6羽:魔境を抜けたウサギさん
ウサギ語の大味説明(会話内容は想像しましょう)
『ぷぅ、ぷぷぅ♪、きゅっ! きゅー♪ ごろごろ』
・・・嬉しい、楽しい、興奮、甘えたい、気持ちいい
『ぐぅ、ぐーっ!、ぶぅ ぶー だむだむっ!(足ダン)』
・・・不満、怒ってる、警戒、拗ねてる、羨ましい
『くー、くぅーん、きーっ! だんだんっ(足ダン)』
・・・怖い、危ない、痛い、悲しい、寂しい
危険な森を抜け、草原を歩き、穴の中で眠ること十数日。ついに僕達は一切の犠牲も無く魔境を抜けることが出来た。
凄いね、景色は変わらないのに間違いなく『安全!』という雰囲気を感じる。
そうかそうか、お前達も分かるか! そうだぞ、ここはすごく『安全』、そう『安全』だ。
怖いものは無いんだぞ。勿論どこに行ったって兎が弱い事に変わりは無いだろうけど、24時間365日身の危険を感じる魔境に比べたらここら辺は天国だ!
そんな全身で開放感を感じている僕達に、背中に子供達を乗せたマリアちゃんが話しかけてきた。
「ねぇねぇイナバちゃん、ウチの気のせいかもしれないんだけどー・・・」
「んー、なぁに?」
抱っこにおんぶ、肩車までして、マリアちゃん腰大丈夫かい? まぁウチの子達は見た目よりだいぶ軽いから大丈夫か。
そんな兎でいっぱいマリアちゃんは何故かお化けでも見るような目で、子供達を見渡す。
「いや、本当に気のせいかもなんだけど・・・この子達、増えてないー?」
「あっ、やっぱりそうっすよね!? 俺も気のせいかと思ってたんすけど・・・」
「ででですよねっ、私も日に日に周りに集まってくる子が増えててっ!」
あそっか、そう言えば兎は集まるってこと言ってなかったな。僕らはそれが普通だと思ってるから、確かに普通の人が見たら知らない間に増えてて怖いかも。
「あぁ、増えてるよ。言ってなかったけど、僕らウサギは集まる習性があるんだよ」
「そうなんですか、でもいつの間に・・・」
「ほら、寝るときって土の中で寝るでしょ? あの時に近くの穴にいる兎が掘りながら集まってくるの」
みんなが「なる程な」みたいな顔をする。
「普段はこんな勢いで増えないんだけど・・・魔境の端の方だったからだろうね、倍ぐらいに増えちゃった」
「え、じゃあ今はどのくらいなんですか?」
「200羽前後だね」
「「「「200っ!?」」」」
え、「そんなに居て覚えきれるのか」って? 自分の子だよ、覚えてるに決まってんじゃん。
数は流石に数えられないけど、全員の顔は覚えてるよ。
でも確かに、よく考えるとちょっとした村を興せるレベルの人数だな。
ウサギ村か・・・いいじゃん、将来はそれを目指そうか。特産はうさぎカフェとか、アニマルセラピーだな。
「し、知らなかった・・・みんな何でもない顔してるから、ウチの気のせいかとー」
「僕達はあの環境で生きてたからね、仲間がいれば集まるし絶対受け入れる。んでもってケンカもしないし、いつも助け合うんだよ」
「凄いっすね、人間なんて10人居たら喧嘩するのに・・・」
「本当だよねー、でもこれだけ可愛いなら、ウチは何人居ても大歓迎だよー」
「俺も仲良く出来ていますし、妹がいっぱい出来たみたいで嬉しいです」
「そう言ってもらえると、僕も嬉しいな!」
まぁバーニィちゃんの周りにいるの、全員オスだけどな!
ウチの子達オスメスの見分けが難しいんだよね、全員幼くて女顔だから。
「で、『ドス』って街は此処からどのくらい?」
「だいたい徒歩で三日くらいですね。距離的には遠くないのですが、森もあって迂回しなければいけませんし、そうなると野営のタイミングも早めなければいけませんから」
「なるほど」
つまり直線距離なら今日中に着くかもって事だな、ならば急ぐとしよう。
「よし、じゃあちょっと急ごうか。みんなー、『お引越しモード』だ!」
『ぷぅっ!』
「「「「え、ええっ!?」」」」
子供達が僕の掛け声に敬礼し、龍の翼の皆に集まる。
そして騎馬戦の格好で皆を持ち上げ、その周りを他の子供達が菱形に並び囲む。
これは僕が魔境で生み出した大人数お引越しの陣だ。
100羽を超えてきた辺りで僕達は地上での移動を余儀なくされた、しかし知っての通り魔境での地上移動は非常に危険。そこで生み出されたのがこの移動方法。
中央の子が怪我人や大切な物を持って移動、他の子がそれを囲み気配察知や防御に専念する。
僕は先頭で先導するが特に指示は出さない。
僕達は指示や掛け声がなくても例のスキルで考えや全員の状態を把握できる。
結果僕達は人間に不可能な、そしてこの人数ではあり得ないくらい高速移動を実現した。
兎の脚力は知っての通り、更に獣人化したことでそれが強化。
つまり今の僕達は、とんでもなく足が強く速い。
「移動開始、目指すは人間の街『ドス』!」
『ぷうううっ!』
「「「「うわあああああっっっ!?」」」」
ただし、その速度を普通の人が耐えられるかは考慮されていない。
こうして僕らは草原を駆け抜け、森を突っ切り、崖を飛び越え、1日でドスに到着した。
◆◇◆◇
「じ、地面・・・地面があるって、素晴らしい・・・」
「お、おれ、歩けるありがたみを知ったっす・・・」
「しくしく・・・怖かった。もうお嫁にいけなくなる失態を見せるところだったぁぁー・・・」
「(失神)」
マリアちゃんにそんな危機がっ!? それはちょっと見てみたかっ・・・ゲフンゲフン。
みんな余程怖かったのかグロッキーだった、悪いことしたなぁ。
「いやぁ、ごめんごめん。そんなに怖かった? もっと人数を増やして安定性を高めるべきか・・・」
「「「「そういう問題じゃない(っす)(よー)!!」」」」
顔が青いけど吐きそうなほどではなさそう、子供達が心配して寄り添ってるし大丈夫だろう。
バーニィ達が息を整えるまでの間、僕は他の子供達と戯れつつ遠くに見えるドスの街を見る。
初めて見る人の街はすごく堅牢で大きかった。今まで見ることのなかった文明を感じる。
バーニィ達が言っていた様にその街は人類圏の前線基地も兼ねているんだろう、その形は街というより要塞に近かった。
城壁は高く頑丈。城郭には幾つもの兵器が設置され、槍先が常に何かを狙っている。
その塀に備えられた門も、ここから見ても分かるほど大きく重く頑丈そうだ。兵隊も沢山立っている。
たぶん向こうもこちらの存在に気がついているんだろう、突然現れた200羽の集団に警戒しているのか人が集まっている。
あれ? 僕らって入れるんだろうか?
200羽ってよく考えると大隊くらいの人数だよね、攻めてきたと思われてる?
でも居るの子供ばっかりだし、リーダーの僕だって小さいし(バーニィちゃんの胸くらいの身長)、装備だって何も無い。というか着てない。
「そうだった、僕ら何も着てない! どうしようバーニィちゃんっ、僕ら裸だよ!?」
「なんでそれを俺に聞くんですか・・・」
だって近くにいたし、子供達が裸でも気にしてなさそうだったから。
僕は毛皮の貫頭衣というか、原始人の服?みたいなのを着てるからセーフとして、他の子は完璧に裸だ。
下半身は毛皮で覆われてるけどヘソ下から肩にかけては人間と変わらない、そして子供達の中にはそこそこ女の子らしい子もいる。これは不味い。
「ちょっと俺だけ先に向かって説明してきます。俺は領主様とも顔見知りなので、少しは話せると思いますし」
「ホントにっ!? ありがとう、マジ助かるっ!」
そうしてバーニィちゃんとマリアちゃんが兵隊さんの集まっている所に移動していった。
二人にはホント感謝だ、特にバーニィちゃん。彼の事は尊敬も込めて今度からバーニィさんと呼ぼう。
それから結構な時間が過ぎて、子供達も暇なのかかけっこしたり土魔法で家を建造していると、バーニィさんとマリアちゃんが帰ってきた。
「イナバ殿、お待たせしました。隊長さんとお話しして、ひとまず兵は引いて貰いました」
「バーニィさん、マリアちゃん、おかえり! ホントありがとね。ほら、皆も『おかえり』って」
「ぷぅ!」
「ぷぷぅ~!」
帰ってきたバーニィさん達の後ろにはカッコいい鎧を着たおじさんと、何人かの女性騎士さんが大量の布を持って立っていた。
「貴殿がバーナードの言っていた秘境の兎イナバ殿であるな」
「あ、はい。そうです。イナバと言います、初めまして。周りにいるのは僕の子供達で、一応僕は群れの母親というかリーダーやっています」
みんなにはリーダーだと言っていたが、気持ちとしては母親なのである。BIG MAMAだ。
「そ、そうか、随分子沢山だな。私は防衛都市ドスの騎士隊を任されているヘイルと言う。宜しく頼む」
そういうとヘイルさんは後ろにいる女性騎士さんに指示を出し、子供たちに布を配り始めた。その布はどうやら騎士団のマントだったらしい。
「まずは我が街の専属冒険者を助けてくれて感謝する。彼等は我が町でも腕利きの冒険者でな、居なくなられると非常に困った事になっていた。これはその礼だと思ってくれ」
「いえいえ、当然の事をしただけですから。それとマントありがとう御座います、女の子も居たので凄く助かります」
「いや、話には聞いていたが確かにそのままだと不遜の輩に目を付けられそうだからな。我々としても、その方が助かる。して、街に入りたいとか?」
おぉ、バーニィさんそこまで話通してくれてたのか。感謝感謝。
「そうなんですよ、ただ見ての通り文明とは懸け離れた生活をしていましたので、お金も身分証も無くて・・・あと、人数も多くて」
「ふむ・・・」
考えれば考えるほど、僕らって不審者だな。
「身分証は問題ない、田舎から来る者にもそういった者は居るからな。だが、そうか金か・・・」
ヘイルさんは難しそうな顔で僕を見たあと子供達を見渡す。あっ女性騎士さんが子供達に群がられてる!
こらっ、今お母さんは真面目なお話しの途中なの、ちょっとじっとしてようか。騎士さんもすみませんね、ウチの子達人懐っこくて・・・え、別に良いの? 可愛いから? そぉ、気にしないなら良いけど。
女性騎士さんは子供好きらしい。それを見たヘイルさんにも表情を綻ばせている、こっちも子ども好きか。
しかしそこは騎士隊長、感情は別として僕達が街で生活出来る方法を考えている。安易に入れるわけにもいかないし、騎士団で養えないからね。
そんな彼の目に、さっき子供達が遊びで作った家が映る。
「これは・・・これは今しがた君達が作ったのかね?」
「あ、はい。ちょっと子供達が暇だったみたいで・・・ちゃんと元に戻しますんで、すみません」
「いや、そうかこれを短時間で・・・随分と硬いが、どのくらいの硬度がある? 持続時間は?」
あれ、怒ってない? 良かった。
耐久度は・・・よく分かんないな、魔境の巨大猪の突撃やバーゲストのブレスに耐えられるくらいだな。
持続時間は・・・あれ、そもそも魔法で作った土ってそのままじゃないの? 僕らそれで作った家に住んでるけど?
「秘境の魔物の攻撃に耐えるのかっ! それに持続時間が無いだと!?」
「え、そういうもんじゃないんですか?」
「イイ、イナバさん、魔法で作った土は普通魔力が切れたら壊れるものなんですっ。イナバさん達の魔法は異常なんですよっ!」
えー、だって魔法で作ってギュッとしたら壊れないじゃん。
え、そのギュッが分からない? ギュッはギュッだよ、おにぎり握るみたいな。おにぎりが分からない? えー、他にどう説明しろと・・・。
僕の混乱を他所に、ヘイルさんは非常に興奮した様子で話し始めた。
「イナバ殿、これは凄いぞっ! これが使えるイナバ殿達に頼みたいことが山程あるっ、是非協力してくれ!」
「はい、僕達に出来ることでしたら」
「ありがたいっ。入城税に関しては後払いで構わん、鑑定をしたら一先ずイナバ殿だけ話を聞きに来てくれるか」
「わ、分かりました」
どうやら無事に入れるもよう、いやぁ良かった良かった。
しかし僕達にやって欲しいこととは?
家を増やす・・・ことではない




