Newborn.
1
「――……私は、自ら釣鐘の洞窟へと入りました。そうしなければ、気が済まなかったのです」
「原因は、なんだったんですか」
「謹慎期間中、転生機を前にしてずっと考えていました。何故、失敗したのか、その原因を探るために……」
ソルエルはその場から少しだけ横へとずれた。彼女の身体で遮られていてよく見えずにいた洞窟の最奥がその運びによって明らかとなる。自然な凹凸による模様かと思っていたが、彼女が背にしていた洞窟の内壁には、その指先で彫り込んだのであろう、おびただしい量の文字や数式が隙間なく書き連ねられていた。
傍らには件の転生機と呼ばれる装置もあったが、話に聞いていたような正方形の立体ではなく、バウムクーヘンを剥がしながら食べている途中かのように、それは何層にも解体されて内容を露わにした状態となっている。
紙の堆積物のようなものだと聞いたが、文字の刻まれた紙片状の部分は上端と下端の何枚かだけであり、大部分を占める中央の内部は、紙縒りのように細く作られたコードや、何かを受け止めるための試験管のような容器などといった、無数の立体物が複雑に繋がって構築されていたようである。
壁にはどの部品がどのような機能を担当しているのか……どのようにして相互接続されていたのか……などの覚書が各所に残されており、壊れたビデオデッキを前にやけを起こして戻す当てもなくただネジを外しただとか、そういう類の無謀のようには見えなかった。
……まさか、分解してイチから解析したのだろうか。
壁の上方にはそれこそ走り書きのように単語の羅列が残されている。そのどれもが推測や仮説といった不確定要素の強いものであったが、下へと並ぶにつれて内容はより強く、断定的な書き方へと変化している。
そして、壁に余白がなくなり、次は床へと続くかといったところで、「カードリッジ破損 原料流出」と、一回り大きく強調された一文が見つかり、そこで覚書は途絶えていた。
「大樹の内部には、天使から集められたある種のエネルギーが貯め込まれていることをご存じですか」
「えぇ、まぁ。そのエネルギーを人間へと配分して、彼らの寿命を延ばす……それが大樹の機能だと教わりました」
「大樹の仕事は実際には二つあります。ひとつは天使から回収したエネルギーを人間へと割り当てて配ること。もうひとつは、回収したそのエネルギーを人間用の寿命へと変換することです」
「と、言いますと」
「天使から発せられるエネルギーというものは、本質的にはその天使を構築する無が分離したものなのです。ドライアイスが昇華する様子……とでも例えると想像しやすいかもしれません。天使を構築する無は三百年ほどの時間をかけて昇華していきますが、大樹はその際の遺物を回収しているのです」
「その無を、人間が使える形に変換することが、工場のもうひとつの仕事ですか」
「まさしく。謂わば、寿命には二種類あるわけです。人間用に加工された寿命と、天使を構築するための寿命です」
マザーは彼女の背後で分解されていた一部を指さした。試験管のように細長い、筒状に加工された部品だが、その底の曲面には注視しなければ気付かないほどの、些細なひび割れがひと欠片、小さく走っている。
「複合天使を生み出す以上、必要となるのは人間の寿命と、それと混ぜ合わせるための無です。私は転生機が、必要分の無を外部から収集するものだと思い込んでいました」
「実際は違ったということですか」
「はい。この円筒容器には本来、大樹から抽出した天使用の寿命が充填され、密閉されていたはずです。このカードリッジから天使用の寿命を一定量取り出して、所謂、種結晶の働きをする核を用意して人間の寿命と混合する……そういう仕組みだと判明しました。しかし、経年劣化によって生じた亀裂から、起点と成るべき内容物が昇華して外部へと漏出していたのです。その結果……」
……転生機は正規の手順を踏めずに異常終了した。
「転生機は緊急措置として、進行状況が全て失われてしまわないように、中途生成物を外部へ放出したと考えられます。その際に、本来同化するはずだった多数の原料を欠きながらも、天界を漂っていた『行き場を失くした寿命』は空気中の無を定着させながら不足を補いつつ発達して……」
……原料不足の半端な複合天使が生み出された。
「私は転生が完全に失敗したものだと考えていました。翼や、発声器官や、眼といった、天使を構築する器官を形作るべき大部分が残骸となっていては、自然な発生は到底望めないだろうと……」
……そうして誰にも気付かれずに生まれたのが、ルナシー、か。
あらゆる事情に合点が付いた。
何故、カミサマをも含めた上級天使の誰もがルナシーの生誕に気付けなかったのか。
つまりは、天使未満の存在だからだ。
眼が働かないことも、話すことができないことも、翼に不調を抱えることも。
全てがそこに繋がっている。
ただ、ひとつ、繋がらないのは……
「どうして、諦めたんですか」
「……このような事例を、今まで私は見たことも聞いたこともありませんでした。天使の誕生にあたり、謂わば、突然変異に近い現象によって、放棄された核が自ら天使の形へと成長する事例など……」
「では、何故、失敗した残骸を今も捨てずに抱え込んでいるのですか。何故、あなたは転生機を分解してでも失敗した原因を探り続けていたのですか。何故、取り返しがつかないと結論付けた上で、それでもなお釣鐘の洞窟にわざわざ籠ったのですか」
「それは……」
「本当は……どこかで期待していたんじゃないですか。ひょっとしたら奇跡が起きやしないかって。その残骸を捨てられなかったように、都合のよい奇跡が起きてくれやしないかという願望を、捨てられなかったんじゃないですか」
「その……通りです。私は自らの過ちを、失敗を……認めたくなかったのです」
心臓が固く拳を握る感覚があった。
私は憤りを感じていた。理由は自分でもはっきりとは分からなかった。
ただ、ルナシーの生みの親である目の前の上級天使が、私よりも大きいはずの背丈と比して随分と小さく見えて、その口から発せられる弱弱しい後悔の念のどれもが、私の心の中身を底から煮立たせた。
……今すべきことは、後悔ではないだろう。
「後悔するよりも、成すべきことがあるはずです。失われたはずの本人と、その大元となるはずだった欠片と、不具合の原因が判明した転生機……これらが全て揃った今、やらなければならないことはただ、ひとつでしょう」
「彼女の……再度の転生、ですか」
「そうです。それができるのは、ソルエル、あなただけじゃあないんですか。これ以上の後悔をルナシーに向ける必要はないんじゃあないんですか」
「えぇ、あなたのおかげで希望が見えました。その点に関して、私はあなたのこれまでの全てに対して感謝では尽くせぬ恩があります。それを踏まえて、私の後悔はこの子に向けたものに加えて、もうひとつ、あなたに向けたところにあるのです」
……私に対してとは、どういう意味だろうか。
「天使を構築するものは無です。無が形を成して天使となるのです」
「えぇ、先ほど聞きました」
「その天使の腕も足も翼も……全ての大元は無なのです」
「それが、どうしたんです」
「天使を再度転生させるために一旦全てを無へと還元するにあたり、形として戻らない不可逆的な存在がひとつあるのです。それが……」
記憶です、とソルエルは続けた。
「たとえ脳が結果的に全く同じ形状に再構築されたとしても、そこにそれまで存在していた電気的な配列などといった、その当時の瞬間までもが完全に復元されることはありません。故に、記憶がなくなるのです」
「何ひとつ、引き継ぐことはないということですか」
「真っ新な状態へと改めて作り直される、といった方が適切でしょう。誰しもが生れ落ちる前のことを覚えていないように……転生前の事柄もまた、覚えているとは考えられません」
「そう、ですか」
「加えてもうひとつ、これもあなたに伝えなければ公平ではないことがあります」
……これ以上、まだ何かあるのだろうか。
「上級天使には他の天使の寿命が見えるのです。丁度、対象としている人間の寿命を見るときのように」
そのような話は聞いたことがある。上級天使たちから寄せられたそれら情報をもとに、カミサマは天界における天使の総数の推移を予測し、新たな天使の増産を適宜行っているとのことだ。ただ、上級へと昇格した天使の寿命は見えないらしい。XOの急逝もそれによるものであった。
「この子の寿命は、十年で尽きるのです」
ソルエルはそう明かしたが……直ちには納得できなかった。
天使の平均寿命は三百年前後のはずだ。XOは三百と十数年生きたが、別段、上級天使に限った話ではない。上級天使であろうとそうでなかろうと、天使はそれくらいの年月を過ごしてから無へと還る。
それが、たった十年だとは、にわかには信じられなかった。
私の今日まで生きた時間の五分の一も過ごすことなく、ルナシーは無へと分解されるらしい。
一体、何故。
「こればかりは複合天使の宿命です。人間の寿命が持つ無を引き寄せる力……求心力とでも呼べるものは、その潜在的な部分によって強弱がはっきりと分かれます。強い肉体に宿っていた寿命はそれだけ強い求心力を有するため、それをもとにして生まれた複合天使も相応に長く維持できますが……その逆もあるのです」
天使として所謂、仮組みの状態であるルナシーをその目で診断したソルエルの言である。
求心力は、このままであろうと、再度転生させようとも、変わることはないらしい。
……以前、エリオットが言っていた「短い」という評価は、ルナシーの余命のことか。
ということは彼も、XOも、メトセラも、上級天使たちは皆が皆、ルナシーに与えられた猶予の短さについて承知の上で、その今後を私に一任していたということになる。
思わず、私の隣に座っていたルナシーに目を配った。私とソルエルの長い話に退屈していたのか、その渦中にあるはずのルナシーは釣鐘の洞窟内をきょろきょろと見回しては、物言いたげに私を見つめていた。どうやら外で遊びたいらしい。
「……本当によく似ていますね」
「何の話です」
「転生する前、この子はよく絵本を読んでいました。少し捻くれたところのある天使が、もっと捻くれた人間たちと出会って、彼らを諭すうちに、自らも成長していく……そんなお話です」
その絵本に出てくる天使と私はよく似ているらしい。
姿形についてか、それとも内面についてか。
ソルエルは両方だと告げた。
「この子の親は、私ではなく、あなたです。だからこそ、あなたに決定権があるのです」
ソルエルから提示された。
このまま天使未満のルナシーと十年を共にするか。
それとも天使として生まれ変わらせて私のことを忘れさせるか。
二つにひとつだったが、答えはとっくに決まっていた。
「もう一度、ルナシーを転生させてください」
「本当に、それでよろしいのですね」
「えぇ、決まっています。ルナシーは、彼女は、天使を望んだんです。たとえこの子の寿命が十年でも、一年でも、一か月でも、一日だけだとしても……私は彼女が望んでいたことを、叶えることができる道を選びます」
「……承知しました。それでは準備に入ります」
2
夕暮れに空は赤く染まり、釣鐘の洞窟の表面もまた赤みを帯びてきらきらと照っていた。
一か月前の光景を思い出す。飛行場で躍起になっていた私と、飛べる兆しを全く見せなかったルナシー。僅か一か月前のことが大昔の出来事に思えて、懐かしさに胸の奥が熱くなった。
狭苦しかった洞窟内から外に出たルナシーは解放感に身を喜ばせながらひゅんひゅんと風を切り、空を舞う。その鮮やかな飛翔の腕前に今一度感心し、目が離せなかった。真っ当な天使と遜色のないどころか、遥かに上回っているだろう。
そう、ルナシーは不足を努力で補ったのである。他の誰よりも小さな翼を、他の誰よりも大きな意欲によって育み、天使へと一歩踏み込んだといえる。
ならば……その眼についても、声についても……もしかしたら努力で取り戻すことができるかもしれない。
そのような考えが私の躊躇いを助長して、未だに迷いを残し続けていた。
……努力でまかなえるのであれば、どれだけ良いか。
その願望がルナシーのため以上に、私のために湧き上がっていることを、自分自身が認めていた。
ルナシーの寿命はこのままでも、再転生したとしても、核となる「行き場を失った寿命」の性質上、十年しか持たないらしい。
彼女の有する尊い時間を、私のことを忘れてほしくないという都合のせいで、不確かな期待を実現させるために使わせる……私の願望はそのような流れへと結び付く。
……そんなことを私は望んでいない。
それが紛うことなき本心で間違いなかった。
間違いない、はずなのに。
それでも私は、ルナシーの中から私の存在が消えることを……
「…………!」
ルナシーの影が私の立つ影に重なっていた。あれだけ苦心した滞空も、今や呼吸や瞬きと同じらしい。空から両手が差し伸べられている。その手を取り、私も宙へ舞った。
私の両翼はばさりばさりと羽ばたいていたが、その頻度は時間と共に少なくなり、やがてただそこに在るだけとなった。浮力へと割いた意識を、繋いだ手へと徐々に移す。目を閉じ、身体に張った力の全てを抜く。
それでも、私が落ちることはなかった。
「……ほんとに、凄いよ。タンデムまでできるなんて」
「……………………」
「お世辞じゃあないよ、本当にそう思ってる」
「……………………」
「これだけの技量があればきっと、いや、必ず、転生してもやっていけるよ」
「…………」
「だから私がいなくても……もう、大丈夫」
私はルナシーを手繰り、仰向けの身体の正面に寄せると、空で眠った。
その感触を、温もりを、彼女がここにいたという存在を、忘れないために。
――……やがて、呼びかけが聞こえた気がした。
目下に広がる延々の大地の薄桃と、離れに位置する黒曜石が如き釣鐘の洞窟群。そのどちらも、今は暗がりの中にある。
どれだけが経ったのだろうか。夕陽は姿を隠し、明るさと呼べるものはもう微かにしか感じ取れない。代わりに、空には星々の中でも一等速足のものが既に姿を見せて輝いている。もう数時間もしない内に、頭上には普段通りに星空が敷かれることだろう。
……いや、「普段通り」ではない、か。
私の胸に頬を乗せながら、ルナシーは穏やかな寝顔で、普段通りにそこにいた。
……驚かされてばかりだ。まさか、居眠り運転までできるなんて。
その方が都合は良かった。
これからルナシーは一度死ぬ。死ぬというのは人間臭くて大仰だが、似たようなものだ。全てが無に還った後、ソルエルが保存していた名も知れぬ誰かの寿命の欠片と混ざり合い、今度こそ天使と成る。
不可逆な死ではない。無に還るのだ。そして、いつかまた他の天使の一部となって生まれ変わる。そのことを皆が理解しているため、誰も無に還ることを怖れたりはしない。
ただ、まぁ、身体が分解してゆく感覚は極楽浄土のものとは言えないだろう。痛み、苦しみ、悶えるようなことはないとのことだが、実際に体感したことがないのだからその辺りについては例えようも、断言のしようもない。ならば、眠っている間に全てが新しくなっている方が、当人にとっては望ましいことだろう。
私はルナシーを起こさぬようその腰に手を回し、格納していた両翼を再び具現化させながら、地表寸前までそろりと降下した。その低空飛行を維持したまま、その場を離れ、ソルエルのもとへと向かった。
「お待たせしました。全ての準備が整っています」
釣鐘の洞窟を潜ると、その奥にはソルエルが先と変わらぬ姿勢で鎮座していた。私の手元で眠るルナシーを気遣い、声量は控えられていたものの、透明感のある響きはそのままに伝わった。
「よく、眠っていますね」
「頭を撫でるとすぐに寝付きます。そうでない時でも、時々気にかけてあげてください」
「えぇ、必ず」
「飛翔の技術は卓越しています。初見の人間界でも飛べるほどに」
「人間界に……降りたのですか?」
「降りたというか、落ちました。だけど、無傷で不時着できたみたいです」
ソルエルは興味深げに、先日の一件についての私の話に耳を傾けた。
「なので、機会があれば出張を任せてあげてください」
「はい。いずれ、その機会を用意します」
「満足には受けさせてあげられませんでしたけど、座学にも興味があるみたいです。あなたも開講しているとのことでしたよね。そのときは誘ってあげてください」
「勿論です」
「あぁ、あと、それに……」
私はこの一か月で知り得たルナシーの特色をソルエルへと伝えた。ひとつ気掛かりが思いつくと、関連した別の事柄も芋蔓式に引っ張り出され、その全てを余すことなく伝えなければ気が済まなかった。
そのようにして膨れ上がった連絡事項もやがては落ち着きを得て、あれもこれもと枚挙に暇がなかった状況は、あれはなかったかこれはなかったかと、いつしか自分から探しに行かなければならないまでとなった。
引継ぎに関して懸念の一片もないと言い切れるまで、私は考えに考え抜いて、話し続けた。
この唇の止まった時が、即ち、この子との別れになるのだから。
ずっと語り続けていたかったが、私の口がこれ以上に綴ることは、もうなかった。
ここから先はソルエルと、この子が作り出すんだ。
「よろしくお願い、します」
「確かに、聞き遂げました」
ソルエルの隣には再び組み上げれた転生機が置かれている。合わせてその上には、本来取り込まれるはずだった欠片が集められ、歪ながらも球体状に成形されている。この欠けた部分を、ルナシーを分解して生み出した無で補完し、転生機を稼働させる直前の段階まで復元する必要がある。
ソルエルはルナシーへと指を伸ばし、その身体に優しく巻き付けると、そっと持ち上げて正面に掲げた。
そこで一度動きを止め、彼女は私を再び真っ直ぐに見つめて確認した。
「これから転生の儀を執り行います」
「はい」
「先ほど話した通り、この子の記憶は残りません」
「理解しています」
「お別れは、済んでいますか」
これが最後の機会ですと、ソルエルは念を押した。語りかけるなら今しかないと。
引継ぎを終えた時点で私の役目は終わっていた。この子の母親はソルエルとなり、記憶は一新され、私という存在は抹消される。
だから、そのような赤の他人となる私が今更何を話すべきか、迷った。
話したところで忘れられるのだ。
だから、私が最後に口にすべきは、自らに区切りを付けるための一言だった。
「……ねぇ、ルナシー」
ソルエルの指に支えられ、ふわりふわりと浮いていたルナシーは、私の呼びかけに反応して薄目を開けた。ゆりかごに包まれ、幸せそうに夢見心地であった。
「えっ、と……あれっ、何で、だろうな……」
口を動かそうとすると、眉間が無意識に寄って、鼻からの呼吸が難しくなり、喉の奥を熱い靄が突き上げて塞いだ。
目頭を親指で抑えても、天使の指先が濡れることはない。分かっていたが、確かめずにはいられなかった。
「XOの願い通り……あなたが『立派な天使』になるまでを、見届けたよ。だから……私の教育係の任期は……ここで、オシマイ」
ひとつ、ひとつ、胸から絞るようにして声に出した。
時折しゃくりあげるかのように喉が震え、その度に言の葉が途切れてしまう。
もっともっと、話したいことはあったが、長々とした別れを流暢に済ませる自信がなかった。
だから、今日まで面と向かって言えなかった思いを、一言に凝縮して、
「一緒にいることができて……うん、楽しかったよ」
それだけを伝えて、ルナシーの瞼に指先を重ねた。
ルナシーの瞼を下ろすと彼女は口元を緩めて、夢へと落ちる直前に返事を残した。
「… … … …」
やはり声はなかったが、確かに聞こえた。
3
「――……見届けなくてもよろしいのですか」
「思ってたよりうんうんうるさい音がしますけど、その転生機は本当に万全なんですよね」
「えぇ、完璧に復元できたと確信しています」
「なら、私が心配するところはないです……ソルエル、今度こそあなたがついているのだから、尚更」
「信頼してくださり、ありがとうございます」
「それに、この子の新しい生に、私が横槍を入れるワケにはいかないですから」
「名前も決めなくてよろしいですか」
「えぇ。親はあなたですから。ソルエル」
「そう、ですか」
「あぁ、ただ、やっぱり、その……要望みたいなものを出すことはできますか」
「勿論です。なんなりと」
「笑顔が、よく似合っていました」
「わかりました」
「それじゃあ、私は自分の工場に戻ります」
「後は、お任せください」
「はい。 ……じゃあね、バイバイ……――」




