3羽:お呼ばれするウサギさん
ウサギ語の大味説明(会話内容は想像しましょう)
『ぷぅ、ぷぷぅ♪、きゅっ! きゅー♪ ごろごろ』
・・・嬉しい、楽しい、興奮、甘えたい、気持ちいい
『ぐぅ、ぐーっ!、ぶぅ ぶー だむだむっ!(足ダン)』
・・・不満、怒ってる、警戒、拗ねてる、羨ましい
『くー、くぅーん、きーっ! だんだんっ(足ダン)』
・・・怖い、危ない、痛い、悲しい、寂しい
治療院のやり方に僕の堪忍袋の尾がプッツン。
詳しくは教えてくれなかったけど、向こうさんは失礼な態度をとってきただけに飽き足らず、ウチの子供に対しても随分な対応をしてくれたらしい。
「よし、コロそう☆」
僕がそうなっちゃうのも仕方ないよね?
だって、ウチの子達だよ? 天使みたいな、いや寧ろ天使そのものと言っても過言では無い可愛い可愛い僕の子兎達、もうこれは天罰を食らわすしか無いじゃん? 僕が月に代わってお仕置きしてやる。
僕はその日のうちに行動を起こした。
とはいえ殴り込みに行くわけじゃない。そんな事したら僕は犯罪者になっちゃうし、治療院が大義名分を得るだけ。
僕を許す代わりに「じゃあ治療院で刑期を過ごして貰いましょう」つって、向こうの思い通りになるだけだ。
僕がやりたいことは、向こうが立ち直れなくなるほどの大打撃を与える事。
ボッコボコにして、二度と兎に悪口が言えないようにさせてやるのが目的だ。
なーんかヘレンさんとギルマスには別の目的がありそうだけど、まぁ僕は治療院をとっちめて、そのうえで街の人達が一日でも早く安心と健康を取り戻して貰えればそれで良い。
ヘレンさんから話を聞いた時に僕は思った、「別に退院出来なくても良いんじゃない?」って。
だって、患者が増えて一番困るのは治療院の方なんだから。
これは現代の日本ではちょっと想像出来ないかもしれないけど、治術ギルドは治療院に入院した時に入院費用を取らない。
これは国と交わした取り決めで、治療内容と治療期間は様々なので治療費を高めに取り入院費に充てるという方法をとっているからだ。
この辺は当時まぁ何か色々あったんだろう、詳しくはヘレンさんに聞いていない。
つまり治療院は入院患者の数が増えれば増えるほど損をする仕組みになっている。だから治療院としてはさっさと治し、早く帰って貰うほうが得なのだ。にも関わらず、治療院は患者を退院させないという。
治療をする気も無いから、街の人達を助けたかったら治療院に来いってこと。僕達が街の人達と仲が良いことを知っているからこそ取った手段なんだろう。人情に付け込んだ酷い手段だ。
だが、僕をそう簡単に手玉に取れると思わないことだ。
僕は奴等の思惑を逆手に取る方法を選んだ。正直僕自身やって気分の良いものじゃないけど、今後良いように使われるよりマシだし、ギルマスとヘレンさんに聞いたらそれで僕達を悪く思う人は居ないだろうとのこと。
太鼓判を押してもらえた僕は、ギルド職員さん一人と子供達10羽のチームを幾つか作り、街にいる傷病人を集めて貰う。
その間に僕は訓練場へ移動、そこに月光華の花畑を作った。
「嬢ちゃん、ありがとう。お陰で明日から依頼を受けられるよ」
「俺は怪我してた訳じゃねぇんだが、どうにも疲れが取れなくてな・・・。齢かと思って諦めかけてたんだが、これのお陰で力が漲ってくるっ」
「ウチ等はこれのお陰で身体も肌も調子が良くってさ、この子なんて最近彼氏出来たのよ」
「や、やめてよぉー。子供相手に何言ってるの! でもありがとう、全部貴女のお陰よ」
不調で休んでいた冒険者さん達が口々にお礼を伝えてくれる、凄くくすぐったいけど何度言われても嬉しいもんだ。
「こっちこそありがとう。ところで、すぐじゃ無いんだけど皆に協力して欲しいことがあって。しっかり休んだあと、良かったらヘレンさんに声を掛けてくれない?」
「協力? ウサギちゃんの方からなんて珍しいね。良いよ、行ってみる」
「おー、俺達も良いぜ。可愛い女の子の願いを断るのは男が廃るってな!」
冒険者さんは僕達家族に負けず劣らず仲間意識が強い、きっと沢山の人が協力してくれる事だろう。
僕は皆に手を振り訓練場を後にする。次にやってきたのはギルドの厨房だ。
冒険者ギルドはそれ程本格的では無いが、一階のホールで食事が取れるよう大きな厨房が備えられている。わりと利用者も多いそうで、ギルドの大切な収入源の一つだ。
僕はそこで幾つかの料理を作った。消化に良いもの、歯が悪くても食べられるもの、血になりやすいもの、栄養価の高いもの、スタミナのつくもの、本当に色々だ。
僕は生前わりと自炊する方というか、「食べるなら美味しいものが良い」と理由だけで独学で練習していた為、様々なものが作れる。
まぁ素人料理なんで、ちょっと雑なのは勘弁してほしい。とにかくこうして傷病者を受け入れる準備は完了した。
そうしている間に、子供達が数羽で街の人を運んできた。そして僕に撫でられ、チームの元に帰っていくが、連れてこられた人達は困惑気味だ。
「あのぉ、冒険者ギルド職員さんに軽く聞いたんですが、治療してもらえるとか・・・」
「私、治療院で治せなくて諦められたんだけど」
「私も持病が・・・」
「全員問題なし! みんなこっち来て!」
僕は彼らが安心できるよう優しく笑顔を見せ、手前に居たお兄さんの手を引いて花畑まで案内した。
「なんて美しい・・・」
「それに何だか温かい、ここは天国かしら?」
「ここは冒険者ギルド、そして僕が作り出した花畑だよ! 身体が治るまで、どうかゆっくりしていって。お腹が空いたら、さっきのホールにご飯も作ってあるからね」
皆戸惑い気味だったけど、先に休んでいた冒険者さん達が上手く説明をしてくれたのか次第に思い思いの場所で寛ぐようになった。
「なぁ、お嬢さんは教会の人かい?」
「全然違うよ、僕はただの冒険者! こないだ来たばっかりなんだけど、困ってた時に皆に優しくして貰ってね。これは恩返し!」
「そうか、冒険者にも色んな人が居るんだなぁ」
そうだよ、良い人達ばっかりさ!
「世の中はまだまだ捨てたもんじゃないのぉ、なぁ婆さんや?」
「僕はお爺さんの奥さんじゃないよー。ただそうだね、冒険者さんは見た目怖いけど良い人が多いよ。頼って良いと思う!」
「怖い・・・俺等の顔は怖いのか・・・」
おーい、ガックリすんなー。
「嬢ちゃん、その飯って俺も食って良いのか? というか嬢ちゃんの手作り?」
「うん、僕が作ったよ。食べても良いけど、これから来る人用だから量は遠慮してね!」
「─っしゃあ!」
・・・何が嬉しいんだろう?
それから僕は次々と運ばれてくる人達を、花畑に運び癒した。
そして腹を満たし帰る人達に、困った事があれば遠慮なく冒険者ギルドに来て欲しいこと。それを周りに伝えて欲しいとお願いした。
勿論みんな心から了承して笑顔で帰って行った。
・・・しめしめ、計画通りだぜい☆
◆◇◆◇
「僕に招待状?」
「はい、差出人は領主様のディアス・ターハント・ドス防衛都市伯様です」
計画を開始して二日。そろそろ本格的に動こうかと思った日の朝、兎御殿をヘレンさん、更にクレアさんとクレマチスさん含め5人ほどの女性騎士さんが訪ねてきた。
相手は領主様、だからクレアさん達が居るんだね。
「龍の翼がこちらに泊まっていることも知っていますので、子供達全員と一緒に来て欲しいとの事です」
「子供達全員? 結構な人数だよ、大丈夫?」
「はい、領主様も人数は把握済みな御様子です。大丈夫でしょう」
なら大丈夫か。
何の用事か知らないけど、まぁ領主様だしね。前に報奨も貰っちゃったし断る訳にはいかない。
僕は招待状を受け取った、ただ・・・。
「ちょっと二時間くらい待ってもらって良い?」
「我々も手伝いましょう」
200羽もいると準備に時間がかかるのさ。
普段ヘイル隊長さんに会うときとは違う入り口から僕達はお屋敷に入った。
まぁお屋敷に入ったと言っても僕達はこの人数。正しくは綺麗に整えられた庭に案内され、そこで寛いでいた。
「綺麗な庭だね、バーニィさん」
「俺も何度か招待を受けた事はありますが、この庭に入るのは初めてです。確かに美しいですね」
「花とか詳しくないけど、ウチでもこの庭が凄いのは分かるよー」
「き、きれいですねっ!」
バーニィさんが領主様と知り合いなのは聞いていたから分かるけど、初めて来たにも関わらず超リラックスしてるマリアちゃんは一体何なんだろう?
反面、アルメリアさんは怖がり過ぎてブルブル震えてる。スマホのバイブみたいだ。あぁでも僕の腕を抱えてるからポヨポヨが当たって気持ちいい。
「その様に言って頂けると領主様もさぞお喜びになられます」
「クレアさん、領主様ってどんな人?」
「そうですね・・・誠実で優しく、優れた領主様かと。あと、筋肉ですね」
「筋肉?」
「筋肉です」
頭の片隅で「がーっはっはっはっはー!」と笑う筋肉の顔がチラリした。
まぁ、会えば分かるだろう。
そうして寛いでいると、騎士を連れた大柄な男の人が現れた。
騎士さんをよく見るとヘイル隊長さん、と言うことはこの人が領主様か。
膝とか着いたほうが良いのかな? 作法が全く分からん。取り敢えず龍の翼やクレアさんの真似をして、子供達には《共有》で「お母さんの真似してねー」って送っといた。
「君が秘境の兎イナバだな? 私はこの街の領主、ディアス・ターハント・ドス防衛都市伯と言う。突然連れてきてしまって悪かったな」
「い、いえ。今日はその、特に用事もなかったので・・・」
まぁ用事と言えば、料理作って花を咲かせるくらいだし。
「実は君にお願いしたい事があってな、屋敷に入ってきて欲しいのだが・・・君一人だけで動く事は出来るか?」
「うーん、屋敷の中迄なら何とか。あぁでも2羽は連れて行っても良いですか? 僕達兎は一人になるのを極端に嫌う種族なので、この子達も僕を一人にするのが嫌みたいなんです」
「うむ、二人程度なら問題ないだろう」
僕は群れから最年少の子2羽を選び、他の子をにはこの庭に《月光華》を咲かせてもらうよう頼んだ。
近くに居たセミロングボブの男の子・・・この子最近よく近くに居るな。
他の子、君に任せて良い?
「ぷぅぅいっ!(敬礼)」
右耳をピピッと動かし、答えてくれる。うん、大丈夫そうだね。
僕はこの子に群れを任せて、屋敷に向かう事にした。
「これが噂の花か。うむ、確かに美しい」
「回復効果があるので、屋敷で調子の悪い人や怪我をしている人は、ここで少し休ませてあげてください」
「感謝する。クレア、クレマチス、屋敷の者に声を掛けてやってくれ。では行こう。それとバーナード、君も一緒に来てくれ」
「は、はい。分かりました」
僕は領主様に連れられ、屋敷の中を歩く。
中は絢爛豪華といった感じはなく、最低限の装飾に芸術品。配置がよく考えられていて、嫌味なく、でも目を飽きさせない、そんな配慮が見て取れた。
清掃が行き届いていて、窓硝子には曇り一つない。屋敷の人皆がこの場所を大切にしているんだなということが凄く伝わる。
そうして進んでいった先で、僕達は一つの扉の前で立ち止まった。
扉の左右、その対面にも騎士が立ち、この場所がどれほど大切な所なのかが伝わってくる。
「ここだ。この場所は寝室でな、俺の妻が伏せっている。バーナード、君に以前依頼した事を覚えているか?」
「はい、確か月霊草と言う植物を採取してきて欲しいと・・・」
「それは彼女の為のものでな、妻は今も苦しんでいる。先日君に貰った物を試したが、残念ながら効果は無かった」
「そうでしたか・・・」
前回、魔術ギルドで月霊草が生えた時にバーニィさんが欲しいって言ったらからあげたんだけど・・・そっか、領主様にあげたんだね。
夫人が伏せる部屋の重々しく開いた扉から流れ出る空気は非常に重く、それがまだ見えていない夫人の状態の悪さを物語っていた。
部屋の真ん中に天蓋付きの大きなベッド。隅にはお見舞いの品だろうか、沢山の包みが積まれ、部屋にはハーブの様な香が焚かれている。
「ミラ、調子はどうだい? 君に可愛らしいお客様を連れてきた。少しだけ騒がしくさせて貰うよ」
「はぁ・・・はぁ・・・お、客さ・・・? 私、こん・・・すがっ」
「どうかそのままで。初めまして、イナバと言います。この子達は僕の可愛い家族、凄く癒されるのでお側に置いても?」
「ふ、ふっ・・・かわ、いい・・・えぇ、いらっ・・・しゃ」
「ぷぅっ!」
「ぷぅぷぅ!」
僕達兎は、弱っている個体に寄り添う習性がある。
子達は領主夫人を労りつつ、すぐにそばに着いた。この子達の力で少しは楽になることだろう。
「この子達には《月光浴》と言う回復効果が備わっています。側にいる人にも効果があるので、少しは楽になるでしょう」
「そうなのか、それは凄いな」
「ただ改善とはいきませんし、出来るかも分かりません。僕は何をしたら良いですか?」
領主様は一度ぐっと目を瞑り、そして捻り出すように僕に言った。
「イナバ、君は回復と解呪の力があると聞いた。だから君に妻の──ミラにかかった呪いを解いて欲しい」
悪いことをするとウサギは黒くなります(嘘)




