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 夕餉を終えた子供たちが、並んで縁側に腰かけている。


「なあ兄様、今日のご膳は少し味が薄うございましたなぁ」


 昼間に春尚から渡された黍菓子を入れた椀を、大切そうに抱えながら結が言った。


「そうかぁ? 私には少し濃いほどだったが」

 

 結の椀から黍菓子をつまみ取りながら朔也が言った。


「あら、私には丁度良かったわよ?」


 結の髪を櫛で梳いてやりながら千世が小首を傾げた。

 

「結よ、それは当たり前というものだ。皆の体に合わせて作って下さっているのだからね。見た目は同じでも、塩の加減は違うそうだよ」


 まだら模様のようになった手の甲を、月光に翳しながら藍丸が笑った。

 うっすらと雲を纏った下弦の月が、庭の池にどんよりと浮かんでいる。

 兄弟たちの話を聞きながら、つくよはいつものように布団を敷き並べていった。


「さあさあ、そろそろお薬のお時間でございますよ」


「はぁい」


 あまり気分が乗らない返事を唇に乗せた子供たちが振り返る。

 その後ろをすっと何か黒い影が過って飛び去った。

 盆にのせた猪口には、どろんとした薬湯。

 躊躇する子供たちの先陣を切るのは、いつもどおり朔也だ。


「それ、皆で一斉に飲むぞ」


 最後まで手を伸ばそうとしない結に、猪口を持たせたつくよが朔也を見て小さく頷いた。

 猪口と一緒に盆に乗っている湯飲みには、程よく冷ました白湯が入っている。

 苦いというより渋いような味の薬湯が、子供らの口に合うわけはない。

 それでも飲まなくては明日の命は知れないのだ。


「さあ、結さま。覚悟召されませ」


 つくよは心を鬼にして厳しい声を出した。

 子供たちは飲み干した猪口を放り出すようにして、湯のみに手を伸ばす。

 

「これは内緒でございますよ」


 そう言いながら、つくよは懐から干した無花果を取り出した。


「わぁ!」


 小さくちぎって渡してやると、嬉しそうな顔で口に入れる。

 

「美味しゅうございますか?」


「うん、うまい。このツブツブがなんとも旨いのぅ」


 ひび割れた頬で藍丸が言った。


「あれ? どうなされましたか? 千世さま」


 千世が両手で干した無花果を持ったまま、朔也を見ていた。


「朔也、私は腹が一杯じゃ。これはお前にやろう」


「姉さま?」


 不思議そうな顔をしながらも手を伸ばす朔也。


「よい。今宵はお前にやる」


 藍丸が何かを感じ取ったのか、小さな肩をより縮こまらせた。


「ありがたく頂戴致します、姉さま。明日かも知れませぬからなぁ」


「朔也……」


 千世が盗むようにつくよを見た。

 つくよは何も言えないまま、解れかけた肌掛けの端を指先で整えた。


「さあ、寝ましょうぞ。まだ口が甘いうちに眠れば、良い夢が見られそうじゃ」


 明るい声を出した朔也が結に手を伸ばす。


「結、今宵は私が共寝をしてやろう」


「本当ですか? 兄さま」


「ああ、結が寝付くまで物語などきかせようぞ」


 きゃっきゃとはしゃぐ声が夜の空に吸い込まれていく。

 千世と藍丸も立ち上がった。

 つくよは部屋の隅に控え、子供たちの寝息が揃うのを静かに待った。

 いつの間にかうとうとしていたのだろうか、月は天頂にまで動いている。


「明日が来なければ良いのに」


 つくよの呟きが、板床に跳ね返る。

 子供らが吐いた血の染みを、月光が黒く浮かび上がらせていた。


「おい、つくよちゃん」


「え?」


「こっちだ。こっち」


 紫陽花の植え込みの上から、美しい顔がひょっこりと覗き込んでいる。


「おいおい、大きな声はダメだぜ? お子たちが起きてしまう。少し話ができないか? ちょっとだけ出ておいでよ」


 昼間と何も変わらない調子で、春尚が手招きをしていた。


「陰陽師様? お帰りになったのでは?」


 子供たちを起こさないように縁側に出たつくよが小さな声を出した。

 紫陽花の中から抜け出してきたのかと思うほどの、美しい薄紫の衣を揺らしながら、春尚がニヤニヤと笑っている。


「陰陽師様っていうのはいただけないなぁ。それは役の名前だぜ? 私の名は安倍春尚だ。春さまと呼ぶ者が多いから、つくよちゃんもそう呼んでくれよ」


「そんな……畏れ多いですよ」


「かまわんさ。世が世なら、君の方がずっと位は上だもの」


 つくよの肩がビクッと揺れた。

 春尚の視線が鋭さを増した。

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