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24、妹

 突如現れた乱入者にその場にいた誰もが驚き少女を見つめる。少女は立ち尽くしたまま微動だにしない。今自分が置かれた状況をわかっているのかいないのか、ただぼんやりと眼前を見据えている。


渡会(わたらい)若狭(わかさ)……?」


 立ち上がることも忘れて、目の前の少女を凝視したままマリアが呟いた。心を読める彼女がそれほどまで驚くことなどそうそうない。青ざめた顔は驚きというよりはむしろ恐怖に近かった。まるで幽鬼でも見たかのようだ。いったいどうしたというのだろうか。


「なんであなたがここにいるの……? あなたは死んだはずでしょ? 第一なんであなた自身が何もわかってないのよ!!」


 裏返った叫び声はもはや金切声にも等しかった。彼女の声は埃が舞う廃墟の中、虚しく響く。

 少女は何も答えない。ただただ二つの黒い瞳で叫ぶマリアを見つめるだけだ。


「何か、言いなさいよ……!」


 沈黙に耐えかねたマリアが今にも泣きそうな声で、叫んだ。依然、返ってくるのは沈黙だけだ。


「わか、さ……?」


 静寂の中、ぽつりと漏れたその声は朝光のものだった。今までと同じように少女はまた無反応、かと思われたが彼女はくるりと振り返った。その視界に朝光を写した途端、無表情だった顔はみるみると泣きそうな笑顔へと変わる。


「お兄ちゃん!」


 そう叫ぶやいなや、少女は朝光へと抱き着いた。


「っぐぅ!」


 タックルかと思うような、勢いで抱き着かれ朝光は痛みに呻く。無傷の時であれば少女を難なく受け止めることが出来たのだろうが、今は満身創痍。倒れることなく受け溜められたのが奇跡に近い。


「キャー! お兄ちゃん怪我してる! 待ってて今すぐ治すから」


 朝光の呻き声に、ガバリと身体を離す。そして朝光の体が怪我だらけなことに気が付いた少女は、悲鳴一つ上げると慌てながら朝光の右足へと手をかざした。

 少女の手から柔らかい光が溢れ出し、傷を包み込む。すると不思議なことに次の瞬間には、なにもなかったかのように傷はキレイに跡形もなく消え去っていた。

 同じように、左足、顔、脇腹の怪我を次々と癒していった。


「……あなた、そんな異能力も持っているなんて、聞いてないわよ」


 小さな絞り出すようなマリアの声は、誰の耳にも入らなかった。


「お兄ちゃん、目を離すとすぐ無茶するんだから……」


 朝光にたいして困り顔を向けた少女だったが、ふと俯くとぽつりと水滴が地面に落ちる。


「……心配したんだからね。急にいなくなったと思ったら、十日たっても帰ってこないし、もう、このまま、っか、帰ってごないがど、思っだ……!」


 ボロボロと、少女の瞳から絶え間なく涙がしたたり落ちる。話す声は次第に嗚咽が混じり始め、最後の方は全く聞き取ることが出来ない。


「ごめん。ごめん……、若狭」


 泣きじゃくる少女を朝光は抱きしめる。慣れた手つきで、頭を軽くポンポンと叩くと涙に染まった少女の顔を自身の胸へと導く。その途端泣き声は大きくなった。戸惑うことなく朝光は安心させるように、華奢な背中を優しくなでる。

 それに答えるように、少女の白い手が朝光の背中に回る。その存在を確かめるかのようにきつく握りしめた。


「ちょっと! 私を無視しないでちょうだい! さっきから意味わからないことばっかり起こって、いい加減説明を求めるわ!」


 いくら心が読めても、意味の分からないことは理解が出来ない。少しだけ混乱から落ち着いたマリアが、ハンドガンを朝光に照準を当てながら喚き散らす。

 しかし伸びてきた触手のように自由に動く蔦植物が、マリアからハンドガンとショットガンをいとも簡単に奪い去った。

 マリアは呆気なく手元を離れた自身の武器に手を伸ばすも、それらは彼女の手中に帰ることなく若狭の手中におさまった。


「お兄ちゃんに怪我を負わせたのはあなた? 痛い目見たくなかったらサッサッとどこかに行ってちょうだい!」


 朝光の胸から顔を上げて、首だけ回してマリアを睨みつける。

 彼女の怒りに連動するかのように、植物たちがマリアに狙いを定める。引かないのであれば、若狭によってマリアは穿たれるだろう。

 マリアは少女には勝てないと悟った。心が読めた程度で勝てる相手ではないのだ。第一マリアは女性と殺し合うつもりは全くない。それが突如現れた正体不明の少女だったとしてもだ。


「……わかった、今回は引くわ。でも、これで終わりなんて思わないでちょうだい。一巴ちゃんにしろ、そこの渡会若狭さんにしろ女性はこんな野蛮な場所にいるべきじゃないのよ。いずれ必ず華胥にお迎えするわ」

「……行くならさっさと行ったら」


 負けた悪役のような往生際の悪いセリフを吐くマリアに、若狭は射殺すような瞳で睨み、凍てついた温度のない声で急かす。

 びくりと、肩を震わせたマリアは一瞬何か言いたそうに口を開いたが、なおも睨みつける少女に臆して何も言わずに逃げるようにその場を後にした。

 こうしてマリアとの戦いは、突如現れた少女によって終わりを見せたのだった。

 しかし、この戦いの一部始終を一羽の鳥が見ていたことは朝光たちは知らない。物言わぬ鳥はマリアの退却と同時に飛び立つと、華胥のある方角へと飛んでいった。

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