暗殺
アルマサン城塞都市の結衣のお屋敷に、テイス将軍と王都から国王直轄軍のバルデス将軍、ボルディ万人長、ガイア万人長が集まって、軍の再編を話し合っていた。
結衣が黒板を使いながら自分の考えを説明していた。
「帝国軍との戦いは、広い国土での戦いになりますので、国王直轄軍とカールハインツ公爵軍は別々の役割を考えております。
国王直轄軍は面を制圧する役割、カールハインツ公爵軍は点を突破する役割です。」
バルデス将軍が腕を組みながら
「言いたいことはイメージ出来るが戦い方を具体的に頼む」
結衣は黒板に書いてある、帝国に占領されている王国領を指しながら
「帝国は占領地に、物資保管用に砦をいくつも作っています。
物資保管用と言っても石垣で覆われ千人前後の兵が詰めている堅牢な物です。
この状況でカールハインツ公爵軍は砦だけを目指し進軍し砦を落とします。
国王直轄軍は、その間に前線を押し上げ周辺地域を制圧します。」
結衣が黒板に進軍方向を描いた矢印と、周辺地域の範囲を示す半円を見ながらバルデス将軍が
「それではカールハインツ公爵軍だけが厳しい戦いになって直ぐに消耗してしまうのではないか?」
「はい、カールハインツ公爵軍は消耗が激しい戦いになると思いますので、出兵するのは状況が膠着化した場合や逆に帝国の勢いを止める場合のみ、通常は国王直轄軍に進軍して貰おうと考えておりました。」
ボルディ万人長が
「おいおい、それじゃ美味しい所は全部白い悪魔さんの部隊が持って行くってことか?」
「えっえっ!? そ、そんなつもりじゃ……」
と、結衣が困った顔をするとボルディ万人長は
「冗談だよ、冗談、ただ全体の指揮を執るのはお前だ、自分達だけ無理な作戦を建てることはないようにしないと兵が付いてこないから気をつける事だ。」
「は、はい。承知いたしました。」
テイス将軍が感心した表情で
「ユイの役割を分担すると言うのは解ったが、その為に部隊編成を大胆に代える意味を説明してくれ」
結衣は黒板に部隊編成を描いてから説明を始めた。
「まず、国王直轄軍は今まで通り万人長単位に自己完結できる編成でお願いします。ただ少しだけで良いので補給部隊と偵察部隊を充実させてください。」
ボルディ万人長が頷いたのを確認すると結衣は続けた。
「点を突破することを目的とした、カールハインツ公爵軍は進軍スピード毎の編成となり
基本となる兵科は、重装歩兵部隊、軽装歩兵部隊、重装騎馬隊、軽装騎馬隊の四部隊とします。
それ以外は目的別に、補給部隊、国境守備隊、特殊部隊、城塞都市守備隊を編成します。
それでお願いが二点あります。
特殊部隊は、ガイア万人長の部隊から千名の精鋭を選抜しカールハインツ公爵軍に転籍してください。」
指名を受けたガイヤ万人長は
「転籍するのは良いが、精鋭の選抜基準はなんだ?」
「馬術剣術に優れた者は当然として、夜目が利く、鼻が利く、体力が異常にあるなど一芸に秀でた者も選んで下さい。」
と結衣が即答するとガイヤ万人長は深く頷いた。
「もう一つのお願いですが、城塞都市守備隊はテイス将軍を筆頭に百名ほどとして、その百名で住民の訓練をして欲しいのです。」
テイス将軍はニヤリと
「ほう、儂に住民の訓練を任せると言う訳か、それは良いが素人に城塞都市の守りを任せるつもりなのか?」
「あくまでもいざという時の為で、前線に人が不足している時にこの堅牢な城塞都市に一万の兵を残しておくのは無駄です。その為に少数の兵をと住民が協力し一時的に城塞都市を守って貰いたいのです。」
「うむ、隠居する儂に丁度良い仕事じゃ、ユイ! 住民の訓練は儂に任せてよいぞ」
「テイス将軍お任せしました、最後に兵装を代えますので外で実際に見て下さい。」
一同が結衣のお屋敷前に移動すると、結衣が長い槍を手に取り
「槍の長さを現在の二倍とします。」
この世界では身の丈と同じ長さの槍が一般的であったが、結衣が手にしている三メートルの槍を見てガイア万人長が
「ん~……、俺達は扱えるとして、雑兵には無理なんじゃないか?」
すると結衣が
「いえ逆です。一兵対一兵では現在の長さの方が良いと思いますが、一定数の練度の低い兵が固まって突撃する場合には、より長い槍の方が有利になります。私が村人を訓練し盗賊と戦った時に大きな成果を上げました。」
ガイア万人長も実績があるなら、まぁいいと了承すると結衣は一本の紐を手に取り
「全員にこの投石紐を支給します。」
「どうやって使うのじゃ?」とテイス将軍の問いに結衣は実際に使って見せた。
結衣は足元の石を紐で挟み、頭上でくるくると回し力を一瞬抜くと数メートル先の案山子に命中した。
――結衣が将軍となり、三カ月の月日が流れた。
アルマサン城塞都市では住民に月に一回の訓練が義務化され、地区ごとに順番に訓練が行われていた。
テイス将軍は水を得た魚のように生き生きと住民達の訓練を指導している。
城壁の上で弓を弾く者、投石する者、そこへ弓矢や石を運ぶ者、槍を突く者、炊き出しをする者、負傷者を看護する者と住民一人一人に適切な役割を与えていた。
国王直轄軍から転籍してきた特殊部隊には、疾風のトロイカ三兄弟とリナ、ヨナ、イタカレも入り毎晩のように深夜に訓練を行い毎日誰かが怪我をするほどの激しい訓練をしている。
チャナは国境守備隊の隊長となり、未だ国境が曖昧な山間部で帝国との小競り合いに頭を悩ませながらもしっかりと国境を守っている。。
結衣のお屋敷が将軍邸宅となった為、孤児達は将軍の従者としてお屋敷を維持管理し来客にもしっかりと対応するようになっていた。
そこへカールハインツ公爵が従者を伴うこともなく、突然お屋敷に入ってくると大声で
「ユ、ユイはいるか! 一大事だー」
「カールハインツ公爵、どうか落ち着いて下さい。そんな大声を出さずともユイ将軍はお連れ致します。」
直ぐに結衣が従者に呼ばれ顔を出すと、カールハインツ公爵が
「王子が暗殺された。」
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少しだけ時間を戻します。
帝都に解放軍の兵士交代の為、アシロ国第二王子エグモントが五万の兵を率いてやってきていた。
エグモント王子は帝国議会のアシロ国代表に導かれ議場に入ると、割れんばかりの拍手で迎えられた。
それは事前にアシロ国代表議員により根回しがされている為である。
すると議長が
「エグモント王子、せっかくですので出兵前にその意気込みを議会の者達に聞かせては貰えぬか?」
エグモント王子は深く頭を下げた後、頷き議場の中央にゆっくり歩み始めると、いつものように人形のように無表情で座っている皇帝の顔が歪んだ。
エグモント王子はそんな皇帝の顔を見る事もなく、議場中央で胸を張り演説を始めた。
「帝国議会の諸君! 単刀直入に進言する!
解放軍が王国領へ進軍し、鬼門であったアビラ砦を奪取したにも関わらず、半年近い期間まともな戦闘も起きていない。
我々帝国の兵士は、王国へタダ飯を食いに行っている訳ではないのだ!
……シン将軍は用兵の天才であることは認めよう。しかし彼には決意がないのである!
その才能を活かして、王国の民衆を独裁者から解放しようと言う決意だ。
各国代表の議員に命令して欲しい。
我を解放軍将軍として、王国民を解放せよと!」
議員達は一斉に立ち上がり手を叩き歓声を上げた。
その後採決が実施され、満場一致とはならないが多数決により、エグモント王子が解放軍将軍に任命され、伸は帝都防衛軍の将軍となることが決まった。
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エグモント王子が解放軍将軍としてアビラ砦に入り、伸へ帝都防衛軍の将軍として帝都へ戻るようにとの皇帝の命令書を渡してから一週間後、吉報が舞い込んで来た。
アビラ砦の奥の執務室に兵が慌てて入って来た。
「エグモント王子! ご報告があります。」
アシロ国からわざわざ持って来た豪華な装飾が施されたソファーに腰をおろしていたエグモント王子が身を乗り出し兵に問い返す。
「慌ててどうした? 王国軍に動きがあったのか?」
「はい、王国の王子暗殺に成功したようです。」
「ほう、それはシン将軍が仕込んだ調略だな、それで公爵家に動きはありそうか?」
「暗殺されたエドアルト公爵家の軍がニクラウス公爵の城塞都市へ進軍を始めたようです。エドアルト公爵軍も既に国境付近では僅かになっております。」
「ふっふっふ、私には運も味方したようだな、アビラ砦の軍を編成せよ! 明日出発するぞ!」




