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メルシュ博士のマッドな情熱  作者: 京衛武百十
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歴史の始まり

イニティウムタウンで暮らすサーシャは、本当に幸せそうだった。メイトギアの意識とメルシュ博士の意識をミックスした疑似的な人格をインストールされたクローン達も、メイトギアの意識を前面に押し出す形にすることで博士の意識は奥深くに沈み、表面化することはなかった。


また、疑似的な人格とは言えそれはあくまで基礎になっているだけなので、こうしてサーシャと遊ぶことで彼女の人間性が投射され、それを学び取って自らを更新していき、人間としての人格形成が行われていったのだった。


メイトギア人間と違い、クローン達は肉体的には紛れもなく人間である。CLSを発症した患者達とも違い、生理機能もちゃんとした人間だ。食事は普通に行い、日々成長し、トイレにも行く。体内で各内臓器官が絶え間なく働き、ホルモンが分泌され、それらが精神に対しても影響を及ぼした。そうして人間として育っていく。


その一方で、サーシャも含めこの<リヴィアターネ人>達には歴史というものがない。今まさに歴史が刻まれ始めたばかりなのだ。過去の栄光といったものもない代わりに、戦争を繰り返した血生臭い因縁もない。魂にまで刻み込まれるような負の歴史もなく、すべてがこれからなのである。


もちろん、この惑星で起こった惨劇については凄惨なものだったことは間違いない。しかしそれはサーシャ達には何の責任もないことなのだ。彼女達が背負うべき業では決してない。


延々と受け継がれてきた価値観などもない為に、男らしく、女らしくといった感覚もなかった。なので男の子も非常に穏やかな表情をしており、一見すると女の子との区別がつかないこともあった。メイトギアが養育するとそういう傾向になるのだ。<男らしくいろ>と言われないので、いかにも男らしい、ガキ大将とか悪ガキとか言われるような顔つきにならないのである。


それが良いことなのかどうかは、サーシャ達が決めることになるだろう。ここでは狩猟によって生活を維持する必要もなく、生活に必要な作業さえこなせれば生きていけるので、<男は外で戦い、女は家を守る>といったことに執着する必要がなかったのだった。


リヴィアターネ人は、リヴィアターネを出ていくことはおそらく許されないだろう。確実なワクチンが開発されない限り、総合政府による絶対封鎖は、今後半永久的に継続されることになると思われる。


しかし、リヴィアターネ人そのものは当面の間、宇宙に出ていく必要はない筈だ。何しろこの緑豊かな大地は、地球と同等のキャパシティを有しているのだから。人口が数十億人に達するまでは宇宙に目を向けなくても済む筈なのである。



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