18羽:なんか目を付けられたウサギさん
ウサギ語の大味説明(会話内容は想像しましょう)
『ぷぅ、ぷぷぅ♪、きゅっ! きゅー♪ ごろごろ』
・・・嬉しい、楽しい、興奮、甘えたい、気持ちいい
『ぐぅ、ぐーっ!、ぶぅ ぶー だむだむっ!(足ダン)』
・・・不満、怒ってる、警戒、拗ねてる、羨ましい
『くー、くぅーん、きーっ! だんだんっ(足ダン)』
・・・怖い、危ない、痛い、悲しい、寂しい
「来やがった・・・」
「チクショウ、この街に何の恨みがあるってんだっ」
「そんな・・・前に見た時より大きい」
森から姿を現したそれは・・・いや、初めから隠れていなかったな。ベヒモスは、ただユッタリとした動きで森から歩み出てきた。
それを王者の風格と言ったら良いのか、それとも此方を舐めて見下しているが故の余裕なのか、どちらにせよ何とも腹立たしい。
理不尽さから来る怒りか恐怖か、どちらとも取れない言葉が皆から漏れる。
ベヒモスは森から出ると吠える様子もなく、ただ「フシューッ」と大きく息を吐いた。
その風が、まだかなり離れいる僕達の頬を撫でる。
地面から頭だけを出していた僕は、その生暖かい風にブルリと体を震わせた。
「イナバ殿っ、こちらでしたか!」
「あっ、バーニィさん。皆も来てくれてありがとうね」
「いえ、我々も南門の様子を見て、問題無ければすぐ戻るつもりだったので」
「イナバちゃん、子供達も怪我してない?」
「うん、大丈夫だよ。ほら、子供達も」
「ぷぅ~」
「ぷぷぷぅ♪」
「ぷぅーん」
「良かったぁー」
「よ、良かったですぅっ」
バーニィさん達はあちこち汚れているけど、怪我らしい怪我はない。
周りを見れば他の冒険者さん達も、騎士さんと連携して魔獣を囲んで倒している。
守りと連携に秀でた騎士さんと、大型魔獣との戦いに慣れた冒険者さん。その後ろからは魔術ギルドの変態達がバックアップをしている。
少し前まで決して仲がいいとは言えなかった皆が連携して、街の危機に対応してる。
僕がその光景に感動していると、今度はギルマスとクレアさんがやって来た。
「おう、イナバ。お前、こんな所にいたのか! 無茶すんじゃねぇぞ」
「イナバ殿、無事で何よりだ」
「うん、ありがとう。まぁ勝算あってのことだったから。それよりもアレだよね?」
僕達はベヒモスに視線を向ける。見れば見るほど、ゴリラか猪か分からない生き物だ。
ベヒモスは何故か森から出た所で立ち止まっている。
「アレ、何やってると思います?」
「たぶん、正気に戻ったんじゃねぇか? 誘引香ってぇのはな、効果は高ぇんだが効果時間が長くねぇんだ」
誘引香というのは、その煙で魔獣と魔物を引き寄せる効果のある道具だそうだ。
ただ煙がすぐ霧散してしまうので、さっきの迷惑おじさんのように煙を焚きながら誘導するしかないんだとか。
本来は増えすぎた魔獣を間引きする為に、騎士団が領主の許可を得た上で使用する物らしいんだけど・・・まったく、そんな危険物何処から持ってきたのか。
「まったく、本当に迷惑な男です」
「アイツが何を考えて止まってるかは知らねぇが、今のうちに俺達もディアスと合流するぞ」
「分かりましたっ」
「りょーかい!」
「「「ぷーぅん!」」」
僕達は一度城門へと引き返した。
◆◇◆◇
それはジッと考えていた。
あまり知られていないが、魔物は非常に頭が良い。
人間の言葉こそ理解していないが、身振りや表情から思考を読み、相手の裏をかく程度容易に行ってくる。
そして周りの雰囲気から、誰が重要な人物なのか、それすら読んで攻撃してくる程だ。
生まれて一年も経たずして魔獣の王となったそれは──ベヒモスは、その高度な思考力を持ってイナバを観察していた。
魔物は人間を見ると必ずと言って良いほど襲い掛かってくる、しかし何故襲ってくるのかは知られていない。
魔物が求めているものは、上質な『魔力』。
魔物は濁った魔力である瘴気から生まれた存在であり、食事を必要としない代わりに常に魔力を補充し続ける必要がある。
つまり魔物にとって人間とは、微弱ながら魔力を補充できるお菓子のような存在なのだ。
ベヒモスがドスにやって来たのも、誘引香に惹かれたのでは無く、前を走る強い魔力を食おうと追いかけてきただけ。
そして以前ドスを襲ったのも、腹が減って人間から魔力を補充しようとしただけなのだ。
強い魔力を追いかけてきたら、小さいが沢山の魔力が集まる場所に着いた。
強い魔力は知らない間に姿を消したし、もうこっちで良いかと森を出た時──それを見つけた。
上質・・・いや、そんなものじゃない。極上の魔力がそこには居た。
生まれて初めて見た、自身よりも大きな魔力の塊。
爪先ほどの大きさしかないのに、あまりの魔力の大きさに、ベヒモスはイナバを見上げる。
(強い魔力の人間も、小さいのがいっぱい居る街も、もうどうでもいい。アレだ、アレが欲しい)
幸か不幸か、ベヒモスの興味が街から離れ、ただ一羽のウサギに集中した。
◆◇◆◇
──ゾクッ
突然背中に感じた冷たい感覚に、僕はブルリと身を震わせた。
なんだ、何かの視線? ケモロリウスか?
でもあの一派は城壁の下で魔力防壁を作っている、多分違うはず。でも変態だしなぁ・・・。
「くー?」
「くぅ~ん」
「どうした、何処か怪我でもしたか?」
「あはは、全然大丈夫。ちょっと寒気がしただけ」
「イ、イナバさんっ、無茶しちゃダメですよっ?」
子供達を撫でていたら寒気はすぐに収まった、でも視線はずっと感じている。それを追ってみると、視線の主は・・・ベヒモス? なぜ僕?
果たしてそれは街を見ているのか、それとも僕を見ているのか。もし僕を見ているんだとしたら・・・ちょっと嫌がらせし過ぎたのかもしれないな。反省。
僕は気を取り直してディアスさんの話に、ウサ耳を傾けた。
「とにかく、アレが動き出す前に撃退。可能なら討伐だ」
「前回はどうやって撃退したの?」
一回やってのけたのだ、通じるなら同じ方法を取れば良い。
「前は突進してきた所で、魔法で転倒させて俺が目を斬りつけた」
「しかしあの巨体を転倒させるほどの魔法。皆その一度で魔力切れを起こし、二度とは使えぬ戦法だったのだ。それに奴も同じ轍は踏むまいと警戒している事だろう、我が騎士団も精鋭揃いといえどアレは受け止めきれん」
「冒険者がいくら魔物魔獣の相手が慣れてるっつってもなぁ・・・ありゃ無理だろ」
ヘイル隊長さん、ギルマスと似たような答えが返ってくる。っていうか、前回痛打与えたのディアスさんなのか!? 領主が何やってるのか・・・。
僕が呆れた視線を向けていると、ディアスさんが「今回は討伐可能かもしれん」と言って此方に目を向けてきた。何でだ?
「イナバ、お前だ」
「なんかしたっけ?」
「いつも冒険者や騎士達を回復して回ってくれていただろう? そのお陰で、前回とは違い全員が万全の状態でベヒモスを迎え撃つ事が出来た」
あー、《月光華》のことね。
「それだけじゃねぇぞ、魔術ギルドとの仲を取り持ってくれたりしたのもデケェな」
「イナバ殿のお陰で治術ギルドという獅子身中の虫を退治できた、だから背後を心配する必要も無い」
え、それ僕知らないんですけど!?
「今この街は、過去一番に戦力が集まっている。討伐するとしたら、今しか無いんだ」
「逆に言えば、これで無理なら今後どう足掻いても無理ってこった」
それからベヒモスの情報を共有し合った僕達は、再び戦場に戻る。
この人数だ、僕等ウサギでもない限り細かい作戦なんて立てても意味が無い。そもそも違う組織が幾つも混ざってるからね。
とにかく作戦は『いのちをだいじに』!
突然響いたベヒモスの唸り声をゴングに、第3ラウンドが始まった。
イナバの今までの行動が、偶然良い方向に転がった。




