23、渡会若狭
嵐のように現れたマリアは、帰りは大人しく帰っていった。一度は死を覚悟した朝光だったが、今は無事生きている。若狭のおかげだ。
一難去って落ち着いた今、新たな問題が朝光に迫る。若狭が何故ここにいるのかという疑問だ。
朝光とは比べ物にならない程に魔力量も多く魔法に長けている若狭だが、異世界を渡る術などはなかったはずだ。それとも、会わなかった十日ほどで身に着けたとでもいうのだろうか?
「若狭……」
「ん? ……何?」
不思議そうに朝光を見つめる若狭に質問しようと口を開いた時、朝光の名が聞こえた。
「朝光!」
振り返った先には駆け寄って来る一巴の姿。見るかぎりでは怪我などはないようで、朝光は安心する。
「誰……? さっきの奴の仲間?」
同様に一巴に気が付いた若狭が、敵意を隠す気もない視線を向けた。
「安心しろ、あの子は敵じゃない」
朝光が若狭を窘めると敵意は薄れたが、視線には棘があり完全には警戒心を解くには至らなかった。
「……その人は誰だ? 急に現れたように見えたけど」
一方、一巴は探るような視線を若狭に向けるものの、朝光と親密そうな雰囲気を見た為か若狭が敵ではないとは思っている。
「俺の妹の若狭だ」
「妹って……まさか!」
「ああ、俺と同じ世界線の若狭だ。間違いない」
この世界線に朝光や若狭がいるのかどうかはわからない。しかし今目の前にいる若狭が自分と同じ世界線から来た妹自身であることは調べずとも朝光にはわかっていた。
「こっちは一巴だ。俺の信頼する仲間だ」
「……仲間」
朝光の言葉に若狭は一巴をじっと見つめた。
「よろしく、若狭」
一巴が笑顔で差し出してきた手を、一瞬ためらったものの若狭は握り返す。敵意も邪気もない一巴の笑顔に若狭の警戒心も少しは薄れたのかもしれない。朝光は安堵した。
「なあ、伊三は? どこにいるんだ?」
見るかぎり見当たらない伊三が心配になった一巴が朝光に問う。
あっという声が朝光から漏れた。朝光とて別に忘れていたわけではない。突然の若狭の登場で頭から吹っ飛んでいたのだ。
「若狭、頼みがあるんだ!」
真剣な顔で、若狭に詰め寄る朝光。若狭の治癒魔法なら伊三の怪我を治すなど容易い。
「いいよ、お兄ちゃんの頼みなら何でも聞いてあげる」
若狭はふわりと微笑むと、内容も聞かずに承諾した。返答を聞いた朝光は速攻で若狭の手を引くと更衣室へと駆け込んだ。
更衣室には荒い息でうなされる伊三が寝かされていた。意識はまだない。出て行った際と何一つ変わっていない。
「伊三!」
伊三の姿を見るや、一巴がそばへと駆け寄った。そして不安そうな瞳で朝光を見上げてくる。
「若狭、頼む!」
「任せて!」
聞きたいこともあるが、若狭は今はそれどころではないと察して短く返事だけを返す。一巴の隣に座り込むと伊三に向かって手を翳す。すると若狭の手からほうと光が漏れ出る。それは彼女が朝光を治療した時に出た光と同じ光だった。
光に包まれた伊三の傷は見る見るうちに癒えていった。先程で真っ赤な顔で唸っていた伊三は、安らかな顔で寝息をたてている。時期に目を覚ますことだろう。
「……すごい! これが魔法?」
キラキラと羨望の眼差しで若狭を見つめる一巴。
「これでこの子はもう大丈夫」
一巴にそう優しく微笑んだ後、くるりと朝光を振り返る。その目は座っていてどこか怖い。
「今度は私の番。ここはどこか、今までお兄ちゃんが何していたのか全部教えてくれるよね? お兄ちゃんの頼み事聞いてあげたんだから」
「は、はい」
落ち着いたら若狭に今までの事やこれからからのことなど話し合わなければならないと思っていた朝光は大人しく頷く。決して若狭の威圧感に負けたわけではない。




