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【悲報】光の国が滅びたので、最後の【輝石】を持って脱出します~薪ではなく【善き心】で輝く石と、滅びかけた世界の挽回劇~  作者: 風風風


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第1部(1) 第2話【 漆黒の追撃と泥の少女 】(上)

神々と幻術げんじゅつの国【ヴァルナ神国】。


そこが自分を「邪教」とさげす

宿敵の地であろうとも、もう迷わない。


手の中にある一粒の光とともに、

カイは漆黒の夜の闇の中へと疾走し始めた。

夜の静寂を破り、

足元で枯れ枝がぜる音が響く。


王都アシャラドを脱出したカイは、

闇雲に東へ走った。


街を囲む広大な国境の森林地帯。


木々の隙間から覗く月は、

未だに黒い煙に汚されている。


「ハァ……ハァ……っ!」


肺がけるように痛む。

泥と血で重くなった靴を引きずりながら、

カイは胸のランタンへと目を落とした。


ランタンの中で揺らめく

「原初輝石」の欠片は、

先ほどのような爆発的な純白の光を収め、

今は

淡く優しい透き通った琥珀色に輝いていた。


周囲数メートルの闇を退け、

足元を照らす程度の控えめな光だ。


(走ることに必死で、

心が乱れるとすぐに光が影る……。

父上の言った通りだ)


この石は、カイの精神の鏡だった。

恐怖や焦燥、憎悪に苛まれると、

石はくすみ、不浄の闇を引き寄せてしまう。

逆に、自らの足で立ち、

なすべき「善」を見据えている間は、

不浄を退ける清らかな光を保ち続ける。


どれほど走り続けただろうか。

森の奥深くまで逃げ延び、

木々の途切れた

小さな開けた場所へと辿り着いた時だった。


「——誰か、助けて……っ!」


切り裂くような幼い悲鳴が、

夜の静寂に響き渡った。


カイは咄嗟とっさに樹の幹に身を隠し、

呼吸を殺した。


月の光がわずかに差し込む平地の中央。


そこには、

すすけた粗末な服を着た十歳ほどの少女が、

倒木に足をとられて地面に伏せていた。


そして、その少女を取り囲むように、

二つの足音が近づいてくる。


「見つけたぞ。アシャニアの生き残りめ、

こんな小娘まで逃げ出していたとはな」


不気味なほど揃った足音。


黒ずんだ鋼鉄の全身鎧を身に纏う

ソーレム帝国の歩兵だ。


彼らは腰の長剣を抜くと、

倒れる少女に向かって

感情の削げ落ちた一歩を踏み出す。


「待ちたまえ。

その小娘はアシャニアの平民だ。……

殺す価値すらない」


木々を押し分けて現れたのは、

先の兵士たちとは一線を画す

重厚な漆黒の甲冑を纏った男だった。


胸元にはソーレム帝国の象徴である

「鉄の天秤」と、

怪しく光る黒い刻印が刻まれている。

ソーレム軍

追撃隊長——ヴァルツ。


「しかしヴァルツ隊長、

帝国の『法』は

アシャニアの血の根絶を命じております」


「法は秩序のためにある。

無抵抗の子供を刃で散らすのは、

無駄なエネルギーの消費だ」


ヴァルツは少女を見下ろすと、

その大きな手で少女の首根っこを掴み上げ、

地面に投げ捨てた。


「おい小娘。お前たちの国は滅びた。

我らの神、絶対の『法』がこの地を治める。

生きたくば、

法に従い、思考を捨ててひれ伏せ」


「う、うあぁぁ……っ!」


少女は怯え、

泥に顔をうずめて震えることしかできない。


樹の影でそれを見ていたカイの心臓が、

早鐘のように打ち鳴らされていた。


(逃げるなら、今だ。

ヴァルツの関心が少女に向いている隙に、

俺だけなら隠れて森を抜けられる……)


悪魔のような思考が、カイの頭をよぎる。


自分は「原初輝石」の最後の守護者だ。

この石を失えば、世界の光は完全に途絶える。

一人の見知らぬ少女と、世界全体の命運。

はかりにかけるまでもないはずだ。


(俺は逃げなきゃならない。

この石を守るために、見過みすごすんだ……)


そう自分に言い聞かせ、

後ろへ一歩退こうとした。


その瞬間。


抱え込んでいたランタンの光が、

急速に濁り始めた。

透き通っていた琥珀色が、

どろりとした灰色の闇に呑み込まれていく。

同時に、足元の影から這い上がってきた

「不浄の冷気」が、

カイの全身を激しくさいなんだ。


(な……っ!?)


輝石が死にかけている。


『保身のために、見知らぬ幼子を見捨てる』

それが「善き考え」であるはずがないと、

石がカイの嘘を暴いていた。


(違う……俺は「石を守るため」と

言い訳をして、

ただ自分が助かりたいだけだ……!)


冷や汗が吹き出す。


ここで見捨てて逃げ延びたとして、

そんな薄汚い心を持った人間に、

この輝石が光を返し続けてくれるだろうか?

闇におびえ、

見殺しにした罪悪感にさいなまれながら

走る人間に、

何が守れるというのか。


『父上、俺は……』


カイは目を閉じ、深く息を吐き出した。


恐怖で震える膝を、自らの拳で強く殴りつける。


(恐れるな。憎むな。今、

俺の前にある『善きこと』をなせ!)


覚悟を決めた瞬間、

ランタンの中でくすんでいた鉱石が、

まばゆいばかりの黄金の光を吹き返した。


「だれだ!?」


©2026 [風風風]. All rights reserved.

ヴァルツが素早く振り返る。


闇を切り裂いて躍り出たカイは、

一足飛びに少女の前へと降り立った。


「少女から離れろ、ソーレムの鉄のイヌども!」


本日、18:30 に、第2話(下)を投稿します。

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