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その神々しいまでの美しさに、忠尚と隆正は立ち尽くしていた。
「あれあれ、皆さんも随分と吸い込んでしまわれたようじゃ。よいよい。心配には及びませぬよ。さあさあ、こちらへ」
春尚と忠尚の体が、吸い寄せられるようにつくよへと滑っていく。
隆正は呆然と立ち尽くしたまま、その奇跡に圧倒されていた。
そして月光が赤黒く色を変えた。
「全て綺麗にいたしましょうね。遠慮なさらず心を平らになさいませ」
春尚は、体の芯に絡みついていた禍々しいほどの重みが消えていくのを実感した。
「だめ……だよ、つくよちゃん……」
そう言いながらも、今まで経験したことのない快楽のような感覚に抗えない春尚。
「御身を委ねて下さいませ」
つくよの顔はどこまでも穏やかだった。
その背中から強い光が漏れだし、月の道へと繋がっていく。
つくよの衣は焼け落ちて、陶器のように白い背中が露わになった。
「美しい……」
隆正の口からまろび出た言葉に春尚が反応した。
「見るな」
つくよが春尚の頬に手を添える。
「可愛い人」
「え?」
「春さまはかわいらしいお人じゃ」
恍惚とした表情のまま春尚が言い返す。
「そこはかっこいいじゃないの?」
「ははは、良いのは見た目だけじゃな」
忠尚が笑いながら言った。
「ふふふ……みんなかわいらしいお方じゃ。さあ、朝成さまもそろそろ目をお開けなされ」
朝成の瞼がビクビクと動いた。
「母上さまの夢でも見ておいでか? お寂しかったであろうなぁ。朔也さまもなぁ。今日より私がお二人の母の代わりとなりましょうほどに、もっとお心を寛がれなされ」
「つくよちゃん……行かないでくれよ。頼むから……ねえ、つくよちゃん」
春尚が泣きながらつくよの体にしがみついた。
「あれあれ、春さま。赤子のようじゃなぁ」
「だって! 嫌だよ。つくよちゃんと離れたくないよ」
忠尚がいち早くその輪の中から立ち上がった。
「月読の姫。我も背負いましょうぞ」
「忠尚さま?」
「あなたと御同様じゃ。私も陰陽を背負う者でございます」
「……あなたはもう十分になされました」
忠尚の顔が初めて歪んだ。
「そう言っていただけるとありがたし。されど、私には力強い跡継ぎがござりますれば」
「兄上?」
春尚が体を起こそうとした。
それをつくよの素肌が絡めとる。
「お覚悟は確かに受けとりました。さればこそ、ここは私が引き受けましょうぞ」
「それでは御身が持ちますまい」
つくよがゆっくりとかぶりを振った。
「つくよちゃん……」
春尚が指先をつくよの頬に伸ばした。
「あれあれ。春さまはまたそのようなお顔をなさって。それは朔也さまより幼く見えますぞ」
「どうでも良いよ。つくよちゃんさえ居てくれたら」
「春さま」
つくよの顔がほんのりと色づいた。
「つくよ。姉さまの毒も取り込んだの?」
朔也が泣きそうな顔で聞いた。
つくよがゆっくりと頷く。
「はい、千世さまの分も月に送りましたよ」
「姉さまの思いは……」
「千世さまは御本懐を見事遂げられてございます。私が引き受けましたのは残滓のみ」
「そうか。姉さまは見事に仇を討たれたか」
「ご立派に」
役目を終えたのか、月が静かに色を戻した。
宙に浮かんでいるような感覚が、ゆっくりと体から抜けていく。
徐々に戻る己の体の重みを受け止めながら、春尚はつくよに縋りついたまま離れようとはしなかった。
「姫、お陰で積年の苦痛から解放されましたよ。心より感謝申し上げる」
いち早く夢から抜け出た忠尚がバサリと上掛けを脱いだ。
それを優しくつくよに掛ける。
つくよの裸体が隠されたと同時に、月も雲間に逃げ込んだ。




