第13話 黒一色に染められた、物
「そんなの知るか」
それは、私の話を静かに聞いてると思いきや、一切聞いてなかった。
「めんどくせぇ長文を聞かせやがって」
それは、私のきれいな腕を、汚物で握ろうとしてくる。
「これ以上抗うな。抗ったら、撃つぞ?」
その物は、カバンの中から、黒い一丁の何かを取り出した。拳銃だ。
私はそれを何度見したことか。それほどに驚いた。疑問は、もちろんたくさん出てきた。ただ、今はそんな疑問を整理してるほど、私に余裕はなかった。
「⋯⋯」
ふと後ろを振り返ると、優磨くんがいる。優磨くんも、同じように、文字通り絶句していた。
「わかったな? 俺に従え」
その動く物体は、私を引っ張った。
「⋯⋯」
私は、何も答えなかった。拳銃を出されては、何も言えない。それは、私も優磨くんも、同じだった。
「待てよ」
――そう思っていたのが、間違いだった。
あたりには、低く、どす黒い声が響いた。
「あぁ? なんだお前。撃つぞ?」
優磨くんに、銃口が向けられている。
「好きにしろ。俺にはいくらでも撃てよ」
優磨くんのその言葉に、嘘偽りなかった。ただまっすぐで、不器用な目で、その拳銃をとにらめっこしている。
「結愛には撃つな。俺は殺しても、結愛は殺すな」
「⋯⋯はぁ? お前、バカなのか?」
その物体は、なぜか笑いだした。優磨くんの、その姿勢に。
「自分の命を掛けて、他人を守るなんて――」
「それぐらい! ⋯⋯大切な、人、だから」
優磨くんの顔は、真っ赤に染まっていた。弾けそうなぐらいに。それと同時に、私も気持ちが沸騰しそうだった。
「だめ! 優磨くんには、生きていてほしいから⋯⋯」
私の口からも、気づいたら声が出ていた。
「私、ついていくから。何も言わないから」
私はそこで、口ごもる。すごく、恥ずかしい。――でも、言わなきゃ!
「私は、優磨くんが生きていれば、幸せ、だから」
「⋯⋯ふんっ」
そんな私たちの愛の宣言を、鼻で笑う。私たちを、嘲笑うように。
「なんだお前ら。バカバカしい。そんな愛だけで生きていられれば、世の中苦労しねぇんだよ!」
その物は、それだけ言うと、また歩き出した。
優磨くんを、脅して。
「⋯⋯」
「⋯⋯」
さすがに、もう何も出てこなかった。世の中の現実を叩きつけられては、何も言うことができない。
「入れ」
私は、無理やり、押し込まれた。車の後部座席に、押し込まれた。
「止まってろ」
その物は、どこからは手錠を取り出した。
それを私の手と足に掛けたあと、ガムテープを取り出した。
「何も、しゃべるなよ」
そう言いながら、私の口にガムテープを貼り付けた。
私は、両手両足が縛られた。遠くに、優磨くんの視線を感じていた。
「行くぞ」
その声とともに、車のエンジン音が聞こえる。たった今、この車はどこかへ向かって走り出したのだろう。
(優磨、くん。今頃、何してるのかな⋯⋯)
まだ別れて間もないのに、もう心配だった。ずっと私の相手をしてくれて、私はすごく嬉しかった。同時に、悲しかった。
優磨くんを見てると、何か、不思議な感覚がしていた。それが、何かはわからないけど、多分、なにかに似ていたんだと思う。
優磨くん、無理して接してくれてたもんね。強引に、恋人にしちゃったもんね。私の勝手な都合で。優磨くんを見てると、なぜか、昔のことを思い出したから。なにかが、蘇ってきたから。ずっと、優磨と一緒なら、忘れることが、ないんじゃないかな、って――。




