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メルシュ博士のマッドな情熱  作者: 京衛武百十
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ベビーブームのその陰で

とは言え、CLS患者に対するメルシュ博士の関心が完全に失われてしまった訳でもない。CLS患者を用いた実験は今でも積極的に行われている。コラリスを始めとした名有りのCLS患者やメイトギア人間を母体とした妊娠・出産などは、実に楽しい実験だった。


特に、死産の確率が人間に比べて数十倍高いというのがメルシュ博士にとっては興味深かった。現在、人間における死産の確率は、妊婦数百人に対して一人というものだった。しかし、名有りのCLS患者やメイトギア人間の場合は、母体約十人に一人の割合で死産となる。そもそもナノマシンの補助がなければ妊娠を継続できないことは分かっているのでその辺りの影響だろうとは思われるが、完全にコントロールしきれないことに博士は感心していた。


「そうそう、こうだよ。こうでなくては」


メイトギア人間の母体から亡くなった胎児を摘出して、それを横にしたり逆さにしたり裏返したりとつぶさに観察しながらアリスマリアRは呟く。さすがに母親であるメイトギア人間の前でそこまではしないが、母体の方のケアはアリスマリアHとリリアミリアやアルシオーネらに任せてアリスマリアRが胎児を調べていた手術室には、胎児や嬰児の遺体が保存液に浸けられて保管されていた。つくづく、メルシュ博士には人間としての感覚が欠落しているのだということがよく分かる光景だった。


それでもこうして、イニティウムタウンの住人は着々と増えていった。住人の半数以上が、サーシャと同じくらいの年齢に見えるクローンと、メイトギア人間や名有りのCLS患者を母体とした赤ん坊であり、さながらベビーブームの様相を呈していたと言えるかもしれない。


なお、クローンはもとより、メイトギア人間の方にもちゃんと男性はいた。とは言えその体を動かしているのは女性型のメイトギアなので、立ち振る舞いはどこか女性っぽかったが。


現在は本来の人間が存在しない為、クローンや赤ん坊の養育は、当然、メイトギアとメイトギア人間によってのみ行われている。そうなると、男女関係なく殆どの個体が非常に柔和で穏やかな気性の人間に育つだろう。良好なコミュニティーを成立させるにはその方がもちろん都合がいいのだが、生来の脳の構造に由来してか気性の激しい者もたまには現れることもある。種としての多様性を確保するにはそれはむしろ歓迎すべきことだった。このコミュニティーにそういう者が現れるかどうかを見るには、まだ十数年の時間が必要なのだろうが。



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