11羽:新たなアプローチを考えるウサギさん
ウサギ語の大味説明(会話内容は想像しましょう)
『ぷぅ、ぷぷぅ♪、きゅっ! きゅー♪ ごろごろ』
・・・嬉しい、楽しい、興奮、甘えたい、気持ちいい
『ぐぅ、ぐーっ!、ぶぅ ぶー だむだむっ!(足ダン)』
・・・不満、怒ってる、警戒、拗ねてる、羨ましい
『くー、くぅーん、きーっ! だんだんっ(足ダン)』
・・・怖い、危ない、痛い、悲しい、寂しい
例の騒動が終わってからも、僕たちウサギの毎日はそう変わっていなかった。
毎日決まった時間に決まった場所に月光華を咲かせに行き、子供達はギルドでお手伝いをしたり、あちこちで遊んだりしている。
彼らの最近のブームはやはり泥人形を使った戦争ごっこ、しかもクオリティが上がって中々見物になってるみたいで街の子にも大人気だ。
メスの子の何羽か僕の真似をするのが好きな子が居て、その子は幼年組の面倒を見つつ僕と一緒に行動していることが多い。
あっ幼年組と言えば、ビッグニュース! なんと、幼年組60羽のうち半数が年少組になりました。
少しづつ僕から離れて自発的にあれこれ挑戦するようになり、最近はギルドのお手伝いをしてる。
とは言え僕は、その事に『手が離れた!』なんて喜んだりはあんまりしない。
勿論嬉しいよ? 嬉しいんだけど、《共有》があってもやっぱり子供達のことは心配だし、やっぱりあれだけ毎日くっついてきた子達が30羽も一気に減ると、お母さんはちょっと寂しいです・・・ん? 君達どうしたんだい? あぁ、大丈夫だよ。君たちがまだ居るし、お母さん寂しくないよー。
え、ギューしてくれるの? よし、ギュ~っ! ムスコニウムとムスメニウム補給完了、ほら遊んどいでー。
まぁ、こんな感じですわ。子供達は相変わらず可愛い!
あとは結構時間も空くので、ヘイル隊長さんの依頼で街のあちこちを補修したり強化したり、魔術ギルドのお掃除をしに行ったりする毎日だ。
子供達は元気だし、街の人達は優しくて仲良し、ギルマスやディアスさんといった権力側の人も親切で過ごしやすい。
お金の不安もなくて来たばかりの頃の苦労は何だったのかという充実した日々なんだけど、思う事が無いでもない。
それは治療院のこと。
今この街は僕たちウサギの月魔法《月光華》によって維持されている。
それは街の人の小さな怪我や病気の事じゃない、冒険者さんや騎士さん衛兵さんの事だ。
人類圏の境界線に建つこの街は毎日街と国を守り続けていて、怪我人が絶えない。治療院の存在は必須なんだ。
その役目を今は僕が担っているわけなんだけど、言うまでもなく僕はお医者さんじゃなく、これをずっと続けるわけにもいかないんだよね。
だって僕たちに何かあったら止まっちゃうじゃん。
それに抗体をつけたり骨を強くしたりって理由で、必ずしもすぐに治すのが良いってわけじゃないって聞いたことがある。
それに本当に月光華で完治しているのか、それを確認する術が鑑定の魔道具しかない。
やっぱり知識を持ったお医者さんの存在は必須だ。
そんな感じで「どうしよっかなー」と考えながら過ごしていた頃に、僕はギルマスに呼び出されたのだった。
◇◆◇◆
「ちーっす、呼ばれて来たよー!」
「ぷぅ♪」
「ぷぷぅ?」
「おぉ、来たか。丁度いいタイミングだな」
僕と子供達がギルド長室に入ると、そこには相変わらず人型の筋肉にしか見えないグスターさんとヘレンさん、そして今日は何か知らないけどディアスさんと初めて見るお婆さんが居た。
お婆さんは目付きが鋭くて、なんか何も悪い事してないのに怒られてるような気持ちになる。
躾に厳しそうで、いかにも頑固婆さんといった雰囲気だ。
「ディアスさんも揃ってどうしたの?」
「いやな、今街の治療をイナバ達で担っているだろう? それは街の機能としても健全ではなくてな、どうにかしようと話し合っていたところだ。そしたらお前さんが丁度ギルドに来たと聞いたので来てもらった」
「こっちのは薬師ギルドのギルド長で、マリーって名前の頑固婆さんだ」
「こりゃっ、グスタ坊!! それが初めて顔合わせする人間にする紹介かねっ。お前はギルド長になっても本当に何も変わってないねっ、そもそもお前もディアス防も昔っから礼儀知らずで──」
「とまぁ、この様な御仁だ」
うん、もはや説明要らずだな。
それにどうやらお婆さんは、ディアスさん達の古い知り合いみたい。というか叱り叱られの関係かな? 怒鳴られるたびにギルマスがちっちゃくなっていく。
薬師ギルドってのは、文字通りお薬を扱っているギルドらしい。
ここで言う『お薬』と言うのは、地球でも馴染みのあるあの薬たちの事だ。
ただ流石に錠剤を作るのは不可能なので、たぶん扱っているのは粉薬、塗薬、飲薬、丸薬辺りだろう。錠剤作るのって、結構な技術力が必要だからね!
しかしどうして薬師ギルドが? 薬ってことは治術ギルド関係だろうし、冒険者ギルドと一緒に何かするとは考え辛いんだけど・・・。
「あ? 何言ってんだ、冒険者ギルドは昔っから薬師ギルドと仲良いぜ?」
いや、知らんがな。
「お嬢ちゃん、改めて自己紹介させて貰うよ。私はマリー、薬師ギルド長さね」
マリーさんは怒っても無駄だと諦めたのか、ギルマスに怒鳴るのを止め僕に向き直り、僕の疑問に答えてくれた。
「お嬢ちゃんが言っていた通り、治術ギルドと冒険者ギルドは・・・と言うより、治術ギルドと仲が良いギルドは無い。そして薬師ギルドは治術ギルドの影響下にあるギルドだったが、そもそもこの街に先に居たのは薬師ギルドの方なんさね。だから冒険者ギルドと薬師ギルドは繋がりが深いんだよ」
「そうなのっ!?」
こいつは驚きだ、てっきり治術ギルドと一緒にドスに来たんだと思ってた。
マリーさんが言うには、そもそも薬師ってのはその地に根付いた民間療法が精錬化されたもので、『その地でしか生えない薬草を使った薬』や『その土地の気候でしか作れない薬』が多く、薬師ギルドはその知識を共有し合う為の組織らしい。
つまり治術師のように人の行き交いが無いってことだね。
そしてその性質上薬師は街の人寄りの為、宗教の教えだとか地位や名誉やお金の為に癒す治術ギルドと反りが合わない。
なのに何故治術ギルドに与していたかというと、それは薬と魔法の違いによる仕事の独占を防ぐ為だ。
治術や魔法薬の最大のメリットは『即効性』だ、使えば立ち所に怪我や病気が治る。
正直、薬の超上位互換と言っても過言ではない。だから治術師が患者を独占すると、薬師は仕事が無くなってしまう。
マリーさんはそれを防ぐ為に、治術ギルドの下に付かざるを得なかったらしい。
「薬師ギルドは各地の薬師の知識を共有し合う為の組織だからね、別に知識を持っていかれても痛くも痒くも無いのさ。ただ仕事が無くなり後継者が途絶えると、技術が失われる。それだけは防ぎたかったんさね」
「薬師ギルドが干上がらないよう、裏で冒険者ギルドが斡旋してたのさ!」
「なるほど、ギルマスってちゃんとしてたんだね。あと冒険者ギルドと仲の良いギルドがあったのもビックリ」
「何言ってんだ。素材を卸す『商業ギルド』、長距離移動で世話になる『従魔ギルド』、装備なんかで関わる『錬金術ギルド』『鍛冶ギルド』辺りは昔っから結構仲が良いぜ?」
言われてみれば確かにその通りだ。
寧ろ周りを殆ど敵に回しても平気だった治術ギルドの方が可怪しかったんだな。
そこまで聞いたところで、僕は話を元に戻す。
「それで、『それをどうにかしたい』ってどうするの?」
「それなんだよなぁ」
「それさね」
「それだなぁ・・・」
やっぱり魔法薬のメリット、お薬のデメリットの影響が強過ぎる。
まず治術はすぐに効くのが最大のメリットであり、魔力が続く限り何度でも使える。
デメリットとして魔力酔いがある事、そしてお金がかかる事だ。まぁこれは治術ギルドのせいだね。
そして魔法薬のメリットも即効性だ。あとは携帯できる事。
デメリットとして魔力酔いと、連続使用ができない事。飲み物だからおトイレが近くなっちゃうんだって。
ちなみに魔力酔いっていうのは、体の中に自分以外の魔力が混じるせいで車酔いみたいな状態になること。
上手く魔力を練ることも出来なくなって、最悪一生魔力が練ることが出来なくなるみたい。怖っ!?
対してお薬は、魔力酔いが無い代わりに効果が出るのが遅いのがメリットとデメリット。
別に効果が低いわけじゃないよ、たぶん地球の薬と同じだ。ただ飲んだ瞬間治る魔法薬と比べるとねぇ・・・。
他に挙げるとしたら、他二つに比べて格段に安いくらいかな。
そこまで考えていたところで、僕はふと気が付いた。
「あれ? でも治術師ギルドが無くなったから、治術師って居なくなったんじゃなかったっけ?」
「いや、実は治療院が閉まる前に大量の脱退者が出てな。殆どが嫌々従っていた者達で、犯罪も犯していなかったので一時的に魔術ギルド預かりで保護しているんだ」
「ロリキョメデス達、意外なところで役立ってるね」
「あのプライドさえ何とかなれば気のいい奴ばっかりだったからな! 今じゃ一緒に酒だって飲んでるぜ」
そりゃ良かった。
でもそうか、これはその一時的に保護している治術師達の再就職も兼ねているんだね。
冒険者さんや街の人のことを考えると、治術師の存在は必須。
でもそのまま仕事を再開させると、薬師さんにとっては何も変わらない。寧ろストッパーが居なくなったことで悪化する可能性すらある。
「みんな生活があるからねぇ、早く治る方に目が向くのは仕方ないよね」
「そうなんだがな、しかし魔力酔い中に使える回復手段は薬だけなんだ」
「う〜〜ん・・・」
何とか治術師と薬師を差別化する方法はないもんだろうか?
結局その後も案を出し合ったけど、良い答えは出なかった。
そして話は各自持ち帰り、後日また出し合う事に。
っていうか、こんな難しい話をなんでウサギに話すかなぁ、僕に聞くような事じゃなくない?
僕は微妙に納得いかない気持ちを抱きつつ、ルーティーンに戻った。
◆◇◆◇
困ったなぁ。そもそもね、そういう難しい話をする場に僕を呼ばないで欲しい。
僕はウサギぞ? なんだと思ってるのか。
まぁ案に関しては出せそうなら出す感じで良いや。
僕は今日も子供達を連れて冒険者ギルドへ来ていた。
というのも、遂にヘイル隊長さんからの依頼を完遂してしまったのだ。
これは僕にとって由々しき事態だ、ウサピンチ再び! 今回はややお金に余裕がある為、前ほどのピンチは起きてない。けどそれだって長くは続かないから、花畑作る以外の仕事をしなきゃね。
あれ・・・これ、治療の仕事無くなったら詰むんじゃね?
ちょっと怖いから、その辺りもディアスさんに確認しておこう。
結局そんな良い仕事がすぐ見つかるわけもなく、僕はガッカリしながら訓練場にいるウチの子達の元へ戻る。
子供達は街の子達と遊びつつ訓練場に月光華を咲かせていた筈なんだけど、僕が戻った時そこには何かとんでもないファッションセンスの男達が居た。
「ぷぅっ、ぷぅっ」
「ほうほう、じゃあ今のところ強さは同じぐれぇなのか?」
「ぷぷぅ、ぷー」
「兄貴たちの方が、もっと上手く人形を使うのか。何てヒャッハーな坊主たちだ」
何だあれ?
そこではカラーバリエーション豊かなモヒカンに、世紀末のモブキャラみたいなトゲトゲ装備を身に着けた六人の男達が、ウチの子達と泥人形について語り合っていた。
ちょうど今喋ってるのは年中組のオスの子だ。
「んーと、ウチの子がお世話になりまして?」
「うおっ、デカ・・・くはないか。なんだぁ、このヒャッハーなウサギは?」
「おいおい、お前みたいにヒャッハーでイケイケな見た目の女のガキは一人で歩いてると危ないぜぇ。送ってやるから、お父さんとまた来るんだぜぇ」
・・・どうやら僕を心配しているらしい? 見掛けによらず良い人らしい。
確かに僕って見た目は子供だしねぇ、ただし魔境を生き残るしぶとさを持ったウサギだが。
「ぶぅっ! ぶぅっ!」
「ぐぅっ! ぐぐぅっ! ぶー!」
「(だむだむっ!)」
「な何だってっ、このイケイケなガキ──お嬢さんが坊主達の母ちゃんなのかっ!?」
「しかも200人全員っ!? なんてヒャッハーな嬢ちゃんなんだっ!?」
「はい、この子達のお母さんです。心配してくれてありがとう、これでも結構しぶといから大丈夫だよ」
僕は集まってきた子供達を順に撫でながら、モヒカン達にお礼を言った。
モヒカン達はまだ信じられないのか、口を開けてこっちを見ている。
彼等はモヒカンの色こそ違うけれど、装備も背格好も、そして顔も六人全員同じ見た目をしている。もしかして六つ子?
声や口調まで一緒だから、こりゃ色で見分けないと区別つかないぞ。
それにしても六人全員ファッションまでこれってどうよ? 母親の心労もトップ高だろうな。
僕だって子供達全員がこんなファッションに目覚めたら・・・うん。どこの暴走族だって思うだろう、映画の撮影だと勘違いするかも知れない。
作品はきっと「実写版:北◯の拳」か「マッ◯マックス」だな。
「坊主達は明日も来るのか?」
「ぷぅーぷっ!」
「これ、仕事なのかっ。そんな年から働いて、偉ぇんだな」
「ぷっ!」
「なるほど、家族の為か。その心意気、実にヒャッハーだぜ」
子供達も彼等を安全と判断したみたいで、実に和気藹々と話していた。
この感じだと、明日来た時にまた遊んでるんだろうな。
・・・・・・ん?
あれ・・・コイツ等、ウチの子達と喋ってるっ!?
異世界での薬って生き残り難しそうだよね




