15羽:出陣するウサギさん
ウサギ語の大味説明(会話内容は想像しましょう)
『ぷぅ、ぷぷぅ♪、きゅっ! きゅー♪ ごろごろ』
・・・嬉しい、楽しい、興奮、甘えたい、気持ちいい
『ぐぅ、ぐーっ!、ぶぅ ぶー だむだむっ!(足ダン)』
・・・不満、怒ってる、警戒、拗ねてる、羨ましい
『くー、くぅーん、きーっ! だんだんっ(足ダン)』
・・・怖い、危ない、痛い、悲しい、寂しい
僕達はバーニィさんと共に、空を跳んで一直線に東門へ向かう。
子供達からの視覚情報だと、まだ魔獣の群れは到着していないみたい。まぁそのぐらいしか安心ポイントが無いんだけど。
あーやだやだ、このままUターンして帰ってくれないかなぁ。僕は子供達と、安全な場所でほのぼのと暮らしたいだけなんですが? もうこれ何回目の襲撃よ。
僕は不満で顔を顰めつつ、子供達を先導する。
ちなみに出発の際、今居る子供達だけでも避難させるか聞かれたけど、当然のように子供達が「NO!」と言って獅噛み付いてきたので、親子仲良く大移動中だ。
なお、ディアスさん達は貴族区画に連絡を入れた後、騎士団を連れて東門に合流するらしい。領主がそんな事して良いのか気になったんだけど、ディアスさん自身が防衛戦力にカウントされてるんだって!
戦う領主かぁ・・・格好良い気もするけど、領民からしたらハラハラもんだな。
ドスの街は『凸』みたいな形をしていて、上の飛び出ている部分が貴族街で『北西門』。つまり今ベヒモスが近付いているのは右下部分だ。
僕達が到着すると、城郭に子供達と弓兵、そしてヘイル隊長さんとクレアさんが居た。下を見ると堀を背に先の尖った丸太のバリケードが並んでいて、騎士さんや顔馴染みの冒険者さんが展開している。こらっ、こっちに手を振らなくて良いから! 前見なさい、前っ!
あと下にはクレマチスさんの姿もあり、あちこちに指示を出していた。
指示に従って騎士さんや、駆けつけた冒険者さんが動いている。でも、その人数は少ない。
「イナバ殿、来ていたんだな。君達がいち早く情報を届けてくれたから、此処まで素早く迎撃の準備を整えることが出来た。本当に感謝する」
開門前に魔獣の襲撃があった時、基本的には門に取り付いている魔獣を引き剥がすところから始まるんだと、ヘイル隊長さんは教えてくれた。
「いえいえ、僕も子供達に教えて貰って気付いたので。ところで、ヘイル隊長さん。これってまだ・・・」
「あぁ、まだ揃い切っていない。この短時間でバリケードを張り、冒険者が数人とはいえ駆け付けられた事自体奇跡に近いな」
ヘイル隊長さんは視線を城壁の下、そしてそこから森に向けた。森からは大きな砂煙を上り、その中から巨大猪の姿が見える。まだかなり離れている筈なのに、それでもデカい。
「ヘイル、冒険者に招集をかけたぜ。と言ってもまぁ、ランクの低い奴は不参加だがな」
「感謝するぞ、グスター」
ギルマスが「よっ!」と片手で僕に挨拶しながら、城郭に登ってきた。
「この後は俺も下に降りて暴れてくるぜ、指揮は任せて良いんだな?」
「あぁ、任せておけ。冒険者も騎士も衛兵達も、決して無駄死になどさせない。だが問題は魔獣到達までに戦力が揃うか、そしてアレが動く前に追い返せるかどうかだな・・・」
魔境に居た小さいベヒモス(と言っても3メートルくらいあったが)の突進ですらギリギリだった。あんなデカいの、土壁で受け止めきれるわけがない。
僕は渋い顔で魔獣の群れを睨む・・・ん? あれっ、なんか先頭に変なのがあるぞ?
「ヘイル隊長さん、魔獣の先頭に変なものが・・・ピンク色の煙っぽいのと・・・誰かが馬で走ってるよっ!?」
「何だと!?」
ヘイル隊長さんは遠見筒を土煙に向けた。
「あれは治術ギルドの・・・それにあの煙の色っ。彼奴等、『誘引香』を持ち出したのか!?」
「本当ですか、隊長っ!?」
「あいつ等、復讐のつもりかっ!!」
僕が見つけたその人は、元治術ギルドのギルマスだった人と取り巻きらしい。
なんかミラさんに呪いをかけてた張本人で、他にも色々悪い事をしてたから捕まってたらしいんだけど、何日か前に脱獄して行方を探してたんだって。あんな危険な所で何をしてるんだか・・・あっ、誰か踏み潰された!?
僕は咄嗟に隣りに居た娘の目を塞いぐ。「ぷぅ?」って首を傾げてるけど、よく考えたら《共有》があるし、意味無いな。よし、彼の冥福を祈ろう。
あの人達が要らないことをしてくれたせいで、魔獣達はもう目と鼻の先だ。
対して此方側の戦力は全く足りていない。そもそも魔獣の数だけでも波のようなのに、背後にはベヒモスが居る。あれに来られると、マジでヤバい。ただ何だろう? なんというか・・・言葉に出来ない、この感覚・・・。
「ぅ〜〜ん、モヤッとする・・・とにかく、動かないといけないね」
僕は頭を振って雑念を振り払い、ヘイル隊長さん達の会話に参加する。
現在ドスの兵力は、全員揃っても騎士約300名、衛兵約100名、冒険者約50名だ。僕がディアスさんに報告してからまだ一時間も経っていない、全員が揃うには時間が足りなさすぎる。そして魔獣は見えるだけで倍近く、そしてその後ろには大型の魔獣とベヒモスが居る。
ただの魔獣の群れなら最悪籠城すればなんとかなるだろうけど、今回はそうもいかない。だってベヒモスが居るから。
ベヒモスが走り出す前に退治、もしくは撃退しないといけない。
それには足元の魔獣たちが邪魔だから、先に排除しなきゃいけない。
でも魔獣を排除するには、全員揃っても戦力が足りてない。
そして戦力が足りてないから、余計にベヒモスを止めることが出来ない。なるほど、これはもう始まる前から手詰まりに近いね。
「だがまずは、第一陣の小型魔獣の群れだ。アレをどうにかしなければ、ベヒモスどうこうの問題ではない上に、せっかくの迎撃準備が全て無駄になる」
貴族街に住んでいる貴族たちから私兵を借りることは出来るかもしれない。でも他人の領地に軍なんて置いてるわけがないから最低人数の護衛だけだろうし、護衛として一緒に逃げるだろう。いや、護衛としてドスの騎士団を持っていかれないだけマシかな。
騎士団と衛兵の一部は住民への伝達と避難誘導に行くからすぐには集まらない。というか、アレを発見してからまだ一時間程度しか経ってないから、避難すら始まっているかどうか・・・。
冒険者さん達だって避難誘導に参加してるかもしれないし、そもそもギルド行かないと情報すらない。
皆に届いてるのは、ずっとガンガン鳴り続けてる警報音だけだ。
「はぁ・・・仕方ないか」
僕が出よう、子供達の説得が大変そうだけど・・・。
イヤイヤと愚図る未来がなんとなく見えて、心持ち重く僕は子供達に振り返る。
「ぷぅ〜?」
「ぷぅぷぅー!」
「きゅぅぅぅ〜♪(すりすり)」
子供達が無邪気な瞳を僕に向けていた。
それを見て僕はハッと気がつき、魔獣の群れを見る。
「そうか、そういう事か」
だったら僕達がやる事は、ただ一つだ。
「よしっ、みんな行くよ!」
「「「「ぷぷぅっ!」」」」
僕と子供達は、戦場へ降りていった。
◇現在の戦況
小型魔獣…約500匹
大型魔獣…約40頭
ベヒモス…1頭
騎士団…約300名(準備中)
衛兵 …約60名(準備中)
冒険者(Cランク以上)…約50名(準備中)
※Dランク以下は退避、もしくは避難誘導中
【New】ウサギ…約200羽
魔獣の戦闘力は人間のおよそ3〜10倍。
接敵まで、あと2キロメートル。
◆◇◆◇
「待つんだっ、イナバ殿!!」
イナバ殿が子供達と共に降りてしまった。
彼女の考えている事は分かる、恐らく最初の第一波を自分達が受け止めようと考えているのだろう。
確かに防御に秀でた彼女達の魔法ならば、魔獣の出端を挫く事は出来るかもしれない。だが正直、いくら硬いと言ってもアレだけの魔獣の群れを受け止めきれるとは思えない。
しかしそれを止めようにも、代案が浮かばない。私は歯噛みするしか出来なかった。
そんな私の様子を見て、クレア一等騎士が声をかけてきた。
「隊長、大丈夫ですよ」
「何が大丈夫なものかっ! 私は恩ある彼女を、そして幼い子供達を戦場に送ったのだぞっ。せめて迅速に体制を整え、一人でも多く彼女達を救わねば・・・くそっ!!」
「違うんです、隊長。彼女を見て下さい」
クレアに促され、私はイナバ殿を見た。
彼女はこの様な危機的状況にも関わらず笑っていた、そして子供達にも緊張した様子が一切無い。
「イナバ殿の子供達への愛は、何においても優先されます。しかしそんな彼女が、子供達をあそこへ連れて行ったんですよ?」
「いや、まさか・・・あの数だぞ?」
「隊長、お忘れですか? 彼女は『あの森の住人』ですよ?」
『あの森』、それは我々が『魔の森』と呼び、恐れる場所だ。
この世界には『魔獣』と『魔物』と呼ばれている二つの脅威が存在する。この二つは似ているようで、全く違う生き物だ。
魔獣とは動物が瘴気に侵され変貌したものを言い、つまりは猛獣。どこまでいこうと、その本質は生物の範疇に収まる。しかし、魔物は違う。
魔物は溜まった瘴気から発生する、言わば『生物の形をした自然災害』であり、今迫っているベヒモスこそがその魔物である。
生物の常識は通用せず、体の構造、能力、動き、全てが違う存在。それが『魔物』であり、そしてそんな魔物しか存在しない場所こそが『魔の森』なのだ。
世界にいくつかある、人間が生きていくことを許されない領域である。
初め、彼女らがその様な場所から来たと教えられ、私は半信半疑であった。その、見た目がアレだったのでな。
しかしいざ力を示して貰えば、確かにそう思わせるだけのものであったし、この力ならば彼女の言う『逃げ隠れ』を可能にするに十二分余りあるだろう。
だがそれはあくまで逃げ隠れに徹すればの話だ、今回のように迎え撃つ様な力では無い。壁を作ろうと、回り込まれてしまえば終わりなのだから。
私の心配を他所に、イナバ殿は子供達を見回したあと此方を向きこう言った。
──問題無い。
彼女達に魔獣の群が迫る、それはまるで黒い津波のようであった。
距離は残り200、下で待機している者達からも悲鳴に近い声が上がる。「もう駄目だ」、そう思った瞬間──迫っていた先頭の群が、姿を消した。
「「「はあああっ!?」」」




