13羽:お姉ちゃんに戸惑うウサギさん
ウサギ語の大味説明(会話内容は想像しましょう)
『ぷぅ、ぷぷぅ♪、きゅっ! きゅー♪ ごろごろ』
・・・嬉しい、楽しい、興奮、甘えたい、気持ちいい
『ぐぅ、ぐーっ!、ぶぅ ぶー だむだむっ!(足ダン)』
・・・不満、怒ってる、警戒、拗ねてる、羨ましい
『くー、くぅーん、きーっ! だんだんっ(足ダン)』
・・・怖い、危ない、痛い、悲しい、寂しい
歓迎会から数日後、無事にアルメリアさんの風邪は治っていた。
風邪って一週間くらい症状が続くし、やっぱりヒヤ達の薬は効果があったんだね。
さて今日は年少から年長組はギルドでいつものお手伝いをし、僕は幼年組だけを連れて領主邸へ来ている。
ちなみに此処は此処でやることがあって、ミラさんの経過観察及び回復の補助だったり、騎士さんの訓練場で花畑を咲かせたりだ。
騎士さんも訓練で怪我するしね、それに体力が回復すれば次の訓練にも身が入るというものでしょう。
何より子供達の可愛さが皆の癒しにもなっている、やっぱりウチの子達は最強で最高だな!
あ、ちなみにこの時ついでに《月の涙》も買い取って貰っていたりもする、僕の貴重な収入源だよ。
そんなわけで現在僕の所には最年少の2羽だけが残っていて、その2羽とも何でか薬師ギルド長のマリーさんに可愛がられている。
「前見た時も思ったが、本当に無邪気でめんこい子供達さね。コレで成体だってんだから信じられないよ」
「まぁ、そういう種族ですから。他には僕達みたいな種族居ないんですか?」
「猫族のケットシー種がこんな感じだが、あいつらは見た目が完全に猫だからなぁ・・・俺はイナバ達意外見たことが無いな」
僕達は結構特殊らしい。
僕が案内された応接間には、ディアスさん、ギルマス、マリーさんという前のメンバーに加え、もう一人眼鏡を掛けた若い女性が居た。
女性は眼鏡をキラリと光らせ、大仰に挨拶をしてくる。
「あぁ、何という純白の美しさっ。そして噂に違わぬ可愛らしさっ。はじめましてっ! 私は商業ギルド長をしております、アマンダと申します。どうぞ気軽に『アマンダお姉ちゃん♡』とお呼び下さい♪」
「なぁーにが『お姉ちゃん♡』だ、お前俺と同い年だろうが」
ギルマスの言葉を聞いて、僕は驚きを禁じ得なかった。
だって、どう見たってマリアちゃん達より少し年上にしか見えない。しっかりしてるので、それより少し上に見えるかなぁーって思う程度だもん。
でもギルマスの話が本当なら、アマンダさんの歳はよんじゅ──。
「女はずっと乙女なんですよ! 次また歳をバラしたら、筋肉引っぺ剥がしてササミにするから気を付けて下さいね♪」
アマンダさんは女の子、ウサギ、オボエタ。
僕は先程頭に過った内容を、即デリートした。
「それで、今日はどうしてアマンダさ『お姉ちゃんです♪』──ア、アマンダお姉ちゃんも居るの?」
「そりゃあもう、お金の匂いがしたからです♪ 私は商業ギルド長! 商売金有り、噂に商機有り。お金の匂いがするところならば、私は何処にでも現れます! ──というのは建前で、噂の兎ちゃんに会いに来たわけです♪」
「いや、先程までディアスと予約注文の手続きをしていたんだ」
「ちょっとぉーっ、そんな色気無いこと言わないで下さいよー! 会いたかったのは本当ですからね♪」
今まで筋肉とか、魔術ギルドの面々とか、獣耳理想郷とか、結構濃い面々に会ってきたつもりだけど・・・過去類を見ない程、濃い人が出て来たなぁ。
まぁ居るもんは仕方ない。ちょっと詰め切れなかったところもあるし、ついでに知恵を借りるとしよう。
「それで、お前のその顔を見る限り何やら良い事を思いついたみたいだな?」
「うーん、良いかどうかは聞いてから判断して欲しいかなぁ。特にマリーさんの考えを聞かせて欲しい」
「私かね、良いだろう言ってごらんね」
僕はマリーさんに促され、昨日思いついたことを話した。
まずこれを話す前に、魔法薬について説明しなきゃならない。
魔法薬っていうのは、ゲームでおなじみの『ポーション』の事だ。効果もそれと同じで、傷を癒して体力を回復させる効果がある。
ちなみに魔力ポーションってのもあって、こっちは魔力器官とMP回復用。材料はお馴染み『月の涙』ね。
回復系のポーションには上級と下級の二種類があって、両方誰でも作れる。
そう、魔法使いでも薬師でも、それこそ魔力さえあれば冒険者でも作れる。ただし知識とかなりの魔力量が要るみたい。
このポーションとは何か、ざっくりと説明すると『魔法が付与された薬』の事らしい。この付与というところがお薬と魔法薬の最大の違いだね。
ちなみにこの『付与』がそもそも魔力酔いになる原因だったりする。
さて、ここ迄聞いたら「薬師もポーション作れば良いじゃん」って思うでしょ? ところがどっこい、この『付与』っていうのがかなり曲者らしくて、付与する魔法を付与者自身が使えないと上手く付与できないらしい。
薬師は治術が使えないわけじゃないんだけど、治術師ほど魔法が上手じゃない。だからどうしても劣化下級ポーションみたいなのしか出来なくて、全く売れないんだってさー。
そりゃ皆、同じ値段なら効果の高い方買うもんね。結果、薬師の人達は薬の方で頑張るしかなかったんだって!
重症なら上級ポーション、軽症なら下級ポーション、魔力酔いで使えないときだけ薬、そんな感じの使い分けらしい。
そりゃ薬じゃ魔法薬に勝てんわ。
ただ僕は先日ちょっと思った。
以前お薬のメリットは『魔力酔いが無い』ことと、『安価』であることだと言ったけど、果たして本当にそうかな?
そこで改めて考えてみると違った、本当の薬のメリットは『気軽さ』だ。
日本に居たときだって皆そうだった。
体調不良になった時、最初にどうしてた? 絶対最初は薬使ったよね? しかもそれで体調が治らなくても病院行かない人もいるよね?
インフルエンザになっても病院行かず、気合いと薬で治そうとした人も居るんじゃないかな。よくよく考えると薬への信頼感スゴイねっ!?
つまり何が言いたいかというと、薬の気軽さ、言い換えれば『使いやすさ』を武器として最大活用しちゃえって事だよ!
「薬をさ、『配置薬』として各家庭に置くのはどうかなって!」
「配置薬とは何だ? 文字通り取るなら、全家庭に常に薬を置くのか?」
「それは・・・大丈夫なのか? 盗まれたり、それでなくとも費用とかどうすんだ?」
「ふぅーむ・・・」
配置薬というのは、家庭や事業所に無料で薬箱を置くサービスの事だ。
そして使った分の薬は後払いになる、つまり盗難などの心配はほぼ無い。
無くなった分は全部支払いだし、全家庭に配置されれば薬の価値が下がって盗む価値も無くなるしね。
「まずは試験的でもいいから配置薬を置く、そしてお薬の敷居を下げるんだ。でもって体調に異変があればすぐにお薬を使うっていう習慣を浸透させれば、薬師さんは定期的に収入を得られるようになるんじゃないかな?」
「なるほどねぇ。家々に薬を常備する、そんな事考えもしなかったね」
「しかもこの方法、薬師、領主、治術師、領民、冒険者、治療院、街、その全てにメリットがあるんだー」
僕は「どうだ、わかるか?」という視線をディアスさんに向けた。
正直、これ全部答えられたら凄いと思う。現代日本に住んでいないと気付かないかも! でも領主であるディアスさんには、出来れば気付いて欲しいなぁー。
「まず薬師の定期収入、まぁ安定とは言い辛いがこれはメリットさね。あと作る量が増えるって事は、薬草採取の依頼も増える。冒険者の収入も上がるね」
「だが治療院と治術師の収入が下るぜ?」
「いや、元々治術師の数は足りていなかったんだ。薬で患者の数が減るならば治療院の数を二つほど減らし、治術師を集中させれば良い。ただ・・・薬で病気が治るか? 流石に怪我は無理だろう?」
「領民と街のメリットも思い付きませんねぇ、そこって何か得することあるのかしら?」
マリーさんとディアスさんは流石だね、派生する利益にちゃんと目が向けられてる。
実は此処で発生する利益とは、必ずしもお金とは限らない。此処で発生する利益、それは『時間』と『信頼』と『情報』だ。
まず薬師ギルドが配置薬を置く。それにディアスさんが家紋とかブランドを付けることで、両方が『安心という信頼』を得ることができる。
みんなが『使っても大丈夫なんだー』と思う事で、使用率が上がる、そして薬師は収入が上がる。
そして何より、薬師は店を開く必要が無くなる。つまり『時間の余裕』ができるので、他のことが出来るようになるんだなー。
次に冒険者にはマリーさんが言った通り、薬草採取の依頼が増えることで低ランク冒険者の生活が安定する。
そして治療院は患者が減った事で空きベッドが確保出来るようになり、急な患者にも対応出来るようになる。
治術師も患者が減ったことで時間の余裕が出来る。
時間の出来た薬師と治術師はポーションを作ることが出来るようになって、更に収入に繋がる。
領民は何を得るのか、それもまた『時間』だ。
治術っていうのは決して安くないから、皆ギリギリまで我慢することが多いらしい。つまり治術師じゃなきゃ治せないレベルまで放置してるってことだね。
でも家に薬があれば病気が大きくなる前に直してしまえる、日本ではこれを『未病予防』や『予防医学』って言うんだ。
病気になる前に安価な薬で治せれば、領民はしんどさを我慢する時間、病院に行く時間、高い治療費、それらを失わずに済むからよく働く。
そして薬や農作物が増えれば、街の税収が上がる。
そしてこれが最も重要、薬のおかげで軽症の患者が減る。するとあるものが見えてくる、それは『流行病』だ。
治療院は、やって来る患者の傾向から蔓延する前に流行病を察知出来るようになって、領主であるディアスさんは事が大きくなる前に対処することが出来きて、被害を抑えられる。
その時、かなり無理矢理な手段を取らなきゃいけない場合だってあるだろう。領民からの信頼がないと従ってくれないかもしれない、その信頼はどこからやってくる? そう、配置薬だ。領民には『自分達を守ってくれる、良い領主』と映ることだろうね!
「更に劣化下級ポーションを、価格を下げて販売する事で冒険者の事故死を下げる。反対に通常のポーションは少し価格を上げる代わりに刻印魔法で保存期間を延ばす。こっちが治術師の主収入になる」
「それを作る時間は、さっき言った『時間の余裕』から確保する、か・・・なるほど」
「はぁ~、お嬢ちゃん大したもんさねぇ」
「これ、お前さんが考えたのか? お前いったいどこでこんな知識を・・・」
まぁ、日本で社会人やってるとこう言う知識も入ってくるんだよ。
勿論この方法も問題が無いわけじゃない。
まず薬を気軽に使うって事を浸透させなきゃいけないし、あるのが何の薬でどう使うのか分かるようにしないと。この世界は識字率が低いからね。
そして何より、薬の交換とお金回収の人員確保だ。色々知識のある人じゃなきゃダメだもんね。
・・・あれ? 思ったよりも問題点が多いぞ?
やっぱり無理かも。
そう思っていた所で声を上げたのは、アマンダさ『お姉ちゃんですよ♪』──アマンダお姉ちゃんだった。
「ふっふっふー、やはり私がここに来て正解だったようですね! その役割、商業ギルドにお任せ下さい♪」
「結構大変そうだし、金になるか分かんねぇのに大丈夫なのか?」
ギルマスさんの疑問ももっともだ、僕もそれは費用回収出来ないんじゃないかなって思う。
でもアマンダさ『お姉ちゃんですよ♪』──おい、心の声に入ってくるな。
ごほん、どうやらアマンダお姉ちゃんには策があるようだ。
「何をおっしゃっているんですか、商業ギルドは商人の集まりですよ? 商人には街中で商売をする者のほか行商人も居るのですから、ルートは最初から確保されているじゃないですか♪」
「なるほど」
「確かにその通りさね、私ら薬師はその者に知識やらを伝えたら良いんだね」
「ざっつ・らいと♪」
なにがザッツ・ライトだ、この人はJKか。
それにしてもポンポン決まっていくな、これ初めから僕が考える必要無かったんじゃなかろうか?
それからアマンダお姉ちゃんとマリーさんは詳細を詰め、配置薬という文化を領地全体に馴染ませていく。
やり方が上手くハマったのか薬師と治術師はしっかりと差別化され、それぞれの領分で本領を発揮して、対象的に僕達が花畑を咲かせる機会は減っていった。
やっぱり一人に寄りかかりすぎるのは、システムとして健全じゃないからね。良き良き。
こうして街は膿を吐き出し、正しい人が正しく救われた。
街も正常化されてもっと住みやすくなるだろう、これ以上気を揉むような事は起きないだろう。そう思っていたんだけど・・・。
世の中の悪い人っていうのは、僕が思っている以上にしぶとかった。
月の涙の買取金額は高額だけど、値崩れ防止の為に少しづつしか売れない。




