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27、恋愛脳

 ところ変わって、華胥:鎌倉、十種香本部。

 会議室に十種香のメンバーたちが集められていた。リーダー、副リーダーの両名はまだ来ておらず、会議中の緊張感はまだない。気楽な雰囲気で会話を交わしている。


「緊急の集合ですけど、なにがあったのでしょうか?」

「あー、多分あれや。こないだの会議でいっとったやつ……」

「あぁ、異能力(ガーペ)を持った男がいるとかいないとかって……」

「えー、なにそれ! 詳しく聞かせて!」


 満天、コツメ、里美が今回集められた理由について話していたら、向かいから声が掛かった。桃色の髪に目を引く派手な髪飾りを付けた女性が大きな目をさらに大きくして、興味津々で身を乗り出して聞いてくる。

 彼女は十種香『甘松(かんしょう)』、千坂(ちざか)(あや)。先日の招集では出張中で参加できなかったために、満天たちの会話にとても興味があるようだ。


「あー、綾ちゃんこないだの会議欠席だったもんね」

「後日会議の資料こーへんかった?」

「あー、貰ったかもー。面倒で見てないけど」


 てへっと舌を出して誤魔化す綾。

 何らかの事情で会議を欠席した者には、後日議事録を欠席者に渡すことになっている。当然綾にも先日の会議の議事録は渡されていたのだが、そめんどくさがり屋の彼女は読むことなく机の上に置きっぱなしにしてしまっていた。


「えっとですね、先日東京に不法侵入した方がいたのですけど、その方と現地の男性が争っている映像を見たんですよ」


 綾に説明するために満天が思い出しながら語り始めた。


「なんとそいつな、妙な風起こしはってん。そらどう見ても異能力やろって思ったんやけど、男が異能力なんか使えるわけないやん? せやからそれを調べるためにリーダーはんからの依頼を受けて、竜子はんが調査に派遣されてん」


「まあ、結局竜子ちゃんは何もわからずじまいで帰ってきたのだけどね……。っで、そのあとすぐにマリアちゃんが派遣されたらしいの。彼女の異能力なら何でも丸わかりだからね」


 満天の言葉を引き継ぐようにコツメ、里美が続くように説明した。


「っで、結局どうだったの?」

「わからへん。多分、今日発表するんちゃうんかな?」

「まあ、わざわざ全員集めるってことは異能力持ち確定なんじゃない?」

「ふーん……」


 自分から聞いておいてから、綾は色とりどりのネイルが施された長い爪を見ながら興味なさそうな返事を返す。


「どっちでもいいけど、クリスマスに任務は勘弁してほしいな~。私ねー、デートの予定入ってるんだー!」


 弾む声で綾は言う。綾は仕事よりもプライベート優先。出来るだけ残業などしたくはないし、休日出勤などもってのほか。有給は全部使い切るタイプの人間である。


「先週から付き合い始めた彼女はねー、好みの子じゃなかったんだけどー、私にべた惚れでさぁ。なんでもわがままきいてくれちゃうの!」

「そ、そっかー」


 引きつった笑みを浮かべながら里美が生返事を返す。他の二人も同じような表情だ。

 とはいっても、三人が微妙な表情になっている理由は、仕事の話から突然ののろけ話に話が切り替わってしまったからだ。決して綾の恋人が女性だからという訳ではない。

 女性しかいない社会で女性同士で付き合っているのは至極当然のことと言えよう。むしろ彼氏がいると言われた方が驚いた。

 満天たちが、冷ややかな目で見ていることなど気にすることもなく綾ののろけ話は続く。自分語りの好きな人間で、ほおっておくと何時間でも喋ってしまう。そうなってしまえば、止めることなど誰にもできない。

 我の強い竜子ですら止めることも逃げることも出来ずに、一時間強ぶっ続けでマシンガントークの餌食となったことがある。最後の方には白目をむいていたほどだ。

 三人共お喋りは嫌いではないが、限度というものがある。三人して早く会議始まらないかなと心底願うのだった。


「全員揃っているな。会議を始めるぞ」


 開かれた扉から、タイミングよく沙也可と奈津が現れる。滅多なことで綾のお喋りは止まらないのだが、流石に会議になれば口を閉じざるを得ない。

 先ほどまでの緩んだ空気は一瞬にして、引き締まった。


「各々聞いているかもしれないが、我々が調査対象としていた男性『渡会朝光』捕縛の件だが、失敗に終わった」


 そのことはすでに皆知っていたようで、これといった声は上がらなかった。ただ一人、マリアが苦々しい顔をして俯いていただけだ。

 沙也可に対してあれだけ自信満々に語ったというのに失敗してしまった。プライドの高いマリアは堂々と顔を上げることも出来ないどころか、今この場にいることも苦痛でしかないだろう。


「しかし、かといって何も得られなかったわけではない。この度調査に赴いた『零陵』の異能力によって、奴の正体が明らかになった。結論から言うと、『渡会朝光』は異能力持ちではない」

 沙也可の言葉にざわざわと室内が騒めく。しかしそれを、奈津が冷静な声で窘めるとすぐにおさまった。

 静まった室内に凛とした沙也可の声が再び響き渡る。


「異能力は持っていない。が、奴は魔法が使えるようだ。とは言っても、自由に使えるものではないらしいので怯える必要はない。運よく発動できても、大した威力ではないらしいからな。魔法などとおとぎ話の世界のようなもの、にわかには信じがたいが、どうやら『渡会朝光』は魔法というものが日常的に使われている世界線から来たらしい」


 再び会議室がざわめきに包まれる。先程と同じように奈津が静かにするように注意するものの、声のボリュームは下がることなく彼女の声はざわめきにかき消される。止めても無駄ということが分かっているのか、沙也可は黙ったままだ。


「えー、ウソくさーい! 妄想じゃないんですか?」


 綾が口を挟む。皆同じようなことを思っていたようで、誰も止める者はいない。沙也可も綾を咎めることはなかった。むしろ、肯定するように頷く。


「君らの意見はもっともだ。そんな妄言にわかには信じられないだろう。しかし、これを見てもらったら少しは信用できるのではないだろうか?」


 沙也可の言葉を受けて、奈津がプロジェクターを起動させた。暫くして、スクリーンに画像が写される。そこに写されたのはマリアと対峙する朝光。朝光が追い詰められた時突如現れた若狭。その後マリアが撤退するまでのシーン。


「!!」

「……渡会若狭!」


 再び会議室内が騒めく。驚愕するもの、疑うもの、幽霊でも見たかのように固まる者。反応は皆様々だ。


「なんで……! 若狭は二年前に死んだはず! 私、葬式にも行ったし……!」


 里美が信じられないという表情で思わず立ち上がった。

 立ち上がったもののとっさの感情に任せたものだったのだろう。奈津に着席するよう周囲されると、少し恥ずかしそうに慌てながら座る。


 この世界線での渡会若狭はすでに死んでいるのだ。『緑の聖女』と呼ばれていた彼女は、二年前に最愛の姉を亡くしたことにより、後を追って自死した。

 当時の十種香の中でも抜き出た実力を持っていた彼女は、度々メディアに取り上げられていたので一般人の間でも有名だった。そのため当時まだ十種香ではなかった者たちも渡会若狭のことも、彼女がすでに死んでいることも知っている。この場にいる誰もが、スクリーンに映る若狭を何者なのか懐疑的な目で見つめていた。


「なぜ死んだはずの彼女が生きているのかと皆思っているだろうが、この映像に映っている渡会若狭は我々の知る渡会若狭ではない」

「What? ドーユーコト?」

「まさか、別の世界線から来た……?」


 里美の言葉に、沙也可は肯定するように深く頷いた。


「詳しい話は、実際に会ったものから聞いた方が早いだろう。マリア」

「はい」


 沙也可に名を呼ばれたマリアが立ち上がる。沙也可の目配せに頷くと、一同を見渡した。先ほどまでの苦々しい表情は既になく、いつも通りのクールで澄ました表情に戻っていた。

 マリアは軽く息を吐くと、沙也可から引き継いだ話を始めた。


「先日私は渡会朝光の調査のため東京へ赴きました。渡会朝光の異能力の有無を見極めている途中に突如眩い光が辺りを包み、気が付くと目の前には植物の壁が出来ておりその中から彼女――渡会若狭が現れたのです」

「それは、映像みりゃーわかんだよ。アタシらが知りたいのはアンタしか知りえない心中の情報だ」


 マリアの話に、竜子が横から口を挟む。先程からスクリーンに流れる映像は竜子の言う通り、まさにその場面を映している。

 遮られてマリアは苛立ちを隠すことなく竜子を睨む。


「見極めるって……。もしかして君は捕縛対象である渡会朝光を殺す気だったのかい?」


 瀬名が顎に手をかけながら、マリアに質問を投げる。マリアの異能力なら質問するだけで、全てが事足りることを知ってるからだ。それ以上のことをやる必要などどこにもない。

 瀬名に指摘されたことは、事実だ。実際にマリアは朝光を殺す気だった。否定することも出来ずマリアは瀬名に視線を向けたまま黙り込んだ。


「『蘇合』、『沈香』やめなさい。今はその点については追及しない。続きを話したまえ」


 沙也可の仲裁にホッとマリアは息を吐いた。そして、話を続けるために再び口を開く。


「渡会若狭の心中は私の異能力で見ることが出来ました。間違いなく、幽霊でも幻でもありません。二人の心の声を合算すると、彼らは兄妹で、二人ともこことは別の世界線から来たようです。しかし、二人とも何故今あの場にいるのかを自分自身でもわからないようでした」


 世界線など物語の話だ。未だに信じがたいが、マリアが読心術をもってしてみたことだ。間違いではないだろう。

 死者が蘇ったと言われるよりは幾分かまだ信用性がある。


「渡会朝光と渡会若狭は兄妹……」

「ミステリーはますます深まりますネー!」

「同じ苗字だとは思っていたけどねぇ……」

「じゃあ、渡会朝光(ともみ)は? どうなるんだ?」

「誰ですかそれ?」


 聞き覚えのない名前が聞こえて満天が疑問を投げかけた。


「あ、そっか。満天ちゃんは知らないよね。若狭の双子のお姉ちゃんだよ」


 満天の質問には、隣の席の里美が答えた。

 若狭の姉、渡会朝光(ともみ)は十種香ではなく一般人だ。

 十種香であり有名人である妹若狭とは違い、姉朝光のことは知らないものが多い。


「真野さん、そのことについては何かわかりますか?」

「申し訳ありません、渡会朝光(ともみ)の存在まではわかりませんでした」


 奈津に聞かれたマリアは首を横に振る。

 マリアの異能力では、相手のことをなんでも知りえるわけではない。だが若狭か朝光本人に質問すれば何かわかったかもしれないが、あの時マリアにはそんな余裕などなかった。

 十種香の資料では若狭の兄妹は姉のみになっている。その姉も若狭同様に今は亡き人だ。

 対して渡会朝光(ともみつ)の兄弟は妹の若狭だけ。ここのいる者たちは誰も知りえないことではあるのだが。


「もしかして……、別の世界線では、朝光(ともみ)さんが男になっているっ……。とか?」


 満天がふと思いついたことを口にする。その瞬間一斉に視線が満天へと集まった。皆がそれぞれに「なるほど」とか「その可能性もあり得る」など口にしている。


「え、えっと。ふと思いついただけです! 理由とか何もないです!」


 満天としてはただの思い付きを口でしかなかった。きっと誰か、コツメ辺りが「そんなわけないやろ!」と横から突っ込みを入れるだろうと思っての発言に過ぎない。

 だというのにツッコミも入らないどころか感心されるといたたまれず、今すぐこの場から逃げ出したくなってくる。


渡会朝光(ともみつ)渡会朝光(ともみ)って、ことですか……。可能性としてはありえますね」


 奈津が感心したように呟くと、満天はますます縮こまる。


「だとしたら問題は別の世界線の渡会兄弟がこの世界線にきた理由が私は気になるね」

「それは、本人たちもわかっていないと先ほど言ったはずですが……」

「うんうん、わかっているさ。ただ私が気になって気になって夜しか眠れないって話ってだけさ」


 マリアの棘のある物言いも気にすることもなく瀬名は軽口で流す。


「今この場でいくら議論しても答えは出ない。今は保留にするほかないな」


 渡会兄弟の件に一旦区切りがついたところで、奈津が口を開いた。


「真野さん、続いて別件の報告お願いします」

「はい。渡会兄弟の件とは別件になりますが、もう一つ……。東京で男の振りをして暮らしている女の子を見つけました」

「!」

「『零陵』、詳細を」

「名前は宇都宮一巴。彼女は異能力を保持していません。そのことで華胥に居づらくなり出て行ったようです」

「あらあらまぁまぁ。可哀そうだわ、すぐに保護しないと……」


 奈津が心配そうな声を上げる。子ども好きの彼女は、子どものこととなるとつい過剰に反応してしまう癖がある。

 一巴自身は子どもという年齢を既に過ぎていると怒るかもしれないが、奈津としては二十歳以下は全て子どもだ。まあ、一巴は実年齢よりも些か幼く見えるので奈津は彼女の年齢をもう少し下に見ているかもしれないが。


「『青木』会議中だ。慎みたまえ」

「あら、ごめんなさい。私ったらつい」


 奈津の癖を知っている沙也可は、彼女が一巴を保護するために行き過ぎた行動に出るのではないかと不安に思う。

 そんな心中を知ってか知らずか、奈津はのほほんと笑うだけだ。


「なあ、リーダーはん。女性で異能力がないなんてあり得ることなん? うちは一切合切そないな話聞いたことあらへんのやけど」

「……『沈香』。前例はあるのか?」


 十種香で唯一医師免許を持つ瀬名に話が降られる。専門外なことはいくら十種香リーダーといえでもわからない。

 この辺の話は専門に任せるべきと考えた。餅は餅屋という訳だ。


「異能力がない女性なんて聞いたこともないな。本当にこの子の異能力はないのかい? 幼いのだからまだ開花してないだけか、異能力を感知できていないだけでは?」

「その辺のことは本人もわかっていないようでしたので、私には何とも……。ですから、それを調べるためにも彼女には何としてでももう一度華胥に戻ってきてもらいたいのです」


 マリアは一巴がまだ異能力を開花できていないだけなのだと考えている。そしてそれを華胥にいる異能力の専門家であれば必ず解決できるであろうとも信じているのだ。


「っで、どうしますかリーダー? 既に上から何かしら指令が下っているのでしょう?」


 全てを理解したうえで、奈津が沙也可に問いかけた。


「当然、保護する。宇都宮一巴も、もう一人の渡会若狭もだ」

「リーダー。アイツはどうすんだ? 朝光の方だ。殺すのか?」


 朝光の能力が魔法であるとわかった以上、今後は彼を殺すという選択肢に変わる可能性も十分にありえる。それを決めるのは沙也可を含めた上層部の連中だ。決定された場合には、竜子には口を挟む権限などどこにもない。

 ないが、きっと彼女は大人しくその命令を飲むことはしないだろう。


「いや、捕縛する。彼にはまだわからないことが多い。研究対象としての価値があるとの上の判断だ」

「よし! じゃあいつやるんだ? 当然アタシも出るからな!」


 今すぐにでも飛び出して行ってしまいそうな竜子に、沙也可は落ち着けと窘めた。

 そして勿体ぶるように一拍置くと、今日会議を開いた目的である事柄を口にする。


「一週間後の十二月二十四日。大規模な任務を行う。場所は東京。目的は渡会兄妹及び、宇都宮一巴の保護。こちらの意思に背く場合は手荒な真似をしてでも捕縛。絶対に殺すな。特に一般人である宇都宮一巴は傷つけるな」


 女性二名の保護と、男性一名の捕縛。しかも一巴はともかくとしても、他の二人は簡単に捕まえられるような弱者ではない。

 しかも任務場所は東京だ。騒ぎを聞きつけた男たちが駆けつけて、邪魔をしてくる可能性も考慮すべきだろう。特にレジスタンが介入して来たら戦闘は避けられない。

 この場にいる誰しもが、今までにないくらいの大掛かりな任務になるであろうと考えていた。そして、そのメンバーの中に自分がいるでのではないかという期待、または不安で皆が沙也可を見つめる。


「出撃メンバーは『蘇合』、『白膠』、『甘松』、『薫陸』、『欝金』。サポートに『鶏舌』、『沈香』。それと今回は私も出る。以下九名で任務を行う」

「ちょっと待ってください!」


 マリアが慌てたように声を上げた。今しがた告げられた中に、自分の名前だけが含まれていなかった。それを彼女は不服に感じた。


「なぜ私だけ外されるんですか!」

「『零陵』君は先日出撃したばかりだ。怪我もまだ治りきっていない」

「このような怪我大したことありません!」

「すでに決定したことだ。異論は認めない」


 有無も言わさない沙也可にマリアはただ黙るしかなかった。

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