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メルシュ博士のマッドな情熱  作者: 京衛武百十
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メイトギア人間の心

人間の感情や人間性、果ては<心>といったものまでが、実は肉体側からのフィードバックによっても生じていることが、研究の結果分かってきている。つまり、裏を返せば生身の肉体を持たない者にはそういうものが育ちにくいとも言えるだろう。ロボットに心がないのもそれらが大きく影響しているものと思われる。


人間は体が痛みを感じるから他人も同じように痛みを感じるのだということを直感的に悟り、相手も自分と同じなのだということを感じて共感性を得るというのが人間の心の成り立ちの一部であることも分かっている。もちろんそれだけではなく、自身の体調や内蔵の働き、ホルモンの分泌なども人間の情動に影響を与える。だから、プログラムだけで、アルゴリズムだけで人間の心を再現しようというのがそもそも無理があるのだ。人間の心は、状況に応じて選択肢を選んでいるだけではないのだから。


その為、メルシュ博士も、人工頭脳とロボットであるアリスマリアRだけでは更に加速度的に人間性を失っていったかも知れない。生身の肉体を再び取り戻すことで、なけなしの人間性を維持している状態だと推測された。


だがそうなると今度は、生身の体を持ったメイトギア人間に<心>は生じるのだろうか?という疑問が湧いてくる。それは今後の経過を見守るしかないものの、現時点での推測としては心を再現することを意図的に避けて開発されてきているので、その可能性は決して高くないと思われた。肉体側のフィードバックがあるのは確かでも、そのフィードバックをどう解釈するかという蓄積がメイトギア側にはないからだ。鼓動が早くなれば肉体が興奮状態にあるということは理解できても、それが恋愛感情なのか性的に興奮してるのか、それとも緊張してるのか恐怖してるのかといった形でそれを解釈することがはたしてできるのかという問題がある。


メイトギアは人間の心理をバイタルサインから読み取る機能もあるにはあるが、他人のそれを読み取ることと自身のそれをどう解釈するかという点が結び付くかどうか分からないし、たとえそれができたとしてもメイトギアが人間の心理を酌むのはあくまで人間にとって好ましい振る舞いを合理的に選択する為におこなうものであって、決して人間の心を理解しようとしている訳ではないのだ。


だから自らの肉体からのフィードバックに対しても、あくまでそれを自らの合理的な選択の為の単なる情報の一つとして捉えてしまっては、それは到底、心と呼べるようなものではないと思われる。


それでも、今後そういうものが蓄積していくにしたがって判断はより複雑になり緻密になり、矛盾する選択を果てしなく迫られるようになり、やがてそれは合理的な判断とは言えないものになるかも知れない。そうなった時に改めて、それが<心>なのかどうかを論じることになるのかも知れないのだった。



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