4羽:見えちゃったウサギさん
ウサギ語の大味説明(会話内容は想像しましょう)
『ぷぅ、ぷぷぅ♪、きゅっ! きゅー♪ ごろごろ』
・・・嬉しい、楽しい、興奮、甘えたい、気持ちいい
『ぐぅ、ぐーっ!、ぶぅ ぶー だむだむっ!(足ダン)』
・・・不満、怒ってる、警戒、拗ねてる、羨ましい
『くー、くぅーん、きーっ! だんだんっ(足ダン)』
・・・怖い、危ない、痛い、悲しい、寂しい
ベッドに横たわる領主夫人は、とても言葉で言い表せない状態だ。一体何をすればそうなるのか・・・彼女の身体には『罅』が入っていた。
罅だ、比喩でも何でもない。文字通り本当に罅が入っていて、今もピシリ、ピシリと広がり続けている。
そして彼女の手足は割れて無くなっていた、断面はまるで硝子のよう。ウチの子達ですら触れるのを躊躇う様子から、どれほど痛ましい状態かが伝わって来る。
「何が起こればこんな事に・・・」
「それが、俺にも分からないんだ。妻の手足に突然罅が入って、あっと言う間に砕けてしまった。それから速度は落ちたが少しづつ罅は広がるばかり・・・」
「突然・・・鑑定はされましたか? 状態は?」
「治術ギルドにして貰った、だが詳しいことは分からなかった。ただコレが呪いであること、そして妻がこのままだと助からない事だけが分かった」
「そうだったのですか、それで俺達にあの薬草を・・・」
「あぁ、君達には悪い事をしてしまったな」
「いえっ、俺達はただ街にいつかの恩を返せればと思っただけです。お気になさらないで下さいっ!」
突然罅が入った? コレがモンスターの攻撃などを受けた結果ならまだ分かる。でも突然?
あと気になるのがこの状態だ。人間の身体が割れているのに血が出ていない、というか人間の身体ですらなくなっている。
聞いてみると、スープ類だけだが栄養は摂っているそう。でも罅は全身に広がっている、飲んだスープは何処へ?
「夫人様がこの症状になられてどのくらいですか?」
「三ヶ月だ」
もし栄養が身体に吸収されていないなら、罅から漏れ出るし餓死するはずだ。
でも領主夫人は痩せてこそいるが、肌艶は良い。これは栄養が回っている証拠、となると考えられるのは・・・。
「領主様、僕が回復に使う魔法は《月魔法》と言って、少し特殊なものです。恐らく月明かりの強い夜の方が、そして満月に近い方が効果が高いでしょう。それまでお時間を頂けませんか?」
「旦那様、次の満月は三日後です。それにもし本当に子兎達が居るだけで回復効果があるのだとしたら、それまで居て頂いた方が宜しいのでは?」
僕のお願いに、近くに居た執事さんも賛同してくれた。ただ泊まるって・・・200羽だぞ?
「確かにお前の言う通りだ、良かったらそれまで屋敷に居てくれないか?」
「分かりました、僕も心配なので問題ありません」
「それと、その堅苦しい話し方はしなくて良い。俺の事はディアスと呼んでくれて良いぞ。俺もイナバと呼ぼう」
「私は家令のジャスパーと申します。どうぞお見知りおきを」
めっちゃフランクッ!
それに200羽泊める気らしいぞ、すげぇな。
「部屋は如何致しましょう?」
「あ、それは庭を貸して戴けたら家を作ります」
「そう言えばイナバは家作りの達人らしいな、一度見てみたかったんだ。よし、許可する」
こうして僕達の初めてのお泊りが始まった。
僕達に与えられたのは先程とは違う庭。手入れされた木々は無く、資材置き場のような扱いになっている。
「ここを使って良いぞ、さぁやって見せてくれ」
「分かったよ。皆配置についたかな?」
『ぷぅいいっ!』
「今回は上二階、下三階だ、途中で分担してね。じゃあ開始っ!」
土がモコモコと動き出しせり上げる。イメージしたのは外国のかまくら、雪ブロックの家『イグルー』だ。
ただちょっとアレンジを加えていて、イグルーが泡のように沢山積み上がる形にした。
というのも、与えられた場所が兎御殿程のスペースも無かった為、どうしても家は縦に長くなる。そうなると200羽が家に入るのに時間がかかるので、入り口を増やそうという考えだ。
外観ができた為、子供達は中へ入り内装を整えていく。やっぱりゴツゴツしていると、もたれたり寝転んだりし辛いからね!
僕達の作業風景を見て、みんなあんぐりと口を空けている。訂正、家令のジャスパーさんだけは一瞬だけ目で驚いて、今は平静を装っている。
おーい、口の端が引き攣ってるの見えてるぞー。
「は、初めて見たがコレは・・・これがイナバの土魔法。えっ土魔法とはこんな感じだったか?」
「恐れながら旦那様、イナバ様の土魔法は既存のものとは全く異なります。最早別の魔法と考えるべきでしょう。・・・まぁ、土魔法ですが」
ステータスにそう書いてあるしな。
「まぁ取り敢えず、これで寝床は問題ないな。一応騎士とメイドを付けておく、何か必要な物や用事があれば言ってくれ」
「じゃあ、その人達が寛げるスペースも作らないと!」
「いや、寛がせてどうするんだ! 全く、お前はどこかズレてるな」
魔境育ちなもので、テヘペロ☆
「あとは食事についてだが、スペースの問題もあるから騎士用の食堂で良いか? 悪いが順番で摂っていってくれ」
「あ、それなら一つお願いしても良い?」
「何だ?」
「厨房を使わせて欲しい、この子達に手料理を食べさせてあげたいんだ」
「きゅう?」
僕達は魔境育ちだ、当然料理なんて出来る環境じゃ無かった。
火を焚くこともできない、必然的に僕達が今まで食べてきたものは全て『生』だ。
だが先日、僕は料理をする機会があった。まぁ患者さん用のご飯だけど。
んで、それが《共有》越しに子供達に伝わってしまった。
僕的には相手が患者さん、僕らで言う所の『弱っている個体』用のご飯だからセーフかなぁと思ったんだけど、どうやらアウトだったみたい。
その時の子供達の拗ね方たるや凄まじいもので、五年間生活を共にした僕ですら見たことが無い程の駄々こね。ヤバかった、めっちゃ可愛──大変だったんだ。
皆でぶーぶー言いながら足ダンしてるの、あー怖い。あまりの恐ろしさに心の中でいっぱいシャッターを切ってしまった。
それはさておき、日常でも自炊の方が安く済むんでそうしたいとは僕も思ってる。でもこの人数だ、電子レンジも冷凍食品も無いから必然的に全てその場で作らなきゃならない。そうなると必要になるのが沢山のコンロやその他諸々、とても今の環境じゃ出来ないんだ。
今はとにかくお金を稼がにゃいかんからね。
でもここなら。領主様の屋敷の厨房だ、パーティーもやるだろうしきっと大きい筈!
子供達に手料理を食べさせてあげたいんだよぉー、この哀れな母兎の願いを聞いておくれ。
「俺は構わんが・・・」
「旦那様、この数ですし歓迎会をするわけでもありません。誰がやっても同じでしょう。食材もこの人数を想定していましたし、問題はないかと」
「なら許可しよう、好きに使え!」
「やったあああっ、ありがとう!」
そんなこんなで、やって来ました騎士団の厨房。
さて、人数も多いのでちょっと早いがご飯の準備をするか──と思ったが、その前に。
「何で居るのさ」
「そりゃあ俺の家だ、居ても構わんだろう?」
「いや、ええけど・・・」
何故か居る領主様、そしてやたら綺麗な顔の子供が二人。まぁ、それが誰かなんて予想がつく。
「イナバも数日とはいえ屋敷に居るんだ、紹介しておこうと思ってな。息子のレウスと娘のレイアだ」
「初めましてっ、長男のレウスです!」
「は、初めまして、妹のレイア、です」
赤を基調とした服に身を包んだレウス、はきはきと喋る様子が賢さと強さを感じさせる。
そして緑のドレスに身を包んだレイア、控え目なのか緊張しているのか辿々しく挨拶をしてくれる。動物が好きな優しい子なんだろう、ウチの子達はそれを察知してかレイアに近づきたくてソワソワしてる。
因みに二人は双子で十歳らしい。
あー君達、ちょっと早いよ。もうちょっとあの子が慣れてから近づこうね、ステイステイ。うん、良い子!
「冒険者ギルドで料理をしたんだろう? 凄く美味いと評判らしいじゃないか」
「そうなの?」
「知らなかったのか? まぁそんなわけでな、交流を深める意味でも食事を共にしようと思ったわけだ! 騎士達とこう出来る機会も少ないしな」
「領主様、ありがとう御座います」
あ、ヘイル隊長さん居たのか。兎に紛れて気付かなかった。
「じゃあちょっと作ってくるから、少し待ってて下さい」
「おう、期待してるぞ!」
元々騎士さん達の分も作るつもりだったから、今更3人5人増えたところで何でも無い。
料理をワンプレートづつ分けるのは流石に無理がある、というわけでビュッフェ形式で行こうと思う。
作るのはナポリタン、チャーハン、オムライス、野菜炒め、エビチリ、ポテサラ、フライドポテト、ガーリックパン、ベーコンエッグトースト。
それ等で時間を稼いでいる間に、ピーマンの肉詰め、ハンバーグ、卵焼きの味変バリエーション10種類、具材色々おにぎり、焼きおにぎり、ハンバーガーっ! あとはひたすらローテーションで作り続けてやるぜ、どうだゴラァッ!!
あ、料理人の皆さん。最初はウチの子達使っても良いからどんどん持ってって。んで冷えたら勿体ないから持ってった端から皆食べてってー! って、もう無くなったんかいっ!?
待って、追い付かないから待って、料理人さんっこの肉塊焼いてっ! で、余ったのはピーマンに詰めて焼いてっ!
そこの新人さんABC、腕が動かなくなるまで玉ねぎの微塵切りと、ミンチ作りと、エビの皮剥き宜しく頼む! 皆の胃袋は君達の腕の筋肉に掛かっている、頑張れっ! そこに《月光華》咲かせとくから、頑張れっ! おいっ逃げんなっ!
料理は大盛況、厨房は死屍累々。何か皆いつも以上に食べたらしく食材庫が空になったそうな。
ウチの子達も食べ過ぎてポンポコリン、眠くなったのかあちこちで集まって寝ていた。あ、レウスとレイアも兎に紛れて寝てる。
そして大人達はと言うと、何処から持ってきたのか酒を片手にまだ盛り上がっていた。そしてその後ろには鬼の形相のジャスパーさん。しーらねっと!
僕は最後に頑張ってくれた料理人の皆さんにご飯を作ってあげて、ただの食事会だった筈の大宴会は終了となった。
◆◇◆◇
家を作ったはずなのに何故か食堂で目を覚ました僕達。あ、そう言えばあのまま寝たんだっけ?
食堂には酒に沈んだ騎士さん数名とウチの子達。
モンスさんはたぶんジャスパーさんに回収された、レウスとレイアはたぶんメイドさんにでも連れて行かれたのかな。流石に居なかった。
「時間は、朝御飯より少し早いくらいの時間か」
僕は顔を洗う為に、兵舎の井戸へ向かう。
「ぷぷぅ?」
「ぷぅぅー」
「きゅっ、きゅー♪」
「ぷっぷっぷっ♪」
「きゅっ、ぷー♪」
僕が起きたので全員起きてしまった、まぁいつも通りか。
何だ、皆いつもより上機嫌じゃないか。良いことあったか? ご飯? あぁ昨日のか。美味しかった? そりゃ良かった。また時間を見つけて食べさせてあげるからね。
「きゅー、きゅーん♪」
「ぷぅん、ぷー♪」
「ぷぅん、きゅー!」
「ぷぷぅー、ぷぅぷぅ」
大切な子供達が、自分のご飯を食べて喜んでくれる。これ程嬉しいことって他にないよね!
僕は子供達の顔を一通り見て撫でてから、ゾロゾロと移動して顔を洗いに行った。
僕達が顔を洗い終わり、一旦兎ハウス(仮)へ戻ろうとした時に妙な胸騒ぎを覚えた。
これは何だ、妙に胸の中がチリチリする。そうだ、これは久方振りに感じた感覚──
──『仲間の危険信号』だ。
僕はすぐに子供達の顔を見渡した、全員が僕を見ている。
全員居るか? 居る・・・居る・・・居る・・・あれ? 全員居るぞ? じゃあ誰から・・・君か、ちょっとこっちおいで。
僕は呼び寄せた子2羽を膝に乗せて頭を撫でた。
2羽は可哀想なくらいビクビク怯えていた、他の子も心配そうに寄り添ってくれる。
「どうしたんだ? 何が危険なんだ?」
「くー、くぅーん・・・」
「きー、くぅん、くーっ!」
「危ない、病気、女の人? ──ディアスさんの奥さんかっ!?」
そうだ、この2羽は昨日ミラさんに会った子達だ。
「そこの子! そうセミボブのっ、君ホントいつも近くに居るね!? ちょっと皆を家に集めてまっててっ。必要ならバーニィさんも呼んでねっ!」
「ぷぅい〜」
僕はセミボブの年長組さんに他の子を任せて、昨日の2羽を連れミラさんの元に走った。
僕がミラさんの寝室に着いたとき、何故か部屋の前には昨日と同じメンバーが揃っていた。
「ディアスさんっ! ミラさんの状態は!?」
「あぁイナバか。今は治術ギルドの人が来ていてな、治療をして貰っていたんだ」
僕が部屋の中を覗くとベッドの近くには昨日と同じメイドさん、そして腹の出た豚もとい成金趣味っぽい男の人が居た。
彼はどうやら魔法で治療を行っているらしい。
「くー、くーっ!」
「ぶー、ぶぅっ!」
「イナバ、子供達はどうしたんだ?」
ディアスさんが子供達の様子に戸惑う、しかし今はそれに構ってられない。
子供達はまだ男を指差し鳴き続ける。子供達が可怪しいと言ってるんだ、絶対に何かある。
何だ、何があるっ?
子供達もただ「危ない、悪い」としか言わない。たぶんこの子達自身、何が起こっているかまでは分かっていないんだ。
確かにあの男はムカつく顔してるが、それを理由に止められない。
「せめて何をやっているか分かれば・・・」
こんな後ろから見ているだけじゃ分からない・・・そうだ、魔法だ。魔法で見ればいい。
本で読んだ、魔法はイメージだ。属性の質さえ合えば魔法は何でも出来る。
イメージするんだ。見る魔法を、見通す魔法を、見えないものが見える魔法を!
僕は《月光浴》で溜め込んだ月の魔力を目に集束させる。
「月魔法──《月読》!」
瞳の中で月の魔力が回転し形を成す。赤い瞳は形を変え、そこに満月が宿った。
僕はその目で男を見て──そして、叫ぶ。
「──っ!? そいつを今すぐ止めてっ、呪いを掛け直してるっ!!」
ターハント家の謎が解けるかな?




