2羽:勝手に話を広げられるウサギさん
ウサギ語の大味説明(会話内容は想像しましょう)
『ぷぅ、ぷぷぅ♪、きゅっ! きゅー♪ ごろごろ』
・・・嬉しい、楽しい、興奮、甘えたい、気持ちいい
『ぐぅ、ぐーっ!、ぶぅ ぶー だむだむっ!(足ダン)』
・・・不満、怒ってる、警戒、拗ねてる、羨ましい
『くー、くぅーん、きーっ! だんだんっ(足ダン)』
・・・怖い、危ない、痛い、悲しい、寂しい
ウチの子達を迎えに冒険者ギルドへ戻ってくると、既にヘレンさんが子供達と共に戻ってきていた。
わー、お早いお戻りでー(棒)
「んで、どうなったんです?」
「こちらの予想通りになりました、ただ少し面倒な事になりまして」
「え、これ以上面倒な事になることってある?」
これ以上何が起きるっていうんだろう。
僕の質問にヘレンさんは大きな、それはもう体中の空気を吐き出すかのように盛大な溜息をつく。ギルマスも額に手を当てていて、気のせいか少し筋肉が萎んでいる。
「・・・退院を拒否したんですよ」
「え、そんな事ってある? 治療して貰えなくなるかもしれないんだよ?」
よく分からない魔法を使われるくらいなら、お金と時間がかかっても薬の方が良いって事だろうか?
患者さんの気持ちを考えると、まぁ分からなくもない。
「違うんです、退院を拒否しているのは治療院側なんですよっ!!」
・・・はぁっ!? 何で治療が間に合って無いのに、差し伸べた手を拒否るんだよ!
間に合わないから依頼出したんだよねっ、何で拒否るのさ! 患者さん殺す気かっ!!
「向こうはなんて言ってるの?」
「出発前に決めた条件を話しましたら、『じゃあ治療院で治せばいい』と言われました。どの道治すならどこでも一緒だろうと、『治療は止めるからここで治していけ』と言われましたね。イナバさん達を登録させることが出来なかったから、せめてイナバさんが治した人から治療費を掠め取ろうって魂胆なんですよっっっ!!」
「どこまでも巫山戯た奴らだ、だがこっちが無理矢理連れて行くことも出来ねぇ・・・」
えっ、何で? 退院は自由意志だったのでは?
「病状に合わせて、治療院では患者の要望を拒否できる。その状態でこっちが連れて行けば、ただの誘拐だ」
「現状、患者さんを連れてくる方法がありません」
「そ、そんな・・・そこまでして金がほしいのっ」
「くぅーん・・・?」
「くぅ? くぅぅ?」
僕が治療院に行かないと治せない、でも治療の実績は向こうの物になる。
別にこの際治療費とかはどうでも良い、僕だってお金がかかるわけじゃないし無償でやっても良い。ただ僕が治療院で治療をしたって実績が残るのだけは不味い。
冒険者ギルドの依頼は却下された、この状態で治療に行ったら僕が薬師ギルドに所属していると言ったも同然だ。次も拒否できないし、したら僕にヘイトが向く。
僕は良いとしても、子供達にヘイトが向けられるのだけは阻止しないと。でもどうしよう・・・。
「治術ギルドってぇのはな、バックに教会が居るんだ。教会は薬と魔法、治療に関わる全ての物を掌握しておきたいのさ。『命を助けられるのは神、ひいては教会のみである』とでも言いたいんだろうよ。だから希少な魔力回復も出来るお前さんを手元に置きたいんだろう」
「・・・ぶち殺してやりたいデス」
「へ、ヘレンさん・・・今、鉄のバインダーが『メコッ!』って言ったよ?」
さて、どうしたものか・・・どうにかして実績を作らずに治療する方法を考えないと。
退院をさせられないってのが痛いな、向こうは僕が来るのを待っていれば良いだけの状態だ。
僕は治療してあげたい、患者さんは退院出来ない、治療は治療院でしか出来ない。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・ん?
・・・退院出来ない? 患者さんが退院出来ないから、僕は困ってたんだっけ?
違う、退院出来るか出来ないかは結果論だ。
「そうか、これなら・・・ヘレンさんちょっと聞いてほしい」
「何かいい方法が?」
僕はヘレンさんとギルマスに考えを伝えた。
それを聞いた二人からは「それは良い!」と太鼓判を押されたため、実行に移すことに。
ふふふっ、僕も中々悪どい事を考えるようになってしまったな。
その内黒兎になってしまうかも、なーんて考えて一人でクスリと笑うのだった。
◆◇◆◇
ドスにある治術ギルドは、まるで城と見紛うほど豪華で領主邸をも超える巨大な建造物である。
本来、街の建造物とは領主の屋敷を超えるものを作ってはいけない。
何故なら領主とはその街の象徴。権威を示す意味でも、配慮し作るのが常識である。しかし、治術ギルドはそれを無視し、富の限りを尽くして建物を建てた。まるで、『街の本当の主が自分たちである』とでも言うように。
こんなもの本来ならば侮辱罪も良いところである、しかし領主は強く出られない理由があった。それは治術ギルドのバックに教会が居ること、そして此処が防衛都市であることに起因する。
治術ギルドは癒しに関する全ての技術、知識、魔法を独占している。
防衛都市であるドスはその性質上傷病人が絶えない。先日も城壁が破壊され、激しさは増す一方である。そんな街を支えているのが、治術ギルド。彼らが居なければこの街を維持する事は困難を極める。
その為、領主はどれだけ治療費で足元を見られようと、どれだけ街で好き勝手されようと、領民の為を思えば野放しにするしか無かったのである。
この街の領主、ディアス・ターハント・ドス防衛都市伯は窓から見える治術ギルドを忌々しげに睨んでいた。
「俺が不甲斐ないばかりに、あの様な者達の横暴を止めることが出来んとは・・・つくづく自分が嫌になる」
「そのような事をおっしゃられないで下さい、旦那様。我々家人は勿論の事、騎士も領民も、旦那様がどれ程心を砕いて下さっているか、よく存じております」
「だがアレに強く出られないのは、俺の個人的な理由だ、それで勝手を許しているのだから・・・情けない」
家令はディアスに感謝を伝えるが、武人らしい厳つい表情は曇り、申し訳無さを滲ませていた。
「まだ足りんのだ、街を変えるにはまだ・・・お前達には苦労をかけるが、もう暫く辛抱してくれ」
「何をおっしゃいますかっ。我々こそ、己の不甲斐なさに憤りを覚えるばかりですっ」
街には決定的な鍵が不足していた、物事が大きく動いてもそれに動じず支えられるだけの力が。
これがいつまで続く? ディアスが強く握り締めた拳には血が滲んでいた。
そこへノックの音が響く。
「もー少し声は控えた方が良いぜ、せっかくの内緒話も丸聞こえだ」
ディアスの返事も待たず扉を開け姿を現したのは『人型の筋肉』と呼ばれている巨漢の男。冒険者ギルドのマスター、グスターである。
ディアスはグスターの振る舞いに気にした様子も無く答えた。
「アイツ等は俺を舐めているからな、聞こえたところで口だけだと思うだろうよ。実際そうさ」
「おいおい、しっかりしてくれよ。これからやらかそうって時に!」
「・・・何をする気だ?」
ディアスとグスターは古くからの友人であり、先程のような振る舞いも許す仲である。その為、グスターの一言から何かとんでもない事を起こす気であろう事を察した。
グスターとは友人であるが、自身は領主であり場合によっては止める立場にある。
詳細を問いただそうとした時、そこにもう一名姿を現す。騎士隊長ヘイルだ。
「失礼致します領主様。その件に関して私から説明を、どうせこの脳筋はうまく説明出来ないでしょうから」
「おいおい、褒めんなよ」
「ツッコまないからな」
扱いに慣れているようで、ヘイルはグスターを放置し、ある計画について話し始めた。
それを聞き、全員の顔にニヤリと悪い笑顔が浮かぶ。
当然だが何か悪事を働こうというわけではない、ましてや今回ターゲットにされたのは治術ギルド。庇う気も起きない。
ただまぁ・・・聞けば聞くほど「よくもまぁこんな悪どい事が思い付くものだ」と、同情すら湧いてくる。
聞けばその計画の詳細を詰めたのは、あの受付嬢ヘレンらしい。
ディアス達はそれを聞きごちる。
治術ギルドは龍の尾を踏んだ。
彼等は知らなかったのだ、手を出した兎が想像を遥かに超えて凶暴であった事を。
仲間意識が異常に高い種族であった事を。
たった一晩の恩を返すべく、本気で怒っていることを。
そしてその兎は、決して怒らせてはいけない存在であった事を。
「その兎には俺も早く会ってみたかったんだ、だが中々会う時間が取れなくてな。どんな娘だ?」
「初めて会ったのは私です、第一印象としては非常に人懐っこい性格でした。そして情に厚く、自分の子供たちを心から愛し、恩義を大切にするタイプの人間です。こちらが誠実に接すればそれを返してくれるでしょう」
ディアスはそれを聞き成る程と顎を擦る。だがヘイルは「ただ・・・」と言葉を続けた。
「その能力に関しては、恐らく人間を基準に考えてはいけません。戦闘力に関しては分かりませんが、子供達ですら超一流の魔術師の実力を持っています。彼女は自分達が弱い生き物と言っていましたが、私からすれば流石“あの魔の森”を生き抜いていただけの事はあると納得出来ます」
「子供達か・・・子兎の数は幾らだったか?」
「約200ですな、そして彼女達は常に群れで動き、制限なく情報のやり取りを一瞬で行う術を持っているようです。敵に回せば次の瞬間、群れ全体が敵に回るでしょう。我々はそれを止める術がありません、恐らく一方的な戦いになるかと」
「多いなっ!? ・・・では、仲間意識は?」
「そこはわりと広いようですが、仲間とそれ以外はキッチリと別れています」
続いてグスターが話す。
「俺が見るに、ありゃ無理だ。俺ぁ喧嘩したくねぇな。ガキ共もそうだ、守りに入られたら・・・ありゃ厄介だぞ」
元Aランク冒険者であるグスターの言葉に、全員が息を呑む。
訓練を重ね、魔法と剣術を兼ね揃えた一流の戦士である騎士に匹敵する子兎200の群れ。
そして群れのリーダーは元Aランク冒険者と同等の力を持つ。
「・・・それは何だ。どこかの特殊部隊か?」
「安心できるのは、彼女達が温厚な性格な事と、その力が防衛と癒しに向いていることですな」
「あぁ、俺も聞いただけだが凄ぇんだって? あっという間に傷を治しちまったんだろう?」
「私は実際受けたが、あれはクセになるぞ。お前のガチガチの筋肉もスライムになるかも知れん」
「俺にとっちゃ恐怖だな」
ディアスは今まで届いた報告書を思い出した。
噂の兎は一瞬で城壁を作り出し、それは非常に強固。魔獣の群れの攻撃を余裕で耐え切る。
また龍の翼からの報告によれば泥を使った足止めや目眩ましもでき、その連携は訓練を積んだ軍よりも早い。
そして先程ヘイルとグスターから届いた《月魔法》の力と兎の建てた計画。
「・・・鍵が揃ったか」
これは計画に乗るしかない。
ディアスの顔に明るさが戻り、それを見た家令は安堵する。
「その計画に俺も乗るぞ、いや全面協力する。本来は俺がやらねばならん仕事だ。・・・だがその前に、その娘に頼みたいことがある」
「ご細君の事で御座いますね」
「あぁ、事を始める前に呼んでくれ。全員で構わない、必要なら龍の翼も一緒に呼んでくれ」
「畏まりました、手配いたします」
ディアスは再び窓に目を向ける。
そこから見えるのは城のように豪華な治術ギルド、だがそれを睨むディアスの目は先程とは全く違うものであった。
「よくも今まで好き勝手してくれたな。その報い、存分に味あわせてやる」
ディアスの目には猛獣の雄叫びに似た歓喜と、希望が宿っていた。
ディアス・・・大型肉食獣のようなはち切れんばかりの筋肉を持った男。
家令・・・政治と護衛を兼ねる、鍛え上げられた細マッチョ。
ヘイル隊長・・・鎧の様な高密度の筋肉に包まれた男。
グスター・・・Mr.筋肉。
この部屋の男臭さヤベェ




