12羽:アルカディアと出会うウサギさん
ウサギ語の大味説明(会話内容は想像しましょう)
『ぷぅ、ぷぷぅ♪、きゅっ! きゅー♪ ごろごろ』
・・・嬉しい、楽しい、興奮、甘えたい、気持ちいい
『ぐぅ、ぐーっ!、ぶぅ ぶー だむだむっ!(足ダン)』
・・・不満、怒ってる、警戒、拗ねてる、羨ましい
『くー、くぅーん、きーっ! だんだんっ(足ダン)』
・・・怖い、危ない、痛い、悲しい、寂しい
「ウチの子達と喋ってるっ!?」
あまりの衝撃に、つい叫んでしまった。
ウチの子達は感情表現豊かで、ボディーランゲージも駆使して声が出せなくとも結構卒なく会話する。特に一緒にいる時間の長い龍の翼の皆とは、喋っているとしか思えないほどだ。
でもそれはあくまで上手く伝わっているだけの話で、「アレがしたい」「コレがしたい」辺りまでが限界なんだよね。
なのにこのモヒカン達は、子供達の短い言葉から単語や状況までを読んでいた。
つまり言葉の内容が分かってるってことだ・・・何で?
「そういえば、お前らの母ちゃんは喋れるんだな。坊主達も大人になったら喋れるのか?」
「ぷぅ~」
「がはははっ! そうだなー、坊主達も大人だ大人っ」
「ぐぅぅー」
「悪い悪い、別にからかってるわけじゃねぇぜ。その様子がヒャッハーだなって思っただけだぜぇ!」
おい、普通に喋んな。こっちはそれが気になって仕方ないんだから。
「ね、ねぇ。貴方達はウチの子達の言葉が分かるの? どうして?」
「あぁそうか、母ちゃんウサギとは初めて会ったからな、知らねぇのも仕方ねぇ」
「俺たちゃ王都から来た六つ子のヒャッハーな冒険者PT、『獣耳理想郷』だぜぇ!」
「夜露死苦だぜぇ、ヒャッハーッ!」
「「「「「ヒャッハーッ!」」」」」
いや、ヒャッハーじゃねぇよ。説明しろ、説明。
あと何だそのPT名は!?
「おっとスマねぇ、俺たちは全員あるヒャッハーなスキルを持ってるんだぜぇ」
「それは《通訳》、動物限定でリアルタイム通訳ができるヒャッハーな能力だぜぇ!」
マジか、本当にヒャッハーなスキルじゃんっ!?
あと僕達は動物なのか? 彼らの言う動物の範囲が分からん。獣人含むのかどうか・・・まぁどちらにしても世界中の動物好きが欲しがりそうなスキルだ。
「俺たち兄弟はこの能力を駆使して、将来動物も喜ぶ巨大牧場帝国を作り上げるんだぜっ。ヒャッハーッ!」
「「「「「ヒャッハーッ!!」」」」」
「お、おぅ・・・」
なんだこの夢と現実がかけ離れた奴らは・・・。
聞けば彼等の実家は従魔を飼育する仕事をしているらしくて、生まれたときから動物が周りにいる環境で育ったんだそう。
その影響か六人全員が動物好きで、世界中の動物に会うべく従魔ギルドではなく冒険者ギルドに登録して旅をしているらしい。
そういえば強い欲望とか想いがスキルに影響するって本で読んだな、だから《翻訳》なんてスキルが生えたんだろう。根っからの動物好きってことだ。
「王都でオルトロスと触れ合うべく修行してたらよぉー、ドスの街で魔獣の大群を全滅させて街を守ったヒャッハーなウザギが居るって言うじゃねぇかっ。そんなヒャッハーな奴、会うしかねぇよなぁーっ!!」
「「「「「ヒャッハーッ!」」」」」
「そんな事してないけどっ!?」
風評被害も甚だしいっ!?
「つまり貴方達は僕達に会いに来たと?」
「そうだぜぇ」
「じゃあもう帰るの?」
せっかく面白い奴らに会えたのに勿体ない。
彼等もすぐに帰るつもりだったらしいんだけど、この街に来て考えが変わったらしい。
「ここはヒャッハーな所だぜぇ、こんなに過ごしやすい街は初めてだ」
「俺たち冒険者は子供にも避けられっからな」
「いや、避けられるのはその格好のせいじゃない?」
「ヒャッハー?」
ヒャッハー? じゃないよ、どう考えてもそうだろうよ。
ちなみに動物に優しい彼等は装備にも配慮していて、肩パッドのトゲトゲも実は柔らかい素材で出来ている。ディ◯ニーランドの柵みたいだ。
「せっかく先生も見つかった事だし、当分この街の世話になるぜぇ!」
「先生? 誰か探してたの?」
「俺たちをヒャッハーに強くしてくれる先生だぜぃ! つー事でお願いしやすっ、先生!」
「「「「「先生っ!」」」」」
「僕っ!?」
なんで僕が先生!?
僕なんか彼等の興味を引くような事しただろうか? そう思ったのだが、どうやらこれが王都での話に繋がるらしい。
彼等はオルトロスとか言う魔獣と触れ合うために修業をしていたんだけど、その修行は魔法の修行だったらしい。
なんと彼ら、鎖や釘バットを振り回していそうな見た目をしているのに、職業は魔法使いなんだって。それも土属性の魔法使い、ランクは魔術師らしい。
なるほど、だから僕なのか。
「坊っちゃん達の土魔法は一流だぜぇ。いや、一流なんて霞むくらいヒャッハーな魔法だ!」
「聞けば母ちゃんの方が魔法が上手ぇつーじゃねぇか。だから弟子入して、せめて魔法師クラスの実力を持てぇんだ!」
「って事で、母ちゃん先生お願いしゃっすっ!」
「「「「「お願いしゃっすっ!」」」」」
「母ちゃん言うな」
お前等にそう呼ばれる筋合いないわ!
しかし彼らの提案も中々悪くない、翻訳スキルは僕達にとって他に代え難いスキルだからね。
子供達だけで行動する事は結構多い、まぁ大体はギルドの依頼関係で必ず職員さんが着いてくれてる。でも職員さんは子供達の言ってることが分からないんだよね。
だから出先のやりとりは職員さんになるし、イレギュラーが起こっても口頭で報告ができなくて困るし急ぎの伝言も伝えられない。
でも彼等が居たらその不安が一掃されちゃう。何より良いのは、翻訳スキルを持っているのが六人も居るってこと!
僕が会社の社長なら、即雇用しちゃうくらいの人材だ。
魔法を教える代わりに子供達に着いてもらう。
うん、中々良い案じゃなかろうか? ただまぁ、見た目が人攫いと被害者にしか見えないけど。
《共有》で子供達に意見を聞いてみたところ、みんな「可」って言ってるので、僕は彼らの提案を受ける事にした。
「子供達もオッケーって言ってるから、君達の弟子入りを受け入れよう!」
「ヒャッハーッ! これから世話んなりますっ、母ちゃん先生!」
「「「「「ヒャッハーッ!」」」」」
「だから母ちゃん言うな」
長男の『ヒヤ』
次男の『ヤッハー』
三男の『アーベ』
四男の『ベッシ』
五男の『ヒデ』
六男の『デイブ』
それが彼らの名前らしい。
ツッコまない、絶対ツッコまないからな。
こうして僕らウサギ一家に新たなメンバーが加わった。
◆◇◆◇
獣耳理想郷の面々は僕が弟子入りを承諾すると、一旦取っている宿へと帰っていった。
僕たちの家がどういうものか知っているらしく、可能なら此方へ移り住みたいみたい。
僕としては、子供達が警戒していない時点で彼らの人間性に何ら疑いを持つことはない。
弱くて警戒心の強いウサギである僕たちは、相手の人間性を見極めることにも長けてる。だから問題無いでしょう!
え、今まで警戒した様子無かったって?
そりゃあここに来るまでが良い人ばっかりだったからだよ。
実際、治術ギルドに子供達が向かった時は、みんな職員さんの背中に隠れて顔を出さなかったみたいだし。
ほんと、この街は良い人ばっかりだよね!
話は戻すけど、そんなわけで僕としては移り住んでもらっても全然問題ない。
ただウチには一人いるじゃん、ウサギより警戒心が強い小動物が・・・。
「ってなわけで、面白スキルの人達が此処に住みたいって言ってるんだよね。皆はどう思う? 特にアルメリアさん」
「わ、私ですかっ!?」
名指しされて、小動物系美少女アルメリアさんがたわわを揺らしてわたわたする。
ほんとアルメリアさんって、外に出すのが危ない・・・。
「だって年頃の女の子が二人もいるし、ここで男六人追加するの嫌かなって思って」
「イナバちゃん、自分を数え忘れてるよー」
帰って早速報告した僕に、バーニィさん達の表情は様々だ。
バーニィさんは獣耳理想郷の名前を聞いたことがあるのか「あぁ、彼奴等か!」みたいな事言ってたし、リドは特に問題ないのかマリアちゃん達に託してる感じだ。
マリアちゃんはちょっと悩んだあとオッケーは出したけどアルメリアさん次第と言った、そしてアルメリアさんはというと「生活空間が別なら・・・」と、一応オッケーを出してくれた。
「別に嫌って言ってくれても良いんだよ? 僕達はアルメリアさんたちの方が優先だから、別にそれで何か思うわけでもないしー」
「い、いえ、寝ている所に入って来ないなら私も大丈夫ですっ」
「オッケー、じゃあいつも寝てる下の階を男子禁制(ウサギを除く)にしよう!」
「あ、ありがとう御座いますっ」
ついでに地上階の所も上二階は真ん中に壁を入れてパーティの空間を分けちゃうか!
地下からは両方入れるけど、地上は行き来できない様にしよう。
そうして僕は受け入れ準備をちゃちゃっと済ませた。
翌日、許可を得た獣耳理想郷は荷物を持って兎御殿に移り住んでくる。そして一緒の敷地に住んでいるのがBランクPTであると知って大はしゃぎしていた。
そういえばBランクはどの街でも実質トップの存在だって言ってたな、つまりバーニィさん達は彼らの憧れってことなんだろう。
ちなみに獣耳理想郷はEランクPTらしい。
僕達は彼等が来るタイミングに合わせて表で待ってたんだけど、なんだかアルメリアさんの調子が悪そう。
「アルメリアさん大丈夫?」
「くぅーん?」
「くぅぅ〜・・・」
「ごほっ・・・だ大丈夫ですよっ、ちょっと風邪気味なだけですっ。みんなもありがとう、お姉ちゃんは大丈夫よっ」
「くうぅぅ・・・」
「くぅん」
どうも緊張じゃなくて本当に調子が悪いみたい。
弱った個体を放っておけない子供達は、心配そうにアルメリアさんを見詰める。
そして月光華を咲かせようとするのだが、それはアルメリアさんが断っていた。
「ここの程度なら、魔法で治すよりも自然治癒のほうが良いんですっ。その方が体が強くなるのでっ」
「なるほど、でも無理しないでね。あと中々治らなかったら、無理矢理でも花畑に放り込むから!」
「あはは、その時はお願いしますっ」
それからやって来た獣耳理想郷と顔合わせをして、彼等はBランクPTに大興奮。対してバーニィさん達はそのファッションに唖然。
そして彼らのスキルが本物であることを知り、羨望半分驚き半分で全員が意外にもすぐに打ち解けていた。
たぶん子供達が全く警戒していなかったのも大きいんだろうね。
その夜は歓迎会を兼ねた食事会となった。
「へぇ、君らは北の方の出身なのか」
「そうでさっ! まぁ北と言っても王都より少し上ってだけですがね」
「春はピンク、夏は緑、秋は赤黄、冬は白に景色が染まるヒャッハーな場所だぜぇ!」
「季節で色が変わるのっ!? ウチ聞いたこともないやー」
「不思議な場所っすねぇ」
「近くに来たら、是非俺らん家に来て下だせぇ。ヒャッハーに持て成しやすぜっ!」
うむうむ、仲良き事は美しきかな!
和気藹々としていて良い感じだ、まぁ見た目はヤバいけどな。
そんな場からは少し離れて、アルメリアさんが休んでいた。なんでも風邪を移さないようにだそうだ。
彼女の周りには当然のようにウチの子達がくっついている。
いや、くっついているっていうか群がっている。20羽くらいで彼女を取り囲んでいた。
僕達は何も指定なくても、《月光浴》の効果で周囲に微量の回復効果をもたらしている。そのおかげか、アルメリアさんも疲労は見えるけど顔色は悪くない。
そんな彼女に赤モヒカンのヒヤと黄モヒカンのベッシが近付いてきた。
「姐さん、大丈夫ですかい?」
「風邪ですかい?」
「え、えぇ。せっかくの歓迎会なのにごめんなさい」
「俺らのことは気にしないで下だせぇ! それより風邪ですかい、寝てなくて良いんで?」
ヒヤ達の顔は怖いけど、その表情は本当にアルメリアさんを心配しているようだ。
「だ大丈夫ですっ、それにこれからお世話になる方に最初くらいお顔を見せておかないと失礼ですしっ」
「くうううっ、そんなに俺等のことをっ・・・なんてヒャッハーな姐さんなんだっ、感激だぜっ!!」
「兄貴っ、姐さんにアレを差し上げるべきだぜっ」
「おう、そうだな弟よ!」
マジで感涙を流すヒヤとベッシは、懐から花の刺繍が施された巾着を取り出した。
持ってるもん可愛いな、おい。
「姐さん、良かったらコレ使って下だせぇ! 俺ら兄弟のとっておきですぜ!」
「これは・・・?」
渡された巾着の中からアルメリアさんが取り出したのは、黒っぽい小さな粒と小瓶。
「俺らの実家は田舎だったんで治術師なんて居やせんでした、だからウチでは婆ちゃんが風邪に効く薬を常備してたんでさぁ」
「そしてこれは俺らが旅に出る時、婆ちゃんと母ちゃんから渡されたもんでさぁ! 風邪のひき始めに効く丸薬と、喉がスーっとする軟膏ですぜ! これを使えば立ち所に治って、明日にはヒャッハーだぜぇ!」
おいやめろ、せっかくいい話だったのにヤバイ薬に聞こえるだろっ。
しかし彼らの話を聞きいて、僕も成る程と思った。
確かにお金儲けが大好きな治術ギルドが田舎に治術師を置くとは思えない、居るとしたらモグリの治術師だけだろう。
そうなると頼りになるのはやっぱり保存の効く薬、そして民間療法だ。先日の話し合いでも言ってたけど、やっぱりどっちも大切なんだなぁ。
そこで僕はふと、ある事を思い付いた。
「──そっか、その手があったか!」
僕は心の中でカラーモヒカン共とそのお婆さんに感謝をしつつ、次の話し合いの為に考えを纏めるのだった。
略して「ヒャッハー」「あべしっ」「ひでぶっ」である。




