14羽:月を見上げるウサギさん
ウサギ語の大味説明(会話内容は想像しましょう)
『ぷぅ、ぷぷぅ♪、きゅっ! きゅー♪ ごろごろ』
・・・嬉しい、楽しい、興奮、甘えたい、気持ちいい
『ぐぅ、ぐーっ!、ぶぅ ぶー だむだむっ!(足ダン)』
・・・不満、怒ってる、警戒、拗ねてる、羨ましい
『くー、くぅーん、きーっ! だんだんっ(足ダン)』
・・・怖い、危ない、痛い、悲しい、寂しい
翌日、僕はアルメリアさんに聞き忘れていた事があり声をかけた。
「アルメリアさん、《月魔法》って知ってる?」
「つ、《月魔法》ですかっ、いえ初めて聞きましたっ。そもそも月って属性なんでしょうか?」
「確かに、月属性って何だ?」
ぱっと思いつかん。あれか、「月に代わってお仕置きよ!」とかしちゃうのか?
いやいや、お仕置きしちゃうって何だ。あの日本語、結構意味不明だな。
異世界に来て初めて見えるものもあるらしい。
「で、でも過去に龍属性や日属性というものがあったと、聞いたことがありますっ」
「そういうのって、何処で調べたら分かるの? 昨日冒険者ギルドには無くってさー」
「で、でしたら、魔術ギルドにあるかもしれませんっ!」
そうか、魔法のことと言えば魔術ギルドで聞けばいいのか。そんな当然なのこともっと早く気付こうぜ、僕・・・。
「あぁっ、でも魔術ギルドは・・・」
「なに? どうしたの?」
おん、どうした?
魔術ギルドの話になると、突然アルメリアさんの顔色が悪くなった。
「い、いえ。ただ魔術ギルドはお勧めしないので、最後の手段でいいと思います・・・」
「う、うん。そっか、分かった」
理由は分かんないけど、アルメリアさんの体調が悪そうだ。
あ、そこの子っ! そそ、君達。君達悪いんだけどさ、一日アルメリアさんにくっついててあげてくれない? うん、アルメリアお姉さんは体調が悪いんだって。頼める?
「ぷぃぃー!」
「ぷぷぅ〜!」
「ぷぅぷぅ〜」
「うん、ありがとうね」
呼んだ3羽の内、セミロングボブの男の子が積極的に動いて、今日一日20羽の子供達がアルメリアさんに付き添い癒すことになった。
この感じだと龍の翼は今日お休みかな? 僕は残りの180羽を連れて再び冒険者ギルドに向かった。
◆◇◆◇
さ、流石に180羽は多過ぎるな・・・。
でも体調が悪そうなアルメリアさんに子供達のお世話をお願いするわけにもいかないし。
仕方ない、ダメだったら今日は帰ろう。
僕は人通りのある道をぞろぞろと歩いていったが、意外と周りからの反応は悪くない。
ウチの子達が周りの迷惑にならない様、自分達で気を付けられるくらい賢いのも理由なんだけど、何かこう「大変だなぁ〜」みたいな温かい視線で見守られてる感じだ。
途中「あ、ウサギさんだー」って言って街の子供達が着いてきちゃう事もあった。
親御さんが心配するだろうと思って焦ったんだけど、こんな人通りの中でこの人数でUターンする方が迷惑そうなので「この子達と満足するまで遊んだら、家まで送る」って伝えたら、それが意外と好評。
じゃあウチもウチもと、気付けば180羽プラス子供10人と親4人の大移動になっていた。うん、何でかな?
街でのウチの子達の信用度は、何故か高いみたいだ。
そうしてやって来た冒険者ギルド、そしてヘレンさん達受付一同は大歓迎。
「待ってましたよぉ〜、今日も皆可愛いですね!」
「ぷっ!」
「ぷぅ!」
「あら、今日は街の子も一緒なんですね。冒険者でごった返す時間は過ぎたので、ホールの端で遊んでても良いですよ」
「「「やったぁー♪」」」
「「「ぷぷぅ♪」」」
ヘレンさんの言葉に子供大喜び。何でも普段は親に止められて滅多に入れないらしいんだけど、興味があったんだって。
確かに男の子とか、ここ好きそうだもんね。
僕は子供達にこの建物から出ない事、絶対ウチの子達から離れない事、困ったらウチの子達に相談する事を約束させ遊ばせた。
尚、ヘレンさんはウチの子を50羽ほど連れてカウンターの奥に入って行った、驚いた事にウチの子達が事務仕事を手伝っているらしい。
この子達は《共有》で仕事を高速で覚えるし、意外と器用だ。
それにお茶汲みみたいな雑仕事でも嫌な顔一つせず、寧ろ「普段と違う事が出来て楽しーい♪」みたいな笑顔で仕事する。そして何よりも可愛いくて最強無敵。
なるほど、それならウチの子達の歓迎されっぷりにも納得だ。
そんなわけで、僕は残りの130羽を連れて訓練所へ向かう。
今日は訓練所に人が多かった、何か強い魔物が出たらしくて怪我人が多いんだってー。
ここにいる人達は怪我で休んでるけど勘を鈍らせないために来てるらしい。
「おー、ウサギの嬢ちゃん達! 今日もいっぱいだなぁ」
「何かまたスキルの検証か? 良いぞ、子供達は俺等が見てるよ」
「それは助かるけど、怪我は大丈夫?」
子供達と遊んで怪我が悪化したら世話ない。
「それがな、何でかガキ共と遊んでると調子が良くなるんだよなー。これって何かのスキルか?」
「分かるっ。私達も昨日この子達と遊んでから調子が良いの、それに肌も綺麗になった気がするのよね」
ウサニウム、すげぇ!?
そういえば僕の足の骨も次の日には治ったな、何か関係あるのかな?
「そりゃ気のせいじゃねーか? 何も変わってねぇじゃねーか」
「なんだとぉ、男共ーっ!」
「ヤベッ、怒った。ほれ、ガキ共も逃げるぞっ!」
「ぷぅーん♪」
おーい怪我人ども、無茶すんなよー・・・まぁ楽しそうだし良いか。
僕は《共有》に意識を割きつつ、《月魔法》について検証というかそもそも使用出来るのか試してみた。
ステータス曰く、《月魔法》は月の光を操るスキルらしい。とはいえ、月の光って言われてもなぁ・・・「夜に明るい」くらいのイメージしかない。
月の光・・・『光』って書いてある以上、月を地表に落とすとかそんな凶悪なスキルじゃ無いでしょう。ってかそんな魔法が存在してたらこの星は今頃木っ端微塵だろうしね。
「うーん、分かんないなぁ」
僕のオツムじゃさっぱりだ。
やっぱり餅は餅屋ということで、こういうのは専門家に聞いた方が良いでしょう。ってことで、魔法職の人集まってー!
「我々に用事ですか、何でしょう」
「ちょっと魔法回路の調子が悪いので、あまり魔法は使えませんよ?」
「そうなんだ、ごめんね。いやちょっと魔法について聞きたくて」
集まってきてくれたのは魔術師や魔剣士、付与術師といった魔法関係に明るい冒険者さん達。
彼等も戦いで負傷していたり、魔法を使う基幹が不調だったりで休養している人達だ。
「僕さ、あの子達もなんだけど《月魔法》ってのが使えるみたいなんだ。でも使い方が分からなくて・・・誰か知ってる人いる?」
「そんな魔法は初めて聞きました」
「月・・・属性と言うのがあるんですか?」
だいたいアルメリアさんと同じ意見か。
「あーでも月といえば、『月は巨大な魔力の塊』っていう昔話がありますね」
「あぁ、聞いたことがあります。それに月の光には浄化や解呪の力があるという術師もいますし、身体機能を高めたり魔力回復を早める効果があるという論文があります」
「ホントッ!?」
おっとこれは新情報だ。
その後も「そう言えば・・・」とか「祖母に聞いた話ですが・・・」といった物語や伝承みたいな情報が次々と出てきた。
それらを纏めると『魔力が回復する』『傷が癒える』『身体機能が上がる』『女神が呪いを解いてくれる』『月は女神の涙で出来ている』『月はかつて神々が矛で魔力をかき混ぜて作った』『女神が住んでいて、人々の暮らしを見ている』『月の魔力で真の力に目覚める』という感じだ。
まぁ伝承や物語がメインなんで、だいぶファンタジーだが。あ、ここ既にファンタジーか。
とにかくこれを僕のゲーム知識に当てはめると、回復とバフの効果を持つ魔法なんじゃないかって予想できる。近いもので言うと聖属性魔法だ。
んでもってステータスの情報から察するに、この魔法は月が出てないと使えない・・・と思う。
僕は胡座をかいたまま空を見上げる。
冒険者ギルドの訓練場は、魔法訓練をすることもあるので天井が取っ払われていて視界を遮るものはない。つまり見上げればそこには空が広がっている。
「まだ昼ぐらいの時間だけど・・・一応月は見えるね、うっすいけど」
滅茶苦茶色が薄いけど、まぁはっきり見える程度には月が出ていた。
この状態でも月の光って届くのか? まぁ丁度良い実験だ、少しやってみるか。
「みんな、ありがとう。凄く参考になったよ! 最後によかったら、月魔法が成功するか見ていって」
「何か分かったのですか?」
「希少魔法の実演です、是非拝見させて下さい!」
「はははっ、成功出来るよう頑張るね」
僕は月を見上げて目を閉じる。
よく考えたら月の光をどうやって呼ぶんだろう? 土魔法の場合は地面に魔力が流れていって、イメージ通りに動く。月の場合は・・・月まで魔力を飛ばす? そんなバカな。
そもそも土魔法を使う時、意識して魔力を流してる訳じゃない。ってことは月の光を呼ぶのだってイメージで出来るってことだ・・・たぶんね!
「月かぁ、月・・・月・・・月・・・」
そう言えば国民的ロボットアニメに、月の光を照射してビームキャノンを撃つ作品があった。
あの時ヒロインがやっていたのは・・・こんな感じか?
僕は胸の前で手を組み、一筋の月光が降りてくる様子をイメージした・・・胡座したままで。
「・・・え、これはっ」
「なんて美しい。こんなにも美しい魔法が存在したのですね」
「綺麗・・・」
月から注がれた一筋の光が僕の目の前の地面に落ちる。そして僕がぱっと思いついた魔法の名前は──。
「《月光華》」
光の先を見つめる冒険者さん達の目の前で、一輪の可憐な白い花が咲いた。
僕達は咲いた花を見詰めていた。
うん、綺麗だ。すごく綺麗なんだけど・・・。
「・・・え、これだけ?」
「た、確かに期待した割には・・・しかし、生物が生まれたのですよ。これは凄いことでは?」
「確かに今まで生物を生み出す魔法は見たことも聞いたことも無いです、そもそも普通の花なのでしょうか?」
「確かに」
魔法で生まれた花だ、絶対何かある。
あと、キモい植物じゃなくて良かったーって心の底から思った。
そう僕が胸を撫で下ろしていると、周囲から驚愕の声が上がる。
「な、なんだ、体が熱いっ」
「傷が治ってる・・・それに古傷の痛みもあまり・・・」
「魔力が回復しましたっ、回路のダメージもっ! そんなバカなっ!?」
花の周囲に居た冒険者さん達だけだけど、治癒や魔力回復の効果が出た。どうやらこの花には一定範囲の回復効果があるみたい。
また治癒の方は、魔力回復に比べて軽いものみたいだけど古傷にも効果があるらしくて、女性冒険者さんがお肌がピチピチになったと凄く喜んでる。
女の子はやっぱり傷が無い方が嬉しいよね、喜んでもらえて僕も嬉しい。
お姉さん達も、嬉しいのは分かるけどお尻見せなくて良いからね。うんうん、そこに傷があったんだね。今はそれがなくなってスベスベだね。でも周りに男の人もいるし、僕もどうして良いか分からないから止めようね。
気を取り直して、魔法が成功して良かった。今日は大収穫だな、良かった良かった・・・決して、喜んだ女性冒険者さん達にキスして貰えたり、お尻とか下着とか見れたから喜んでる訳じゃないことを付け加えさせて貰う。
デレデレなんてしてないぞ?
それから僕は《月光華》のイメージをもっと具体的にして、二回目の発動では花畑を作ることに成功。
怪我で休業中の冒険者さん達は大いに喜び、沢山のお礼を伝えられた。
僕としても《月光華》の他にもいくつか月魔法を作ることができ、逆にお礼を言いたいぐらいだ。
「いやぁ~、ホントに助かったぜ。嬢ちゃん達ありがとうな、これで明日から依頼を受けられるぜ!」
「私共からもお礼を。魔力回路の損傷は簡単に治るものではなくて、最悪引退を覚悟しておりました」
おおぅ、そうだったのか・・・結構ヤバめだったんだね。回復できて良かったよ。
「それに・・・ふふふっ、この話を聞いたら魔術ギルドの奴等が悔しがるでしょうね」
「えぇそうですとも。奴等でも滅多にお目にかかれない希少魔法、それを冒険者ギルドで先に披露されたとなれば・・・あの高慢チキ達はどんな顔をするでしょう?」
「私、今日にでも自慢してこようと思います」
「良いですね、俺も一緒に行きます」
え、なになに? もしかして冒険者ギルドと魔術ギルドって仲悪いの?
そう言えばアルメリアさんもその話をして顔色悪くしてたけど、魔術ギルドの人ってそんなに性格悪い?
「あぁ、イナバさん達は知らないのですね」
「魔術ギルドは、魔法を扱うという性質上どうしても学歴の高い者が多いんです。ですので、薬草集めを初めとした簡単な仕事を『自分達の仕事じゃない』『魔術の品位を落とす』って見ているようなんです」
「だから、それを請け負うことが多い冒険者ギルドを下に見ているんですよね。勿論全員ではないですが」
うわぁ~、そりゃ仲良くなれんわ。
薬草摘みをメインで請け負おうかなって思ってる僕にとって天敵と言っていい。
「ほんっとアイツ等ムカつくよな、研究で使ってる素材は誰が集めてると思ってんだ」
「私なんてこの間『あばずれ』とか言われたのよ、酷くないっ!?」
そりゃ酷い。それ言ったやつ見掛けたら教えて、僕が蹴っておくよ。
「そんな場所なわけでして、派閥とか色々面倒なんですよ。それで肌に合わない魔術師は脱退して冒険者ギルドに来ているんです」
「特に『龍の翼』のアルメリア様は酷い扱いを受けたと聞いています。体調を崩されたのもそれが原因でしょう」
そっか、それでアルメリアさんは・・・。
僕達にとってアルメリアさん達『龍の翼』は、僕達を地獄から抜け出す切っ掛けをくれた人で、子供達も懐いている僕達家族の次に大切な人達、『仲間』だ。
そんな大切な人を酷い目に合わせたなんて、許せるわけがない。
当然僕の答えも──「よし、コロしに行こう☆」となる。
仕方ないよね、許して♡
「月は見えているか」、シリーズの中でも好きな作品です。一番好きなのは水星。




