王族の覚悟
王子暗殺の一報を受けた結衣とカールハインツ公爵は、翌日騎兵隊を引き連れて馬車で王都へと向かった。
王都へ到着すると、街道を挟んでエドアルト公爵軍とニクラウス公爵軍が睨みあって周囲にはピリピリとした空気が張り詰めていた。
「一触即発と言う感じね……」
結衣が馬車から外を見ながら呟くとカールハインツ公爵が
「最悪、王国を二分した内戦になってしまうわ」
「それだけは避けなければ……帝国に飲み込まれてしまいますね。」
両軍を掻き分けるように街道を進み城門の手前まで行くと、頑丈な城門がゆっくりと開き、馬車に乗ったまま王宮へと向かった。
円卓の間に通されると、王妃とエドアルト公爵とニクラウス公爵が頭を抱えてうなだれていた。
お互いいがみ合い激しい口調でやりあっていると思っていた結衣は、狐につままれたようにポカンッと立ちつくしてしまう。
その様子を見た王妃が
「ユイどうしたのですか? 妾達がここで喧嘩でもしていると思ってたのですか?」
「……は、はい…………」
孫を殺されたエドアルト公爵が結衣に向かって
「儂もニクラウスが暗殺してまで、自分の孫を王にするような男ではない事は理解しておる。」
「それじゃどうして挙兵して軍同士が睨みあっているんですか?」
「儂らは腐っても血族じゃ付き合いも長い、しかしお互いの民衆や兵はそうはいかんのじゃ、頭に血が昇って振り上げた拳を降ろす場所が解っておらん」
この重大な事件を冷静に考えている二人の公爵を見て、結衣は王族と言う物を見直した。
「妾はこのままレオンを王にする事は出来ないと思いますが、ニクラウス公爵ご理解して頂けますか?」
「ああ、解っておるレオンが王となれば、この場を治めたとしても一生民からの信頼を受けることはない。それは国の衰退を招く事になるからの……」
「それはレオンの王位継承権を放棄します。ですので……」
と王妃は、カールハインツ公爵を見つめる。
「この年になって、儂に王になれと言うのか……」
「王位継承権の順番から言えば、先々代の王の弟であるカールハインツ公爵と言うことになります。」
「えっ……カールハインツ公爵が王様になるの……そ、それじゃ……」
結衣が考えてもいなかった展開に慌てると王妃が
「ユイ心配しなくても、養子である貴方に王位継承権はないから大丈夫よ。」
その言葉に結衣がほっとするとカールハインツ公爵が
「わかった但し条件がある」
カールハインツ公爵は周りを見渡すと皆一同に頷いた。
「レオンは儂の養子としアルマサン城塞都市を治めて貰う。儂は王都へ入り王になろう。しかし実権は全て娘のユイに託す、儂はお飾りの王であることを臣民に宣言する。」
「えっ!?! ええええええええええええええええええええええええ」
と結衣が絶叫すると、エドアルト公爵が
「ユイ頼む、帝国に暗殺された孫を政争の具にしたくないのだ、カールハインツの提案なら臣民の心をひとつに出来るのだ。」
続けてニクラウス公爵が結衣の手を取り
「戦乱が続き疲弊してる民衆は、英雄を求めておる。いま王国をまとめられるのはお前しかいない。」
王妃も諭すように
「貴方は武勇伝だけで人気になっている訳ではないのです。貴方がたくさんの孤児を引き取り、教育し商売を教え自立させている事も、帝国の貧しい小さな国を盗賊から救った事も知ってます。臣民は貴方の全てを支持しているのです。いま王国をまとめられるのは貴方しかいないのです。」
「む、無理無理無理無理無理無理無理無理無理、絶対むりーーー!」
ドンッ!
カールハインツ公爵が強く机を叩き
「ユイ! お前には王族の覚悟がないのか? ではどうすれば良いと言うのか! お前の考えを述べてみよ!」
「……、……、……、……、……、……」
結衣が何も言えず沈黙が続くと
パン! パン! パン!
王妃が手を叩き
「ユイも急な話で混乱しているでしょうから、お茶の時間にしましょう」
出されたお茶はくすんだ茶色ではなく、明るく透明な茶色で香りは高い。もちろん葉自体、えらばれたおいしい葉でもあろうが、いれ方が全然違うのだろう。
普段飲んでいるお茶とは段違いに美味しいお茶に結衣は自分が置かれた状況を一瞬忘れかけていた。
コンコンコンっとノックされると従者が扉をほんの少し開き用件を聞くと、王妃の元まで駆け寄って耳元で何か囁いた。
「入りなさい。」
扉を開くとバルデス将軍が頭を下げ膝づいていた。
「ご報告いたします。帝国軍が大河リカシイを渡り進軍を始めました。伝令も早馬で三日掛けておりますので、既に相当の領土が占領されていると思われます。」
「分かりました。軍を編成し指示を待って下さい。」
と王妃が言い終わるとバルデス将軍は下がり、扉が閉められた。
「こんな時にユイの心を惑わすのも良くないだろう、臣民も不安になっておる早急に戴冠式を行い儂が王となろう……」
「そうですね。カールハインツ王と言うことは、王位継承権はありませんがユイが王女と言うことになりますから、臣民も喜ぶでしょう。」
「ユイ儂が王になることには異存はないな?」
「……はい」
「それではお前は王政の事は忘れて将軍として指揮を執れ、軍の事は全て一任する」
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翌日、王都で戴冠式が行われカールハインツ王が誕生すると、臣民はユイが王女となることに歓声を上げ喜んだ。
王都周辺で対峙していたエドアルト公爵軍とニクラウス公爵軍も将軍同士が手を握りお互いの無礼を詫びた。
そして全軍の将軍が集まり軍議が始められた。
一通りの状況報告が終了後、結衣が問うた。
「戦況以外の情報はありませんか? 例えば占領された街の様子とか、帝国軍の編成とか、指揮官についてとかの」
「はい、占領下の街ですが略奪等はあまりないようですが、快楽茸が相当出回っているようで、金に困って子供を売ったり、傭兵になったりしている農民が多くいるようです。」
「編成に関しては、いつも通り歩兵が多くまとまった数の騎兵隊はありません。」
「私からも、帝国の人事について大きな変更があったようです。アビラ砦を落としたシン将軍と側近がまとめて帝都防衛軍に異動したようです。」
「シン将軍が帝都へ戻った……、一番大きな情報かも知れませんね。勝機は十分に、いえ、やり方によっては侵攻軍を殲滅することも可能です。」
「ユイ将軍何か策があるのですか?」
「はい、大河リカシイの東側しか補給用の砦がありません。帝国軍を王国の奥深くまで誘い込み、補給路を絶てば帝国軍は自滅します。」
「しかし、後ろにはアビラ砦に大軍も控えておりますし、簡単には行かないのでは?」
「簡単ではありませんが、やるしかないです!」
「それでは具体的な指示をお願いします。」
「エドアルト公爵軍とニクラウス公爵軍は、それぞれの城塞都市まで帝国を誘い込み防衛して下さい。それと王都での両軍の小競り合いはそのまま続けて下さい」
「帝国を欺くと言う事ですな。」
エドアルト公爵とニクラウス公爵は、にんまりとした笑みを浮かべ互いに手を取った。
「国王直轄軍とカールハインツ軍は、機を見て大河リカシイの東側の砦を落とします。その後、エドアルト公爵軍とニクラウス公爵軍は帝国軍に総攻撃をお願いします。」
「「承知した」」
プロットはまだまだあるのですが、一旦時間を置きたいので前編として終了します




