第131話 春怒涛、広がる波紋
「最後に、私の授業は毎回課題を出す。提出期限は一週間。提出が遅れれば減点、提出しなければその日の授業の評価は不可になる。必修科目ということを忘れないように。今回の課題のテーマだが――」
ヨウムは黒板にテーマを書き出していく。
『試験期の病欠の統計上の偏りと魔導学的考察』
「なぜか、学期末の試験前になると、こぞって自分もしくは家族が病気や事故にあい、試験を免除するか延期して欲しいと願う者が続出する。比率としては十五パーセントほど。学期末のたびに何度も不遇にあう学生がその半分を占める。なぜだと思う?
これは魔導学と何か因果関係があるのか、君たちなりに考察をまとめて欲しい。今日の授業は以上だ」
「嘘でしょ」
「毎日、課題が課せられるの?」
「これ、一年も続くの?」
「教科書、分厚い。本当に一年分か?」
「過去の課題とか、先輩に売ってもらえないのかな」
「これじゃ、学校終わってから遊ぶ時間がなくなってしまうわ」
「私、他にもレッスンとかあって忙しいし、勉強ばっかりなんてしていられないわ」
講堂全体が、漠然とした不安に支配され、低いどよめきが広がる。
毎日という名の課題の山を前にして、途方に暮れた学生たちの囁きだった。
奇怪な姿の教師からもたらされたという事実も相まって、学生たちの不満と焦燥は拍車がかかっていた。
壇上に立つのがクロエやライのような親しみやすい人物であれば、これほどの不満は生まれなかっただろう。それどころか、挑戦への士気が高まったかもしれない。
「ああ。やっぱり」
入学試験を首席で収めた学生のよく通る声に、講堂は再び静まる。
学生たちは皆、その発言に目と耳を集中させる。
この理不尽な授業と課題に何か物申してくれるのではないか。あるいは、この現状を打破してくれるのではないか。
そんな期待の入り混じった目で、彼女の次の言葉を固唾を飲んで見守っていた。
ブナは二年前、ヨウムの家で初めてケーキを食べ終えた時のように、静かに目を瞑り、少し顎を上げ、しばらく微動だにしていなかった。
ヨウムは胸騒ぎを覚え、ブナの発言を制しようと名前を呼びかける。
だが、それよりも先にブナが口を開く。
「最高ですね。楽しい。すごい。……好き」
ヨウムの背筋は凍りついた。
何て恐ろしいことを、大人数の前で堂々と言ってのけるんだ。
しかも、そこに集うのは、紳士淑女の教育を受けてきた貴族の子息令嬢たちがほとんどだ。
案の定、講堂全体に不穏な空気が流れ、再びどよめきが広がる。
「好き」
二度も言うなよっ。
ヨウムは心の中で大いに叫んだ。許されるのであれば、目の前の机を力尽くで叩き割っていただろう。それくらいの衝動に駆られた。
そして同時に、この学園の統理である学長のシーモアに呼び出される覚悟をしたのだった。




