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「またお会いできましょうや?」
しゃくりあげながら、結がようやく声を出した。
「ああ、必ずお顔を拝見に参る」
「お約束です」
「うん、約束しよう。それまで良い子でな」
小さく頷くだけの結の横で、藍丸が真っ赤な目で口を開いた。
「はい、兄さま。どうかお達者で」
「うん、藍丸もな。さあ、こちらにおいで」
泣くのを我慢している藍丸が、握り締めた拳で鼻を啜った。
「藍丸。良い子じゃな。結を頼みましたよ」
「はい、姉さま」
朔也と千世が牛車に乗り込んだ。
結と藍丸がつくよに駆け寄る。
「つくよ……姉さまと兄さまをよろしゅうにな」
「はい。畏まりました」
「つくよ。私はお手玉が上手くなれるようにがんばるから……また相手をしておくれ」
「ええ、結さま。またお手玉を一緒にいたしましょうね」
藍丸が懐から飾り紐を取り出した。
「これ……つくよに」
「藍丸さま?」
「姉さまと色違いの飾り紐じゃ。宮の中では多少着飾らねばならぬと聞いた」
つくよは何も言わず藍丸と結を一緒に抱きしめた。
「心安らかにお過ごしなされませ」
二人は頷きながらも、つくよの着物を放そうとはしない。
「今生のお別れでもございますまい? そろそろ出立せねばいけませぬゆえ」
二人の肩に手を置いた春尚が、優しく言う。
「春さま。また来てくださいましょうや?」
「はい。もちろん参りますよ」
「うん……いってらっしゃい。つくよ」
「はい。いって参ります」
それから三日をかけて、千世と朔也は都へと向かう。
つくよは春尚と同じ牛車に乗せられ、たわいもない話ばかりをしていた。
「牛車だから遅いんだよ。馬なら半日あれば大丈夫だもの」
春尚が干した芋をつまみながらつくよに言った。
「そうなのですか? でも春さまはいつも突然に来られましたなぁ」
「私は飛べるからね」
「飛べる? お空をですか?」
「まあ、そんな感じ。実際に飛ぶわけではないけれど、同じようなものだ」
つくよは興味津々だ。
「それも陰陽師様のお力で?」
「うん。子供くらいなら抱いて一緒に飛べるよ」
「私は?」
春尚の耳が真っ赤に染まった。
「つくよちゃんはどうかな? 今度試してみようか」
「ええ、是非にも」
「え? いいの? 私がつくよちゃんを抱き上げるのだよ?」
つくよが不思議そうな顔をする。
「はい。理解しておりますよ?」
「それでも?」
つくよが声を出して笑った。
「だって便利じゃないですか。美味しいお菓子をちょうだいしたら、藍丸さまや結さまにもお届けできましょう? それに……」
「それに?」
「もしもの事があれば、千世さまや朔也さまも逃すことができましょう?」
「ああ……そうだね。でも朔也さまはどうかな。もう子供というより若者だ」
二人は同時に小窓を見た。
すぐ後ろを進む牛車には千世と朔也が乗っている。
二人の牛車は普通のものよりも大きく、横になって乗ることができるほどだ。
「朝成さまが随分と無理を通されてなぁ。あの牛車は先代の奥方さまがお遣いだったものだ。自ら帝に願い出られてなぁ。ようやくお許しを得られたのさ」
「そうでしたか。でも、お陰様でお二人のお体には優しゅうございましょう」
「……」
春尚は何も言わなかった。
牛車の横壁の小窓にかかる御簾からは、町の様子が透けて見えた。
つくよはその景色を目で追いながら、父親と暮らした数年を思い出していた。
月影の一族が持つ力や、それを隠さねばならなかった経緯など、父親は隠すことなくつくよに伝えた。
そして、なぜつくよの母が、あれほど無残な亡くなり方をしなくてはいけなかったのかも、全てつまびらかにしてくれたのだ。
「母さま……」
つくよが思わずつぶやいた言葉を、春尚の耳が拾った。
しかし、春尚は何も言わず、眠ったふりを続けている。
「父さま……」
つくよの眉がぴくっと動いた。
春尚は、その視線の先を薄目で確認しながら、ふっと顔を背ける。
都大路への大門が、軽薄なほどの朱を見せびらかしていた。




