動乱のはじまり
農民による蜂起から起こった反乱軍との戦いの反省から、国王は各地を周り農民達の暮らしぶりを聞いて周るのが毎年の恒例行事になっていた。
国王自ら馬に跨り百人程の従者を連れ、まっ黒にしげった森のなかを縫うようにうねっている街道を進むなか、国王一行は不運に見舞われてしまった。
たまたま獲物を求め街道に出て来た熊と突然遭遇すると、国王の馬は前脚を高く上げその躰を垂直にすると、国王は頭から勢いよく落馬し息をひきとってしまったのだ。
王都で大々的な国葬が営まれた直後に、王国では混乱の渦が巻き起こった。
正室に男子はおらず、側室に幼い二人の男子がおり、それぞれエドアルト公爵の娘と、ニクラウス公爵の娘の庶子であった。
エドアルト公爵とニクラウス公爵は、アルマサン城塞都市のカールハインツ公爵と並ぶ王国の三公爵と言われており、どちらが国王となるのか後継者争いが勃発した。
二人の異母兄弟は、仲が良いのだが本人達の意思とは関係なく、両家の思惑で事が進みそれぞれ王都に軍を入城しようとするが、王妃によって断られると、王都を挟み南北にそれぞれ陣を組み対峙することになってしまったのだ。
アルマサン城塞都市
掃除の行きとどいたカールハインツ公爵の執務室のテーブルに、三通の手紙が無造作に置いてある。
エドアルト公爵とニクラウス公爵からは、こちらの陣営に参加して欲しいとの要望、もう一通は王妃から帝都に入城し中立を保って欲しいとの要望書であった。
カールハインツ公爵は、困ったように頭を捻りながらテイス将軍に相談していた。
「テイス将軍、どうしたらいいものかね……儂は後継者争いなどまったく興味がないのであるが……」
テイス将軍も腕を組みながら
「まぁ、カールハインツ公爵が付いた方が王位を得る状況ですからね。王妃は話し合いの時間稼ぎに王都に入城して欲しいのでしょうが、帝国はこの機を逃しませんよ。」
「そうじゃな……儂らが動けば帝国は挙兵するじゃろ」
「動かなくても帝国は攻め込んで来ますよ。私は万が一の為に、アビラ砦に入ろうと思いますがよろしいでしょうか?」
「ああ、そうしてくれテイス将軍、王都には帝国の侵略に備えて動けんと返事をしておく」
帝国元老院会議場
扇形に広がる議場は、あたりの空気が重みをもっていて、誰もが四方から圧し縮まってくるような息苦しさを感じる。
「国王死去による後継者争いで、王国では、エドアルト公爵とニクラウス公爵が対立し王都近くで小競り合いをしておる。今こそ王国へ攻め入るチャンスではないか!」
「そうだ、そうだ!」
「今が千載一遇の機会だ。」
議場が異常な盛り上がりに包まれるなか、反対意見を述べる議員もいる。
「まってくれ王国へ攻め込んで、何になると言うのだ。未だかつて一度も領地を増やしたことはないではないか!」
「兵士の命を懸けてまで得られる得は無いと考えます。」
「何を言っておる、今こそ大陸の統一のチャンスである。いま挙兵せずいつ挙兵するというのか!」
「損得の問題ではない。民の為にあの独裁国家から民衆を解放するのだ!」
民衆の解放と言う言葉に反応し、議場から割れんばかりの拍手が沸き起こる。それは議決を得たと言うことになった。
頃合いを見て議長が皇帝陛下に決裁を求める。
「陛下、元老院からは民衆解放の為、挙兵の求めが出ておりますが、陛下のお考えをお示し下さい。」
それまで絵画の肖像のように静かに座っていた、いかにも育ちと人柄の良さを思わせる若い皇帝が立ち上がり
「議会の進言を尊重する。」
と、一言だけ言うと
「皇帝陛下ばんざーい!」「皇帝陛下ばんざーい!」「皇帝陛下ばんざーい!」「皇帝陛下ばんざーい!」
議員達は一斉に立ち上がり、大声を挙げた。
皇帝に拒否権はあるが、元老院で採決された事案に関して拒否権を使うことはない。皇帝の判断があるとすれ帝国を二分するような事案や大国同士の争いの仲裁くらいなのである。
こうして王国への侵攻が民衆解放の名目で採決され、ジークベルトを大将とした侵攻軍が編成されることになった。
ただ、若き聡明な皇帝は、ジークベルトにひとつだけ条件を付けていたのである。
副将軍として藤沢伸を従軍させる事。
王都近郊で、王国軍同士が小競り合いをしているなか、ジークベルト率いる帝国軍は、二十万の兵を最前線に集中させ進軍し王国の北東部をたった10日で占領したのである。




