円卓会議
カールハインツ公爵からの養子、テイス将軍からの将軍への申し入れの両方を悩みながらも引き受けた結衣は両名と共に報告の為、王都へと入った。
王都で睨みあっていたエドアルト公爵軍とニクラウス公爵軍も、大河リカシイの岸で帝国に備えているので、王都周辺は平和と静けさを取り戻していた。
しかし、結衣達が王都の重厚な城門をくぐると、地響きのような歓声が沸き起こった。
結衣は凱旋パレードの為に王都へ赴いた訳ではないが、カールハインツ公爵から促されると、馬車の屋根に登り大勢の臣民に両手で大きく手を振った。
「「「白い悪魔ばんざーい」」」
「「「白い悪魔ばんざーい」」」
「「「ユイさまー!」」」
「「「王国軍の誇りだー」」」
と、城門前の大広場を抜けるまで結衣への称賛が王都に鳴り響いた。
喧騒を抜け閑静な貴族街にあるカールハインツ公爵の屋敷に泊まりゆっくりと休んでから、王妃へ連絡し王宮へと向かった。
謁見の間に入ると、正面には王妃が左側に幼い二人の王子、右側にはエドアルト公爵とニクラウス公爵が豪華に装飾が施された椅子に座っている。
カールハインツ公爵と結衣がひざまずき養子に向かい入れることを王妃に報告すると、結衣の養子入りは承認された。
王妃がパンパンと手を叩くと従者が扉を開け、その部屋には王族用にしては小さな円卓と人数分の椅子が用意されていた。
「儀礼的なことはこれで終わりとします。今日は王国の今後について隣の部屋で皆で話し合いたいと思いますがよろしいでしょうか?」
と、王妃の問いかけると全員が頷いた。
着席し出されたお茶を口にしたあと、王妃が話し始める。
「国王が死去して半年も立っているのに、次の王が決まっておりません。
二人の王子は共に幼く二人で話し合って決められるものではありませんし
二人とも私の実子ではありませんので、私が決められるものでもありません。
二人の母の実家であるエドアルト公爵家とニクラウス公爵家で、話し合って欲しいのですが、お互い譲ることなく、つい先日まで軍を率いて睨みあっておりました。」
王妃の言葉に、エドアルト公爵とニクラウス公爵は顔を真っ赤にしてうつむいたが、王妃はその様子を見る事も無く続けた。
「どうしたら、争う事無く王を決めることが出来るのですか? ご意見をお聞かせ下さい。」
誰も意見を言うことなく、気まずい雰囲気の中、お茶の香りだけが部屋に漂っている。
「誰も意見がないと言うならば、私から提案いたします。」
と、王妃は言いながら椅子から立ち上がり
「我が国が混沌としているなか、帝国の侵攻により国土の三分の一を失い、更に王都へと侵攻を続ける中
このユイ令嬢が兵を率いて、帝国の将軍を討ち取ってくれたおかげで、帝国は大河リカシイの東側まで退いてくれました。
臣民が我ら王族に不信を抱くなか、ユイ令嬢は度重なる戦果と美しさから、臣民に絶大な人気を集めています。
もうユイ令嬢に王を決めて貰いませんか?
臣民もそれなら納得し臣民も一丸となって帝国との戦いに力添えしてくれると考えます。」
結衣が頭の中で、え~~~~~! なにそれっと、思っている時に、エドアルト公爵が初めて口を開いた。
「儂も国を滅ぼしてまで、孫を国王にしようなどと考えてはおらん、国王軍の白い悪魔と呼ばれるユイ殿が決められるのであれば異存はない。」
ニクラウス公爵も続けて
「儂も同じ意見じゃが、ユイ殿が決めると言うのはどういうことじゃ?」
王妃は笑みを浮かべ
「ユイ令嬢が結婚相手と選んだ王子が王となるのです。王子が成長するまで、ユイ令嬢が女王として国を治めれば臣民も喜ぶことでしょう。」
エドアルト公爵とニクラウス公爵もその言葉に大きく頷き、それで構わないと口を揃えて言った。
全員の目が結衣にいくと
「そ、そんな急に言われても……決められる訳がありません。」
王妃は穏やかな表情で
「いま決めなさいとは言いません。しばらく王宮で暮らし二人の人となりを確かめてからでいいのですよ。」
「…………………………、無理です、こんな幼い子を愛することは出来ません……」
「愛?」
「愛です愛、愛する人じゃないと結婚なんて出来ません。」
するとエドアルト公爵が高らかに笑いながら
「戦場では帝国兵に白い悪魔と恐れられながら、愛がないと結婚できないなんて青臭いこと言うのか、女王になれるのだぞ、愛がどうのこうのなんて、小さい事言う場合ではないじゃろ」
王妃は諭すような口調で
「ユイ令嬢、王族の婚姻に愛や恋は関係ありません。家のことや国のことで決まるのです。気持ちは後から付いてくるものです。」
「私は王族ではありません! 自分の感情を押し殺してまでこんな幼い子と結婚なんて出来ません!」
すると、王妃が立ち上がり、今日初めて強い口調で
「貴方は先ほど王族になったではありませんか!」
「…………、そ、それは……」
結衣は口ごもりながら隣のカールハインツ公爵を睨みつけるが、カールハインツ公爵は下を向いて小さくなっていた。
「申し訳ございません。それでも私は幼い二人の王子から一人選んで結婚することは出来ません。」
結衣は立ち上がり、深々と頭を下げたあと、部屋を出て行こうとした。
「待ちなさい! ユイ令嬢、一度お座りください。」
王妃に促され結衣が着席すると、王妃はため息を付きながら
「無理を言ってごめんなさい。貴方にとっても良い話だと思ったのですが……そこまで拒否なさるのなら諦めます。
もうひとつ別なお話があります。
国王直轄軍は、国王が将軍として指揮を取っておりますが、国王不在の間は、ユイ令嬢、いやユイ将軍の配下としたいのですが、これは受けて貰えるでしょうか?」
王子との結婚を断ったばかりの結衣は断る訳にもいかず
「……は、はい。エドアルト公爵とニクラウス公爵がよろしいと言って頂けるのであればお受けします。」
エドアルト公爵とニクラウス公爵も承諾し、結衣は国王直轄軍十万、カールハインツ公爵軍四万の指揮権を得る事になった。
結衣が承諾すると王妃は
「早速ですが、ユイ将軍、帝国に領土の一部を占領されておりますが、この状況をどうしようとお考えですか?」
「現状維持するしかありません。占領地域で略奪なども起きておりませんですし、悪戯に大軍同士をぶつけても土地を荒し兵の命を無駄にするだけです。」
「領土を取り返すつもりはないと言う事ですか?」
「いいえ、状況は変わるものです。気を見てチャンスが来たら取り戻します。」
「承知しました。その時は妾に相談することなく、ご自身の判断で迅速に行動して下さい。用兵に関しては全て貴方に一任します。」
「王妃、承りました。」
「エドアルト公爵とニクラウス公爵、その時はユイ将軍の力になって下さい」
「協力は惜しみません。」と二人は声を揃えて返答した。
「王位継承の件も、状況も変わることもありますのでまた皆で話し合いましょう。それまでいがみ合うのは止めて帝国との戦いに備えるのです。」
この王妃の一言で話し合いは終わり、結衣達もカールハインツ公爵のお屋敷へと戻った。
----
アビラ砦の周辺は、鮮やかな直線と曲線で区画された水田が延々と続いている。
これは伸がアビラ砦の豊富な水と有り余る兵士と言う労働力を使い耕したのだ、もちろん防衛上ぬかるんだ土壌を周辺に作る事で敵の進軍を妨害することも考慮したうえのことである。
伸は薄暗くジメジメしたアビラ砦内部に閉じこもっているのが嫌で、日中はアビラ砦の外側に作った自分用の小屋で田園風景を眺めながら執務をこなしている。
そんな伸の机の端に十通ほどの立派な手紙が放置されている。内容はどれも同じで、早急に独裁王政から臣民を解放しろ! っと言うような事が書かれていた。
そこへどこか影を感じる兵が入ってきた、王国への潜入者をよりまとめている将校だ。
「将軍、ご報告がございます。」
「おお、王国に何か動きがあったか」
「あの白い悪魔と呼ばれる娘が、カールハインツ公爵軍と国王直轄軍の将軍を兼任することになったようです。」
伸は椅子に座りながら両手を頭の後ろで組み少し上を見ながら
「そうか……結衣さんまた出世したか……ますます解放は難しくなるな……」
「あの者は武術には長けておりますが、指揮に関しては将軍の足元にも及ばないのではないですか?」
「いや、計画性に関しては俺の方が上かも知れんが、その場のその状況を把握し行動する能力が向こうが上だよ」
「ご謙遜なさらずに、将軍は希代の軍師であらせます。将軍より用兵が優れた者などおりません。」
「それより、王位継承に関しては動きがないか?」
「それはまったく動きがありません。エドアルト公爵とニクラウス公爵の軍も王都周辺には一兵も見当りませんでした。」
「そうか……どちらかに決まって内乱でも起きてくれれば……攻め込んでもいいのだが」
将校が少し周りを気にして小声で話始めた。
「将軍、我が帝国の状況もお耳に入れたいのですが……」
「なんだ? 言って見ろ」
「将軍の所へも再三議会から進軍要請が出ていると思いますが、アシロ国で大規模な徴兵が行われております。」
「ん?! 俺の首でも獲りにくる気か?」
「そこまではしないと思いますが、戦の準備をして将軍にとって変わろうと議会に圧力を掛けてくると思われます。」
「俺はいつでも更迭されて後方へ戻されてもいいんだけど」
「それではいつも将軍が言っておられるように、多くの兵の命を無駄にしてしまいます!」
足を組み換え苦悩の表情で伸は
「そうだな、無責任だよな……しかし、いたずらに攻め込んでも勝機はない……もうあれしかないな……」
「何か策があるのですか?」
「あまり使いたくない手段ではあるがしょうがない。王国で内乱を起こすしかないな」
「どうやって内乱を起こすつもりですか? また農民を煽るのですか?」
「違うが、お前に汚い仕事をしてもらうことになる。」
「なんなりとお申し付け下さい。」




