いほどに煮込んであるでな」
その優しさがつくよには痛かった。
「迷惑を……」
「言うな」
そう言ったのはつくよに当たり散らした女だった。
「心配はいらぬ。薬湯は定時にお出ししている。春尚さまがお確かめになっておるでな、問題はない」
顔を反対側に向けると朔也と目が合った。
「すまなんだ……つくよ」
「朔也さま……お加減は?」
「問題ないぞ。お前のお陰じゃ」
「わたしなど何も……」
それ以上何も言わず朔也は頷いた。
「さあ、ひとさじなりとも口になさい。皆が眠れずに往生しておる」
千世の言葉がつくよの胸に沁みた。
「はい。頂戴いたします」
ふと春尚はいないのかとつくよは思った。
なぜわかったのか、千世が言葉を続ける。
「春さまは戻られた。どうやら何か大変なことがあったようじゃ」
その言葉に頷くだけで返事をしたつくよは、差し出された匙に手を伸ばした。
それからまた数日。
床を払ったつくよは日常に戻っていた。
朔也の体は麻痺したまま動かない。
それでも笑い、纏わりつく弟妹の相手をしている。
「強いお子じゃ」
つくよの独り言を夏の空が掬いあげた。
「よお! 復活したか。つくよは強い子じゃな」
春尚の声だ。
「もうつくよは子供ではありませんよ」
「ああ、そうだね。だから少し厄介なんだよね」
「え?」
「いや、こちらの話さ。それよりさぁ、何か変わったことは無いかい?」
「変わったことでございますか?」
春尚の後ろで子供たちも顔を見合わせている。
「いや、無ければ良いんだ。きっと私の方が早く着いちゃったみたいだね」
羽のように軽い笑い声を残し、春尚が奥へ消えた。
「ねえ、つくよ。今日はあれが食べたい」
空気を換えるように朔也が言った。
「あれでございますか? うぅん……あるかなぁ」
「そろそろであろう?」
「そうですねぇ。ちょっと探してみましょうか」
そう言った瞬間、子供たちの歓声があがった。
普段はあまり声を出さない千世まで手を叩いている。
そのことが何よりもつくよは嬉しかった。
そして夕餉の時間になった。
いつも通りの膳に、今日は一品添えられている。
初夏だけの楽しみであるユスラウメの甘露煮だった。
「あったのか! これじゃこれじゃ!」
いくつもの布団を重ねたものに、背を預けた朔也が嬉しそうな声を出した。
食事の時だけは無理をしてでも座りたいという朔也の願いを叶えるために、つくよは納戸に眠っていた布団を集めた。
何度も天日にさらし、何度も棒で叩いた。
自分の着物を解いて大きな風呂敷を拵え、それを包んだ。
「よろしゅうございましたなぁ。まだ少し若いけれど、甘露煮にすれば上々じゃ」
「うん、来週には獲れたてが口にできようなぁ」
朔也の心臓は毒に打ち勝った。
しかし四肢の麻痺はしぶとく残り、毎日の運動と摩擦が欠かせない。
でも、朔也は生きている。
それだけで十分だとつくよは思った。
「場所はわかりましたので、お任せください」
つくよはふと胸の奥で芽生えた思いを抑え込むように声を出した。
果たして生き残ることが幸いなのだろうか。
この先に待つ運命が朔也の望むことなのだろうか。
誰にも答えが出せないこの疑問を抱えたまま、つくよはユスラウメを匙で掬った。




