21羽:仲直りを見届けるウサギさん
ウサギ語の大味説明(会話内容は想像しましょう)
『ぷぅ、ぷぷぅ♪、きゅっ! きゅー♪ ごろごろ』
・・・嬉しい、楽しい、興奮、甘えたい、気持ちいい
『ぐぅ、ぐーっ!、ぶぅ ぶー だむだむっ!(足ダン)』
・・・不満、怒ってる、警戒、拗ねてる、羨ましい
『くー、くぅーん、きーっ! だんだんっ(足ダン)』
・・・怖い、危ない、痛い、悲しい、寂しい
『ねぇ、誰か手の空いてる子居る? ちょっとお母さん手伝って欲しいなー』
魔力が急に減った原因に気が付いた僕は、《共有》で子供達に呼び掛ける。すると返事がすぐに返ってきた。
『ぷっ!』
『ぶぅぅっ!』
『ぷぅ? ぷっぷ!』
『ぶーっ! ぶぅっ!』
なんか、来たい子が多いからジャンケンするらしい。
《共有》があるのに勝負が決まるんだろうか? まぁ早めにお願いねー。
あとそこの君等も此方おいで、お母さんのお手伝いしてね。
幼年組はまだ寂しがり屋な子が多くて比較的僕の近くに居る。可愛いよね、チラチラこっち見てんの! ただちょっとヒマそうなので手伝って貰うことにした。
そうこうしていると建物の方からもウサ耳を揺らして数羽走ってくる、先頭にいるのはお馴染みセミボブ君だ。
君勝ってきたの? そうなんだ、50羽くらいでジャンケンしてたのにスゴイね。
セミボブ君は嬉しそうに右耳をピコピコさせていた。
「子供様が集まって来られたが、如何なされた?」
「いや、いきなり魔力が減った理由がたぶん分かったんだよ。その検証に手伝って貰おうと思って」
「誠かっ、では早速調べるのである!」
メスガキウスがなんか気合いを入れてるけど、別にそんな凄いことをしようと言うわけじゃない。
皆が計測器を見つめる中、子供達に簡単な魔法を使って貰った。すると・・・。
名前:イナバ 4,599,946,300/4,600,000,000 MP
「また減り始めたのであるっ!」
「どんどん減っていくのでゴザル! というか、子供様方が魔法を使うのに合わせて減っているような・・・」
「そんなバカなっ!?」
そう、信じられないことに子供達は僕の魔力を使って魔法を使っていた。意味わかんないよね?
当然だけど、普通そんな事は出来ない。出来ないはずなんだけど、僕はそれが出来ている理由もなんとなーく分かっている。たぶんコレ、《共有》だわ。
どうやら《共有》は位置や状態、思考、イメージ、経験値だけでなく、魔力まで共有出来るらしい。信じられん。
試しに魔力をゼロにすると、子供達は魔法が使えなくなり戸惑う──が、すぐに使えるようになった。あれっ、何故。Way?
そこで今度はセミボブ君の魔力を計測してもらう。
名前: ─ 71,200/72,000 MP
ちょっと減ってた、どうやら自分達の魔力を使って魔法を使うこともできるみたい。
ていうか魔力多いなっ!? 確か魔力1万で魔道士級って話だよね、じゃあメッチャ高いじゃん!? ウチの子達は天才だった! そして僕は味噌っかす。
そういえば子供達はステータスが全員ほぼ一緒だ、と言うことは魔力量も一緒なんだろうか?
気になって調べてもらうと、そこは流石に差があった。
幼年組で12,000〜16,000、年少組で14,000〜28,000、年中組で30,000〜45,000、年長組41,000〜53,000。そして年長組の幾人かだけが極端に大きな魔力量を持っている。
なるほど、ヘイル隊長さんが子供達を一流の魔術師って言った意味がよく分かった
「なーんか色々分かってスッキリした。やっぱり専門家は違うね、こんなにもスラっと分かるとは流石だ」
「お褒めに与り、光栄であります」
「恐悦至極にゴザル」
あれ? 魔力がこんなにあるなら、なんで態々僕の魔力を使っているんだろう?
魔法の発動速度や規模を見ても、僕と自身の魔力を使った違いは無さそうだった。何か意味があるんだろうか? そこん所をロリキョメデス達に聞いてみたが「分からない」とのこと。
ただ教会やエルフの里などの閉鎖的な場所には秘匿されている魔法があり、それ以外にも魔術ギルドでも把握しきれていないものが多く、そちらの情報があれば分かるかもしれないと言われた。
なるほど、何か分かれば教えろって事だね。この商売上手め!
◆◇◆◇
色々分かって全員満足そうな顔をしてたけど、そういえば月魔法の検証を全くしてない事に気づいて、そちらに移行した。
おい、おっさんの照れ顔とか誰得だから止めときなさいな。
月魔法も魔法である以上、イメージで用途は無限に増やせる。しかし増やしすぎるとイメージがあやふやになって今使える魔法の効果が下がることもあるらしいので、増やし過ぎには要注意と言われた。
成る程、万能の力というわけでもないみたい。
「一番良いのは効果の全く違う魔法を増やすことでゴザルな! ざっくり言うと攻撃・防御・支援・回復でゴザル」
「それならイメージが混濁することは無いであるからなっ、そこから更に増やすならば攻撃〈単体〉・攻撃〈範囲〉と増やせば良いのである」
「一流の魔導師でも10種前後に絞って使うのが一般的なのですよ」
「そうなんだ、色々難しいんだね」
僕は泥で遊ぶ子供達を見ながらそう答える。
子供達は人型にした泥を動かして小さな戦争ごっこ? みたいな事をして遊んでいた。
おぉ、あれは騎士の人形か! ずんぐりむっくりしてるけど騎士だってすぐに分かる。
その騎士3体が泥を投げて・・・たぶん魔法のイメージかな? 対戦相手のオスの子に攻撃してる。でもその子も負けてない、自分の騎士1体を動かして目の前に小さな土壁を作って防いだ。
そして壁の左右から他の騎士が飛び出して・・・。
白熱した試合を魔術ギルドの面々、そして子供達のサポートをしてくれていたバーニィさんがいつの間にか集まって見ていた。
男の子ってこういうの好きだよねー、まぁ僕もきらいじゃない。でも今は楽しそうに遊んでいる子供達を見ていたい、本当に楽しそうで平和だ。
僕はなんだか嬉しくて涙が滲んできた。
そあちこちで開催される泥人形ウォーゲーム、しかしそこへ乱入者が現れる。
「ぐぅー・・・」
セミボブ君だ、そしてなんか怒ってる。珍しい。
彼が作ったずんぐりむっくりした、ウサ耳を生やした髪の長い少女泥人形・・・あれ、僕じゃね?
たぶんそうだよね、だって髪の感じとか服装とかそのままだし。えーっ、お母さん作ってくれたの!?
やだ凄く嬉しい、あとで貰って宝物にしよう!
僕が感動しきっている間にイナバ泥人形は戦場に降り立ち、ばったばったと騎士たちを薙ぎ倒していく。
飛び交う泥団子は土壁で防ぎ、何ならそのまま騎士たちを捕獲。蹴り倒して戦闘不能に追いやったんだけど・・・。
あのぉ〜・・・お母さん、そこまで強くないよ?
君等からの評価が高いのは嬉しいけど、実際それやったらお母さん死んじゃうんじゃないかな?
子供達からの期待がちょっと怖い。
僕が戦々恐々としていると、乱入で戦争ごっこを終わらせたセミボブ君はぷんぷんしながら戦った子達に指示を出している。
どうやら遊んでいた子達は賑やかさに釣られて、仕事中に来てしまったみたい。というよりも楽しくて頭からスッポ抜けたっぽいね、んでセミボブ君はそれを注意している。
凄く珍しい光景だ、こんなの魔境じゃ絶対に見られなかった。それだけ生活に余裕が出来たって事なんだろうな、子供達の個性も育ってて凄く嬉しい。
「注意してくれてありがとう。ほら、お膝においで」
「ぶぅ・・・」
「あの子達は年少組、まだ子供なんだ。それにちょっと楽しくて忘れちゃっただけだよ、だから怒ったフリなんてしなくて良いよ」
「ぶぅ、ぶぅ?」
「ふふっ、君達怒るの苦手なんだから無理しなくて良いよ。ちょっとづつ、ちょっとづつ大人になってくれたら良い。スグに大人になったら僕が寂しいじゃないか」
「ぷぅ?」
「うん、だから君もいっぱい甘えにおいで」
「ぅきゅ~♪」
僕の為に頑張ってくれているけれど、この子だって子供なんだ。僕はしっかりと甘やかすよ!
他のギルド員が子供たちと土魔法の応用について考えている間、改めて僕は月魔法の検証に移った。
最近よく使っている月魔法だけれど、実はまだそれほど数が無い。というか思いついていないだけだけど。
使っているのは、体に月の光を体に溜める《月光浴》。回復効果のある花を咲かせる《月光華》。月の魔力を水として召喚させる《月の涙》の三つだけだ。
《月光浴》は月魔法を使う為の魔力を体にチャージしつつ周囲へヒーリング効果を齎す魔法で、《月の涙》で出てくる水は数十人分の魔力を一瞬で全快させるほどの液体、そう考えると今使えるのは全て回復魔法とも言える。
月魔法が回復に向いた能力であることは冒険者ギルドでの検証で分かっている、だからここではその発展や新しい視点が得られればと思っている。
月光浴は見て分かるような魔法じゃないので置いといて、僕はロリキョメデス達に他二つを見せた。
「これが噂に聞いた花か。確かに心が洗われるような気持ち良さだ・・・」
「とても美しいのであります。この花はずっと咲いているのでありますかー?」
「ううん、一時間くらいかな。ただその間は咲きっぱなしで僕がそこに居る必要も無いよ」
「つまり設置型の範囲回復スキルのようなものであるか、それは何とも便利であるなぁ~」
「しかしこのスキル、魔力を5,000も消費しているのでゴザル~。高位魔法並みの魔力なのに、先程から桁違いの数字ばかり見ているせいで驚きも何もないのでゴザル~~」
「月魔法云々以前に魔力量で使える者が限られそうですねぇぇー」
おーい、しっかりしろー! 花畑に寝転びながら言っても威厳も説得力も無いぞー。
「そしてもう一つの魔法であるが・・・これは、水であるか?」
「いや、凄い魔力回復薬みたいなものだよ。たしか女神の涙とかなんとかいう名前の」
「なんとっ、これは『聖水』であるかっ⁉」
「なんですって!? これが幻の聖水・・・」
何で聖水? 聖水って聖女とか教会で作ってる水の事じゃないの?
それを聞くと、その聖水とは別であり、この『聖水』はあくまで通称であるらしい事を教えてくれた。
一般的に聖水というと僕がイメージした物であっているけど、魔法使いにとって魔力は生命線。使い切ると死ぬことすらある為、彼等にとって魔力を全快させる女神の涙は命の水、故に彼等にとっての聖水とはこちらを指すのだそう。
「女神の涙は魔力濃度の高い洞窟の奥に降り注いだ月光が凝縮し出来ると聞いたことがありますが、まさかそれが本当の話だったなんて・・・伝承や噂話も馬鹿に出来ないという事ですか」
「周囲に影響を及ぼす程の魔力濃度が高まる場所など龍の巣くらいしか在り得ぬ故、『龍の聖水』とも呼ばれるのである」
「つまり今回はイナバ様がお作りになられたので、『イナバの聖水』でゴザルな」
「なるほど、素晴らしいのでありますな。『イナバの聖水』、良い名前であります!」
「おいそれ二度と言うなよっ⁉」
違うものに聞こえちゃうだろうっ⁉
何が「良い名前だと思ったでゴザルが・・・」だっ! ダメ、ダメったら絶対ダメ!
こいつ等どこからでも変態方向に進んでいくな、天才かっ。
息を切らす僕に、話が聞こえていたのか泥人形を見ていたバーニィさんが近付いてきた。
「すまん、少し聞こえたんだが女神の涙は龍の巣でしか見つからないのか?」
「その通りだ、そんな事も知らんのか?」
「そんな言い方しない!」
もぅ、こいつ等すぐにマウント取ろうとするんだから。
「いえ、大丈夫なんで。それよりも、そうか龍の巣でか・・・・」
バーニィさんは顎に手を当てて何かを考えている、そしてハッと顔を上げて僕に向いた。
「イナバ殿、お願いがあるのですが。そこに咲いている花に女神の涙をかけてみても良いですか?」
「良いけど何かあるの?」
「いえ、ただの勘なのですが、もしかしたら・・・」
バーニィさんが《月の涙》で出した水を掬い、その辺に咲いていた花に掛けた。
なにか起こるんだろうか、彼は勘と言ってはいたが・・・。
種類が変わったところで水は水、何が変わるとは思わないのだがと首を傾げていた僕の目の前で、花が驚きの変化を起こす。
何と花が枯れ落ちると、草は再び息を吹き返し一輪の銀色の花を咲かせたのだ。
「はぁっ⁉」
「これはっ、月霊草であるかっ⁉」
「え、これが月霊草なの?」
「やっぱり、思った通りだ」
月霊草とはバーニィさん達がこの街の領主様から採取依頼を受けていた花であり、彼等が魔境へやって来た理由だ。ある意味僕とバーニィさん達を引き合わせてくれた存在でもある。
というか、水掛けたら種類そのものが変わってない? だってそれ、ただの野花だよ? 雑草だよ?
「ははは・・・俺もこんな変化を起こすとは思っていませんでした。ただ月霊草は龍の巣にだけ咲くと聞いていたので、女神の涙と合わせてそんなレア素材が2つも同じ場所にあるのが疑問で、もしかしたらと思っただけなんですが・・・いやぁ、びっくりでしたね」
ビックリどころじゃないね。
そしてビックリしたのは僕だけじゃないらしい。
「何っ、月霊草の生息場所の情報があったのか⁉ 魔術ギルドには何も来ていないぞ!」
「そりゃあそうでしょう。冒険者は情報が命なんだ、戦い方、特技、繋がり、そして希少な素材の情報、それらを簡単に教えると思うか? それも仲の悪い魔術ギルドに」
「ぐっ、それは・・・しかし希少な素材の情報は国や人類の発展に必要でっ」
「すまないな。俺達はお前等の言う底辺な仕事なんだ、命懸けなんだよ。国や発展より明日のパンの為に戦ってんだよ、そうやってお前等の研究材料も集めてんだ。それを底辺だの低俗だの言われる俺たち冒険者の気持ちが分かるか?」
以前、冒険者ギルドで魔術ギルドと仲が悪い事を聞いた時、バーニィさんは苦笑いをしているだけだった。でも何も感じていなかったわけじゃない。
そりゃ他に選択肢が無くて冒険者になった人も居るだろう、でもバーニィさんはいつだって誰かの為に頑張って、高ランク冒険者なのに時には皆が嫌がる清掃依頼だって受けていた。
月霊草もそう、いつだって誰かの為だった。僕が彼を気に入っているのもそういった所だ、彼は冒険者の仕事に誇りと信念を持っている。なのにそれを何も知らない他組織の人間に底辺だの低俗だの言われれば、いくら優しいバーニィさんだって怒る。
「君らが普段バカにしている人間がどんな人物なのか分かった? 君達はもっと冒険者っていう『人』を見るべきだね」
「確かに我等は少々偏見が過ぎたようだ、反省する」
「それにしても、よく月霊草が生えると気付いたでゴザルな」
「それも冒険者の『勘』ってやつだな」
魔術ギルドの面々が押し黙る、そして少ししてスクミズトスがゆっくりと口を開いた。
「僕達すら知らない知識に、実践から得た直観、そしてより高い可能性を導き出す力。私達はもっと冒険者を学ぶべきなのかもしれませんね」
「そうかも知れぬな。よしっ我が派閥はこれより積極的に冒険者と交流を深めるのであるっ!」
「拙者共の派閥も続くのでゴザル!」
「自分の派閥も同意するのであります!」
「当然僕の派閥もそう致しましょう」
「俺の派閥の者にも伝えておこう」
「私の派閥もそう致す!」
一度認めれば切り替えが早い、これが彼らの良い所の一つだろう。
この日以降、徐々にではあるが冒険者ギルドと魔術ギルドの双方で彼等が行動を共にする姿が見られるようになる。
どうやら少しだけ、街は良い方向に回ったようだ。
なんかいい感じの雰囲気だけど、引きこもりが外に出て来ただけ




