9羽:突貫工事するウサギさん
ウサギ語の大味説明(会話内容は想像しましょう)
『ぷぅ、ぷぷぅ♪、きゅっ! きゅー♪ ごろごろ』
・・・嬉しい、楽しい、興奮、甘えたい、気持ちいい
『ぐぅ、ぐーっ!、ぶぅ ぶー だむだむっ!(足ダン)』
・・・不満、怒ってる、警戒、拗ねてる、羨ましい
『くー、くぅーん、きーっ! だんだんっ(足ダン)』
・・・怖い、危ない、痛い、悲しい、寂しい
というわけで、工事の依頼を引き受けて参りました!
穴はヤバいくらいデカかったけど、ウチには200を超える超一流土魔術師が居るので五回くらい頑張れば余裕だろう。
とりあえず服の行き渡った子達連れて明日は工事。報酬はヘイル隊長さんのご厚意で何回かに分けて貰えるようになってるから、手に入れたお金で色々滞納しているものを払ったら残りの子の服を買い、人数を増やして残りの工事。終わったら新しいお仕事を貰いに行こう。
ヘイル隊長さんの様子から察するに、僕達に頼みたいお仕事はまだまだあると見た。だから当分食いっぱぐれはないだろう。
というわけで龍の翼の皆には、もう一日だけ皆のお世話をお願いした・・・って聞いてる?
「きゃわー! イナバちゃん、めっちゃ可愛いよおおおおっ!」
「ここ子供達もすごく可愛いですっ、すごく良いですっ!」
「ぷぅ?」
「ぷぅー」
マリアさんとアルメリアさんが装いを新たにした子供達にメロメロ、キャイキャイしてる。
いや、ウチの子達が可愛いのは分かるよ。そこはすごく同意するんだけど、ちょっと話聞いて。
「すみません、俺がちゃんと聞きますんで」
「あ、いや。こっちこそゴメンね。で、もう一日だけこの子達の面倒を見てて欲しいんだ。お仕事の予定とかどう?」
「装備も新調しなければいけませんし、今は入れてないですね」
あ、僕が武器を捨ててったせいか。
それは、重ね重ね申し訳ない。
「いえ、命と引き換えに失ったと考えれば安いものです」
「そう言えば今更なんだけど、バーニィさん達ってなんであんな危険な場所にいたの?」
あそこはそんな腕試しや観光に来るような場所じゃない。あそこは地獄の一丁目だぜ?
「俺達は領主様の依頼である薬草を探していたんです。しかし探すどころではなくなってしまい・・・あ、一応領主様には報告済みなので安心して下さい」
「そうだったんだ、ちなみに何て薬草?」
「月霊草という、解呪と治癒の力を持った草だそうです、こんな感じの」
バーニィさんが地面に絵を描いてくれる。
「うーん、僕もあそこにそこそこ住んでたけど見たこと無いなぁ」
「噂だと竜の巣にしか生えないそうですし、仕方ありません」
「竜の巣っ!? そりゃあ無謀だよー、命がいくつあっても足りゃしない」
「そ、それ程ですか・・・」
行く前に僕らが見つけて良かったね、流石に龍がいたら僕ら見捨てるよ。
「なら申し訳ないけど、あと一日だけお願い! お礼は何か考えるから」
「任せてください。それにこれは俺達のお礼も兼ねていますから、気にしないで下さい」
バーニィさん、ホントに気さくないい男だ。君にならウチの子達をお嫁にあげてもいいよ、好きな子いる? あ、流石に幼すぎ? そっか残念。
そんな感じで僕はバーニィさん達のお言葉に甘える事にしたんだけど、事件は翌日に起きた。
カーンッ! カーンッ! カーンッ! ガンッ!
朝早くから何かを叩く大きな音が街に響いた。
その音を聞いて、昨晩はお泊りしていた龍の翼が飛び起きる。
「これは、警報音っ!?」
「みんな起きてっ、起きてーっ!」
「ぷぅ・・・?」
「ぐぅー!」
警報? 何かの異常事態ってことか。でも待ちに来たばかりの僕達には何か分からない。
「通常が三回、警音が一回、つまり魔獣の襲撃です!」
「またベヒモスかもっ、まだ穴が塞がってないよー!?」
「じゃあ街の人を逃さねぇといけねぇっす!」
「あわあわあわわわっ!?」
警報音から魔獣の方角も分かるんだろう、警報が鳴っているのは昨日視察した東門らしい。
「イナバ殿、俺は領主邸に、他は住民の避難誘導に行きます。イナバ殿達には避難か、可能なら住民の誘導をお願い出来ませんか?」
「いや、僕は穴を塞ぎに行くよ、魔獣が来る前なら塞いだほうが良い。だから子供達を避難場所に──」
──ぎゅっ
腰にしがみつかれる感覚があった。考えるまでもないだろう、子供達だ。
振り返ると、セミロングボブの男の子が僕の腰に抱き着いていた。
きっと僕が心配なんだろう。でも今回は今までと違う、逃げる訳には行かないんだ。
魔獣の強さは分からない、でもウサギは弱いから大怪我をしてしまうだろう。連れて行くわけには行かない。
「分かって、僕は皆が怪我するのいやなんだよ。ただでさえ君達ウサギは身体が弱い、少しの怪我で死んじゃうかもしれないんだ」
「ぐぅっ! ぐぅっ!」
「ぐー!」
「ぐううう!(だんだんっ)」
どうやら僕が一人で行くのが不満らしい。
いくら説得しても納得してもらえなさそうだ。
「分かった、じゃあ連れて行くけど危なそうなら穴を塞いですぐ逃げるよ?」
「ぷぅ!」
「ぷっ、ぷっ♪」
「あと、みんな自分と隣の子を守ること、怪我しないこと、慌てないこと。あと、何かあったらすぐ知らせる事。分かった?」
「「「きゅー!」」」
「ってなわけで、バーニィさん。ついでにこの事もヘイル隊長さんに伝えて貰える?」
「ははっ、分かりました! どうかご無事で」
僕たち200羽は全速力で東門に向かった。
一緒に東門に向かう残りの龍の翼メンバーを背負ってたんだけど、僕達兎の機動力はそれをものともせず家々を飛び越え、ものの数分で現場に着いた。
僕達が到着したとき幸いにも魔獣はまだ侵入していなかったけど、森から数え切れない程の数が此方へ向かってきているのが見えた。
城壁の穴は当然塞がっていないし、警報がなってからそう時間が経っていないからだろう、騎士や衛兵や冒険者の姿も殆ど無い。
これじゃ魔物達のほうが先に待ちに着いちゃう。
しゃーねぇ、やったるか。今ならまだ間に合うしな。
「みんなー、聞いてー!」
「ぷぅぅ?」
「ぷぅ?」
「今から急いで穴を塞ぐよー! 瓦礫に沿って綺麗に並ぼうか、上手に並べる良い子はどの子かなー?」
「ぷっ!?」
「ぷぷぅ!」
「ぷぅっー!」
僕の号令に、子供達は急いで並び始める。上手に並べたら後で僕が良い子良い子してくれるのを知っているからだ。
みんな僕に撫でられるのが凄く好きらしくて、こう言うといつも以上に頑張ってくれる。
まぁいつも頑張ってくれるけどね、めっちゃいい子ばっかりですしおすし。
流石に200羽も居ると城壁の崩れた場所の端から端まで届く、子供達がズラッと並ぶ様は中々に圧巻だ。
そして全員が一糸乱れず同時に手を地面に着く。
そして──。
メキメキメキメキッ!
「「「「「なんじゃこりゃーっ!?」」」」」
木が犇めく様な音を立てながら、縦20メートル、厚さ3メートル、幅60メートルの壁が迫り上がった。
そして僕が立っているのは壁の上、そこで《硬化》を使う。すると出来上がったのはガッチガチの防壁、元の城壁の強度を超える代物である。
初めて見る人からすれば壁が生えてきたように見えるだろう。いやまぁ生えてきたようなもんなんだが。
当然これは普通の壁じゃない、これはウチの子達の魔法《土壁》である。
普通は縦横1メートル、厚さ10センチほどの板というか盾を作る力だ。それを200羽みんなで一斉に使えばこの通り!
なお、上にウサ耳、壁に・ω・を付けたのは僕の遊び心だ。
どぉだ、凄いだろう。ウチの子達凄いだろう!
城壁の穴に集まっていた人達は、突然現れた壁に唖然としている。
その気持ち、よーく分かるぞ。ビックリしたよな、超ビビったよな。分かる分かる。
何せ、一番ビビったのが、この僕だからなっ!
いや、だってさぁー。幅の方は当然として、200羽みんなでやってるから高さとか厚さとかも少しパワーアップするだろうなとは思ったよ?
でも精々4メートルくらいだと思ってたのよ。んで、「5回くらいで城壁と同じかな?」とか思ってたのに、一回でズオッ!って生えてくんじゃん。
僕、最後に《硬化》させるから《土壁》の上に立ってたのよ、んでゴンドラみたいにガタンゴトンって上がっていくのを想像してたのに実際はジェットコースター(ベルト無し)じゃん。怖くてチビりそうになったわ!
子供達の手前平気そうにしてるけど足はガックガクだからなっ、兎の小心舐めんなよ!
ひとまず平静になりシュタッと地面に降りる。
そしたら子供達が集まってきて頭を向けてくる、あぁこれは『撫でて!』の催促だな。
良いぞー、みんなよく頑張ってくれたね、よしよし! って、ちょっと人数多いな。あと君二回目でしょ、僕には分かるんだからね。せめて一周回ってからにしなさい。
僕達がやったことを見ても尚よく理解出来ていない衛兵や騎士の皆さんは、ひとまず何と声をかけようか迷っている様子。
これは助け舟を出してあげた方が良い感じ?
そう思っていると、混乱している住民達をかき分けて見覚えのある騎士さんが現れた。昨日お世話になった、女性騎士のクレアさんだ。
「イナバ殿、どうして此処に! あと、これは・・・」
「あれ? ヘイル隊長さんかバーニィさんから聞いてない? 何か寝てたら『魔獣が来た!』って警報が鳴りまして、それで東門見に来たらもうそこまで来てたんで急いで作りました!」
「え、今作ったのかっ!? これをっ!?」
「ウチの子達が頑張りました!」
「「「ぷぅ!」」」
そもそもこの大きさになると全員でやらないと無理だろうしね。
というか、《土壁》ってそもそもこんな大きさの物作れなかったんだけど、何で出来たんだろう? 何かが違うのかな?
僕は土を触ってみたが、まぁ当然土は土だ。何が変わるわけでもなく、とりあえず疑問は頭の片隅に放り投げる。
大きく作れる分には問題ないしね、大きいことは良いことです。
そうしていると壁の外からは恐ろしい唸り声と衝突音が聞こえてくる。
どうやら魔獣たちが到着したらしい。
「ひぃっ」
「ま、また魔獣が来るのか・・・」
「もしまた壁が破られたらっ!?」
「ママーッ、怖いよおおー!」
前回の襲撃でもかなり怖い思いをしたんだろう、城壁が完成したにも関わらず怖がっている人が多い。
まぁ信じていたものが一度目の前で壊れちゃったんだもんね、信じろと言うには無理がある。
・・・たぶん・ω・のせいじゃ無いはずだ、うん。
ひとまず、穴を塞ぐという僕達のお仕事は完了した、あとは騎士や衛兵さん達のお仕事だ。
というわけで避難するわけなんだけど・・・流石にこの場を放置して避難するのは、お世話になったクレアさんの手前やり辛い。
まぁ城壁を作った張本人だし、これから街でお世話にもなるし、アフターケアも仕事の内でしょう。
僕はピョンピョンと再び城壁に登って、混乱している人達に声を掛けた。
「皆さーん! 安心して下さい、この壁はすっごく頑丈です。でっかい猪の攻撃にだって耐えられます! だから、安心して下さーい!」
僕の声に、沢山の人達が城壁を見上げる。
見えるのは一瞬で作り上げられた城壁、そして兎の顔・・・うん説得力無いな、どうしよう。
「皆、あの少女の言う通りだ! 彼女達は幼いが、先日まであの『魔の森』で生き抜いていた一流の魔術師だ! 今は彼女の言う通り、落ち着いて避難するんだっ!」
「何だって、あの地獄で!?」
「確かに普通の魔術師にこんな物は作れない、騎士様の言う事は本当かもしれない」
「あの壁のウサギ顔は何なのかしら?」
うーむ、この世界にはまだ僕のセンスは早かったらしい。
しかし流石に顔の知れた騎士であるクレアさんの言葉は信頼できるのか、皆少しづつ落ち着きを取り戻す。
「今皆さんの近くに、ウチの子達が居ると思います! みんな凄く可愛いので──じゃなかった。凄く頼りになるので安心して一緒に避難してください! 手を繋いであげると、とっても喜びます! はいじゃあ、避難開始ー!」
「「「ぷぅっ!」」」
みんな「えぇ・・・」みたいな顔してんな、何だよ可愛いだろうがウチの子達はっ!
初めは戸惑っていた住民達だったが、無邪気に手を差し伸べてくるウチの子達に疑う気持ちもなくなったのか、手を繋いで素直に移動してくれる。
中には住民の子供と既に仲良くなった子も居るみたいだ。うんうん、良きかな良きかな。
はい、皆『押さない・走らない・喋らない』だよー、ゆっくり緊張感を持って仲良く避難しましょー!
この後、駆け付けてきたヘイル隊長さん率いる騎士と衛兵の部隊、そして依頼を受けた冒険者達によって大きな被害無く魔獣騒ぎは無事収まったのだった。
災害時の『お・は・し』は大切




