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【悲報】光の国が滅びたので、最後の【輝石】を持って脱出します~薪ではなく【善き心】で輝く石と、滅びかけた世界の挽回劇~  作者: 風風風


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第1部(3)  第2話:【 沈黙の巨塔と断罪の階段 】

【至高の天秤】が鎮座する帝国の象徴——

【昇天の巨塔バベル・プリムス】。


外壁は一切の凹凸を削ぎ落とした

灰色の死鋼で固められ、内部は

巨大な吹抜けの螺旋構造になっていた。


見上げれば、果てしない高所に向けて

漆黒の階段が壁沿いに伸び、

その中心部には

都全体から吸い上げられた「無」の波動が、

目に見えるほどの

透明な渦となって滞留している。


「ハァ……ハァ……っ!」


階段を上るカイの足取りは、

激しく重かった。


この塔の中には、兵士の姿も、

罠の仕掛けもない。


ただ存在するのは、皮膚を麻痺させ、

胸の奥から

あらゆる感情を削ぎ落とそうとする

「圧倒的な無の圧力」だった。


一歩上るごとに、

脳裏から情熱や使命感が薄れていく。


「なぜ戦っているのか」

「なぜ自分だけが

こんな苦しみを背負わねばならないのか」。


思考そのものを摩耗させる「無」の侵食だ。


「カイ……足を止めるな……!」


背後を進むレノが、

鋼鉄の右腕をカタカタと

激しく打ち鳴らしながら声を張った。


その義手からは、圧に耐えかねた

潤滑油が黒い涙のように漏れ出ている。


「この塔は……

入った者の『生きたい』という

意志そのものを削り取る……!


意識を手放せば、あの街の

市民みたいにただの肉の殻になるぞ!」


「うん……わかってる……!」


カイは

胸元のランタンを必死に抱きしめた。


ガラスの向こうの【原初輝石】は、

いつ途絶えてもおかしくないほど小さく、

惨めにチカチカと明滅を繰り返している。


(光が届かない……。

敵は『不浄(悪)』じゃない。

『意志そのものを消す無』だ……!)


「お兄ちゃん……

私、なんだか……眠いよ……」


カイの手を握っていたミーナの

歩みが止まり、

膝から崩れ落ちそうになった。


その瞳からは少しずつ生気が失われ、

サティから授かった胸元の銀の鈴も、

音を奏でるのをやめて冷たく固まっている。


「ミーナ! しっかりしろ、ミーナ!」


カイは咄嗟にミーナを抱きとめた。


だが、ミーナの体温は急速に奪われ、

まるで

精巧な人形のように冷たくなっていく。


(嫌だ……!

ミーナまで奪われてたまるか……!)


カイは必死に胸の中の

「善き考え」を拾い集めようとした。


王都で死んだ父の言葉。


ヴァルナで手を取り合ったサティの笑顔。


解放された精霊たちの羽ばたき。


だが、この巨塔の圧力を前にすると、

それらの温かな記憶すらも

「どうでもいい昔話」のように

灰色に塗り潰されていく。


「無駄だ、アシャニアの少年よ」


階段の上方から、

氷のように冷ややかな声が落ちてきた。


階段の踊り場。


そこに静かに佇んでいたのは、

ソーレム帝国の頂点に君臨する

男——皇帝アウグスト。


纏うのは飾りのない純白の軍衣。


その顔には一切の皺も、

感情の揺らぎもなく、

ただ両の眼窩に

「透き通る無色の結晶」が埋め込まれていた。


「皇帝……アウグスト……!」


カイは歯を食いしばり、眉を釣り上げた。


「お前たちが尊ぶ『心』とは何か」


アウグストは一歩、

階段を静かに下りてきた。


「心があるから、人は奪い合う。

心があるから、人は傷つき、

他者を絶望へ突き落とす。


アシャニアの聖火も、ヴァルナの神々も、

人を救うどころか

新たな対立を生む種でしかなかった」


アウグストが細い手をかかげると、

巨塔の中心を巻く「無の渦」が、

カイたちを圧迫するように凝縮された。


「我が打ち立てる『絶対の法』は、

感情という病を絶つ。


すべての人間が無となれば、

この世から

あらゆる苦痛は永遠に消滅するのだ。

……見よ、これこそが

真の救済アシャである」


「違う……!

そんなの救済なんかじゃない!」


カイは膝を震わせながら、

ミーナを庇うように立ち上がった。


「苦しいこともある!

間違えることもある!

でも……誰かを想って

温かくなれる心を捨てるなら、

生きてる意味なんてないんだ!」


「言葉に意味はない。

お前のその『輝石』を見ろ」


アウグストの視線がランタンに注がれる。


そこにあったのは、

今や豆電球のように儚く、

消えかけている灰色に濁った一粒の石だった。


「お前が拒絶すればするほど、

お前の心は疲弊し、光は潰える。


……お前の『善き意志』など、

この無の絶対世界においては

一滴の水滴に過ぎんのだ」


カイの全身から

力が抜け落ちそうになる。


短剣が手からこぼれ落ち、床に跳ねた。


(俺の光じゃ……勝てないのか……?

『善』だけじゃ……

この『無』には届かないのか……?)


視界が灰色に染まり、

カイの膝が冷たい鉄の床についた。


暗闇が、カイの意識を飲み込もうとする。


その時だった。


チリン……


死んだように静まり返っていた

ミーナの胸元で、

小さな、本当に小さな鈴の音が響いた。


「……お兄ちゃん」


冷たくなっていたミーナの手が、

震えながらカイの煤けた頬に触れた。


「私……お兄ちゃんの光のなかで……

いっぱい『あったかい』をもらったよ……」


ミーナの瞳に、かすかな涙が浮かんでいた。


「泣いたり……怖かったりしたけど……

お兄ちゃんと一緒にいられて、

うれしかった……。だから……

心を消されるなんて、絶対嫌だ……!」


ミーナの小さな体が、

カイの抱えるランタンをそっと包み込んだ。


さらに背後から、

荒い息を吐きながらレノが歩み寄り、

鋼鉄の右手をその上から重ねた。


「へっ……技師を辞めてから、

久々に胸が熱くなってんだ。……

消されてたまるかよ、この温かみを」


二人だけではない。


カイの脳裏に、数々の声が

直接奔流となって流れ込んできた。


『光を絶やすな、アシャニアの継承者よ!』

(ヴァルナ最高審問官サティの声)


『キュイ! キュイッ!』

(解放された小精霊たちの歓喜の声)


『カイ……世界に光の種を遺せ』

(死した父の温かな声)


自分一人の力(善)じゃない。


自分を支え、信じてくれた無数の

「生きて、心を通わせた人々」の想い。


(そうだ……俺の『善き心』は、

俺一人だけのものじゃない……!


みんなと紡いできた、繋がりの光だ!!)


絶望の暗黒の底で、カイの胸の奥深くに、

これまでとは次元の違う

「絶対の火種」が爆発的に燃え上がった。


ガアアアアアアアアアンッ!!!!


ランタンのガラスが、

内部からの凄まじい圧力で爆砕した。


むき出しになった【原初輝石】が

解き放ったのは、

不浄を払う純白でもなく、

精霊の翡翠でもない——

「すべての生命の色彩(虹)を孕んだ、

絶対なる黎明の光」。


「な……なに……ッ!?」


皇帝アウグストの

無色の目盛り(結晶)が、

初めて激しく揺らいだ。


巨塔に満ちていた「無の圧力」が、

カイの放つ

圧倒的な生命の光の奔流によって

物理的に押し戻され、

次々と霧散していく。


ミーナの肌に朱色が戻り、

レノの義手に溜まっていた冷気が

完全に焼き払われた。


光は巨塔を突き抜け、

灰色の都【ソーレム・プリムス】の

全域へと放射状に広がっていった。


意思を失い、

操り人形のように歩いていた市民たちが、

一斉に足を止める。


彼らの目から灰色の影が落ち、

涙がこぼれ、驚きと戸惑い、

そして「感情」が爆発的に戻り始めた。


「心が……光が

侵食を打ち破っているというのか……!?」


アウグストが激昂し、

初めて人間らしい動揺を露わにした。


カイは

むき出しの輝石を右手に握り締め、

力強く立ち上がった。


その双眸には、どんな無をも打ち砕く、

揺るぎなき「真理アシャ」が宿っていた。


「アウグスト! 最後の階段を上るぞ!

お前の『虚無』を、

俺たちの『光』で終わらせる!!」


色彩を取り戻した巨塔の頂上で、

世界を賭けた最終決戦の幕が上がった。

明朝、8:10 に、投稿します。

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