1羽:お仕事を貰いに行くウサギさん
ウサギ語の大味説明(会話内容は想像しましょう)
『ぷぅ、ぷぷぅ♪、きゅっ! きゅー♪ ごろごろ』
・・・嬉しい、楽しい、興奮、甘えたい、気持ちいい
『ぐぅ、ぐーっ!、ぶぅ ぶー だむだむっ!(足ダン)』
・・・不満、怒ってる、警戒、拗ねてる、羨ましい
『くー、くぅーん、きーっ! だんだんっ(足ダン)』
・・・怖い、危ない、痛い、悲しい、寂しい
血の滴るナイフ、血走った目で睨見つけてくる男。
体温が下がり、体から何かが抜けていく感覚。
泣いている女性、何かを叫んでいる。
──死 いで。
──一人 し で。
── を開 て、『 』っ!
次第に動かなくなっていく体。
怖い、寒い、寂しい──死にたくない。
死にたくない、死にたくないよ。
──お母さん。
◆◇◆◇
何か大事なことを思い出した気がする、でも何か分からない。
顔も声も分からない女性、あの人が僕のお母さん?
うーん、そうとも違うとも思える感覚。よく分からない。
そんな靄がかかったような夢の記憶は、激しく鳴り響く音で掻き消される。
カーンッ! カーンッ! カーンッ! ガンッ!
僕は飛び起きた。警告三回、緊急一回、魔獣襲撃の合図だ。
「──っ!? マリアちゃんっ、アルメリアさんっ!」
「起きてるよっ!」
「お、起きてまふっ!」
流石冒険者、アルメリアさんは若干怪しいけど切り替えのスイッチがしっかりしている。
僕達が起きてすぐにバーニィさんとリドも起きてきた。
子供達? この子らは僕が起きたら絶対全員起きるからね、見るまでもないし《共有》で起きているのを知ってるから問題なし!
「イナバ殿っ、二人とも、皆起きてるかっ」
「魔獣っすよ、すぐに行動しないとっす!」
流石に二回目なので僕も動き方を考えてある。
僕を含めた兎軍団は住民を誘導しつつ避難所へ移動、そこで怪我人の回復と沈静化に努める。
龍の翼は魔獣の出現場所へ移動、討伐に協力。
要請があった時だけ、僕が出張るという流れだ。
本当なら防御と回復能力を持った僕達は二手に分かれるべきなんだけど、それは僕が拒否。
子供達の言葉を伝えられるのは僕だけだから、僕は避難所に行かなきゃいけない。でも子供達だけを危険な場所に向かわせるなんて絶対嫌。
結果的に協力要請があった時だけということになり、みんな納得してくれた。
「じゃあ避難所に向かうから、危なかったら早めに声かけてね。絶対だよ?」
「はい、約束します。イナバ殿も子供達もお気を付けて」
前回とは違い、避難する人にも余裕があった。
そりゃそうか。前とは違って今回は城壁が完成してるからね、心にも余裕があるってもんか。
まぁそれが良いかどうかは時と場合によるんでしょう。
そんなこんなで、わりと大きな騒ぎになることも無く討伐は終了。住民達はすぐに帰宅の許可が下りた。
しかし治療中に冒険者さんから聞いた話によると、前回よりも魔獣の数、ランク、強さが上がっていたそう。次は大怪我をする人が出るかもしれない、とのことだった。
次の襲撃なんて無いのが一番良いけど、もし起こった時は僕も冒険者として参加しなきゃいけないかもしれない。
そんな僕の予感を肯定するかのように、街はズシンズシンと地響きで静かに揺れていた。
今日、『龍の翼』は当たり前全員出払う。つまり子供達を見ている人が居ない。
まぁ魔獣襲撃があったんだし当然か。
ウチの子達は超賢いので、正直別に家でお留守番させておいても問題はない。そうしないのは、単純に僕が嫌なだけである。
だって家に置いてきぼりとか可哀想じゃん? 僕はお母さんとして、子供達に沢山の人と交流をさせてあげたいのだ。
でも流石に終始200羽で移動するわけにはいかない、というわけであちこちに分散させる事にした。
なんか冷たい様に感じるかもしれないけど、これはウチの子達が希望してやってるんだ。街の人の役に立ちたいんだって!
本当に良い子達である、お母さん涙が出そうだよ。
幼年組60羽は僕に付いてくるとして、年少組をギルドのお手伝いに派遣。たぶん街の子供達がまた集まってくるので、その子達は頼りになる年長組に見てもらう。年中組はあとで考えよう。
僕達はまたゾロゾロと冒険者ギルドへ移動するのだった。
当たり前のように集まって来た街の子達と年長組が一緒に移動する。そしてヘレンさんが年少組を連れて行く際、ギルマスが呼んでいると教えてくれたので応接間に向かう。
応接間に入ると、そこには椅子に窮屈そうに座る筋肉もといギルマスが座っていた。
あの椅子壊れないのかな? というかよく座れたね、ギシギシ鳴ってる。
「おう、よく来たな! 早速で悪いんだが、お前等回復魔法が使えるんだって? しかも希少な魔力回復魔法も使えるらしいじゃねぇか」
「んー、回復魔法ってわけじゃないですね。まぁ似たようなものですけど」
正しくは花畑を作る魔法だ。
ちなみにこの花、一時間ほどで枯れてしまう。
「お前、今日暇か?」
「この後へイル隊長さんの所へ行く予定です」
東門は無事だったが、周辺にあるものが色々崩れていた。きっと僕に出来るお仕事があるだろう。
「そっか・・・その魔法は、そこのちっせえ兎でも使えんのか?」
「うーん、たぶん20・・・いや50羽でならいけると思います」
《月光華》を子供達は使える、でも熟練度の関係か1羽では一輪しか咲かせることが出来ない。
しかしウチの子達は大人数で一斉に同じ魔法を使うと何故か効果が上がる。僕と同じ規模の花畑を作るなら、たぶん50羽くらいだろう。
まぁ僕が本気を出せば一面花畑にできるけどね、ふふん!
「実は治術ギルドがそれを聞きつけてな、経営している治術院で患者を治療して欲しいらしいんだ。お前さんが行けねぇならガキ共が行っても良い。確かもうカードは発行されてんだろう?」
「はい、先日子供達全員分貰いました」
二日前に子供達全員分のカードをヘレンさんが態々持ってきてくれた。そこで一斉に登録を終わらせ、今はみんなラジオ体操カードみたいに首に掛けている。
より小学生感がアップした。
そんなわけで、子供達が良いと言うなら行くのは構わない。
ただそれを聞いた時「え、薬で治しゃ良いじゃん」と思ったんだけど、どうやらそうもいかないんだって。
魔法薬は一気に回復する便利なアイテムだけど、飲み過ぎると『魔力中毒』という面倒なものになって一気に回復とはいかないらしい。
回復魔法には魔力に限りがあるしね。
あと昨日冒険者さんからも聞いたけど、最近魔物が活性化しているせいで強くなっていて怪我をする人が多いんだそう。
その人数が多過ぎるせいで病床率が100%に迫っている、そして薬もこのままだと備蓄分を出さなきゃいけなくなりそうでピンチらしい。
そんな時に聞こえたのが月魔法。
魔力中毒にもならないうえ、効果は抜群。しかも魔力回路の損傷も治るときた。
だから「よっしゃそいつ等を呼ぼう!」って思ったのに、そいつは冒険者ギルドにしか登録してない。
困った彼等は仕方なく依頼を出したという感じ、ついでに登録していけと言ってるとか。
ちなみに僕は知ったこっちゃないけど、魔法が使えるなら魔術ギルド、回復できるなら治術ギルドみたいな感じで関連ギルドに登録するのが常識らしい。
「いや知らないよー。僕達、治療の専門家じゃないんだけど?」
「俺もそれは言ったんだがなぁ。相手さんはそれが当然だと思ってっからな、こっちの話を聞きゃあしねぇ」
「同調圧力は悪循環しか生まないよー」
魔術ギルドにしてもそうだけど、みんな我が強すぎなんだよ。
本当は断りたいんだけど、待ってるのはお世話になった冒険者さんや街の人だ。
そう考えると早く治してあげたい、でも行ったら行ったで便利屋扱いされそうで嫌だ。どうしたものか・・・。
「治療するために強制登録とかある? そんな組織、参加したくないんだけど」
「いや流石に無ぇだろ、あっちは依頼を出してる立場だぞ。依頼内容にも書かれてねぇし、もし強制されたら不正依頼で断ればいい」
「でも街の人や冒険者は治療してあげたい」
「あーなるほど、どうすっかなぁ・・・」
そんな頭を抱える僕等に天の声が掛かった、ヘレンさんだ。
「そんなの、希望者は退院させてしまえば良いじゃないですか」
「あぁ? そんなことしてどうすんだ」
「全員冒険者ギルドに連れてくるんです。そしたらこちらの裁量に任されるんですし、イナバさんが治療したところで文句を言われる謂れが無いです。それにこちらは態々要請を受けて行ったのに向こうが契約不履行を起こすんですから、責められるとしたら向こうですよ」
「なるほど、その手があったか」
もし治術ギルドが登録を強制してきた場合、依頼内容に含まれていない内容なので不正依頼としてペナルティー無く依頼を破棄できる。ただそれだと患者さんを見捨てることになるので僕が嫌だ。
なのでそうなったら、患者さんから希望者を募り退院させ冒険者ギルドに移動。こっちで回復させたら良いじゃんという話だ。
だって患者さんが治療院を出ていくのは自由だし、結果向こうは病床率を下げられる、僕達は登録しなくて済む、良い事尽くめだ。
敢えて問題点を挙げるとすれば、治術ギルドのプライドに傷が付くぐらいだろう。
一切の違法なく相手のプライドだけを折るこの方法・・・ヘレンさん、恐ろしい子っ!
「よし、それでいくぞ。報酬額は金貨10枚だそうだがどうだ?」
「安すぎませんか、治療院っていくつもあるんですよね? いや僕は問題無いですけど・・・」
「端っから真面目に相手をする気がねぇんだろう。んじゃあこれで通すぞ」
そのまま話は進められ、治術ギルドには年中組50羽と年少組50羽、そして指示役に職員さん5名とまとめ役にヘレンさんも同行、兎の大行進となった。
果てさて治術ギルドはどう出るのか、せめて上役の人は常識人であって欲しい。
僕は幼年組を連れてへイル隊長さんの所へ向かった。
◆◇◆◇
僕達がいつも通りの門前に辿り着くと、立哨していた騎士さんがへイル隊長さんに取次をしてくれた。僕達はいつもの様に訓練場へ向かう。
「おぉ、イナバ殿。久しぶりだね、元気にしていたかい?」
「イナバさんっ、お久しぶりですぅー」
途中でクレアさんとクレマチスさんに出会った、相変わらずカッコいい。
「今朝は大変だったね。それで今日はどうしたんだい?」
「ちょっと落ち着いたんで、ヘイル隊長さんにお仕事を貰いに来ました。何かまだまだやることがありそうだったので」
「そうかい、それは隊長も喜ぶよ」
そのまま一緒に訓練場へ向かい子供達と戯れていると、相変わらずお疲れのへイル隊長さんが現れた。
この間よりも目の隈が濃いな、本当にウチの子達を派遣すべきか考えないと。
「待たせた。仕事を受けてくれるのはありがたいが、身辺の事はもう良いのか?」
「はいお陰様で色々片付きまして、少し余裕も出ました」
「そうかそうか、それは良かった!」
へイル隊長さんは近くに居た子を撫でては、「うむ、元気そうだな」と嬉しそうにしてくれている。
いやいや、元気が必要なのはへイル隊長さんなのでは?
僕は彼がちょっと心配になり、親切心のつもりで訓練場に《月光華》を使った。
「これはっ、何だこれは・・・疲れが!」
「先日新しく使えるようになった《月魔法》です。体力と魔力を回復させる効果があるんで、ヘイル隊長さんはここで少し休んでください」
「あぁ、何て気持ちが良いのだろう。まるで揺り篭の中に居るようだ・・・」
「気持ちいいですぅ〜」
「あぁ、安らぐな」
「ぷいぃぃ~♪」
「ぷぅ~、ぷぅ~」
流石に『みるみる疲労が消えていく』なんてことは起きないけど、心が安らぐだけで疲労は軽くなったと感じるものだ。
ウチの子達も凄く気持ち良さそうだし、ちょっとこのまま安らごうか。
あっ君達、折角だからヘイル隊長さん達に寄り添ってあげて。もしかしたら回復効果が上がるかもしれないから、一人につき10羽づつくらい。そそ、ありがとう。
僕はそのまま花が枯れるまで休憩となり、顔色の良くなったヘイル隊長さんに沢山の仕事を振って貰うのだった。
へイル隊長さんは終始笑顔だったうえ、「依頼したいことが増えてしまったな、はっはっはー」と上機嫌だった。ちょっとハイになっちゃってるね。
その後、ヘイル隊長さんの元を後にした僕のウサ耳に入ってきたのは、「薬師ギルドでの仕事はキャンセルになりましたー」の言葉だった。
やっぱり彼等はバカなのかもしれない。
月光浴デトックス




