出発
「ホベルトさん、私が指揮して戦い方を教えますが、戦うのは自分達ですがいいですか?」
「は、はい。その覚悟は出来ております。」
「それとサナさんは、国へは戻りません。戦いが終わったら自分達で国のあり方を考えてくれますか?」
「……は、はい。生き残ったあとに皆で相談します。」
結衣は、三年間毎日のように図書館へと通い、この世界の情勢もおおよそ把握していた。帝国は王国の十倍以上の面積と五倍の人口を持つ巨大な国家であるが、その実情は百以上の国からなる連合国家であった。
しかも、国家間の争いに帝国は関与することなく、各国は土地を巡り争いを続けているのである。たったひとつ救いなのは、帝国内の戦では、国力低下を防ぐ為に焼き討ち、略奪が厳禁で、それは遵守されていた。
そんな結衣にもひとつ理解出来ないことがあった。
「どうして、アルバド国は周辺の国に攻め落とされないの?」
「周辺三カ国に、賠償金を支払い不可侵条約を結んだからです。」
「あ~あ、帝国へ報告された条約は、絶対に守られるんですよね」
「そうです。帝国内の条約は絶対で、破れば最悪領地没収となりますので……」
「でも、永遠じゃないんでしょ?」
「あと二年はその心配はありません」
「二年か……、まぁいいやそのことは後で考えましょう。今は盗賊団から守ることを考えないと!」
「ユイ様……、いつ我が国に来て頂けますか?」
「うーん。早い方がいいわね。下調べとか準備とかは、現地でした方がいいので、明日でも出発する?」
「はい。私は構いません。」
とホベルトは涙を浮かべながら答えた。
「ちょっと! まったーー!」
ヨナが話しに割って入る。
「ユイさんは、ひとりで行くつもり?」
「そうよ。」
「ヨナも行くよー生まれた国なんだし、ホベルトさんに助けて貰った恩もあるしー」
「ヨナ様……」ホベルトの大粒の波が落ちる。
「リナも当然付いていくよー 但し王家には戻らないからね。」
「リナ様……ありがとうございます……」
「ヨナリナありがとう。正直助かるわ」
結衣は満面の笑みを浮かべた。
「あたしもいくー」と、ダニエラも便乗したが
「「「だめー!」」」
結衣ヨナリナが口を揃えてダニエラを止めた。
「なんでーいいじゃない。私がいると役に立つこと解ってるでしょ」
「戦場なのよ。自分自身を守れない子は連れて行けないわ」
結衣が真面目に言うと
「わ、わかりました。」
と、ダニエラは素直に応じた。
「ありがとダニエラ、サナさんにも頼んでおくので、お屋敷と皆のこと頼みますね。」
ホベルトが何か言いたそうな顔で結衣を見ている。
「ホベルトさん他に何かあるの?」
「え、え、あ、あのー……、それでもサナ姫は来てくれないのでしょうか?」
「実は、まだはっきりしてないけど、サナさんは妊娠しているようの」
「そ、そうでしたか……申し訳ございません。」
ヨナは何故か楽しそうに
「いいじゃない。私達三人居ればじゅうぶんでしょ!」
「は、はい。ありがとうございます。」
と、ホベルトはまた床に頭をこすりつけた。
――その日の夜
色々あって、また戦に関わることになった結衣は、一人部屋で佇む
(ユイまた変なことに首突っ込んだな)
「困ってるようだったから、しょうがないわ」
(この世界困ってる人間は山ほどいるぞ)
「じゃコンサはどうしろって言うのよ」
(遠くの国のことはほっといて、今の生活を続けていればよかろう)
「あのままじゃホベルトは、サナさんが引き受けるまでサナの家の前から離れないと思うの、サナだって助けたいって気持ちもあるから、結局一緒に行く事になったと思う。それならさっさと盗賊を追っ払ちゃえば、また元の生活に戻れるでしょ」
(盗賊を追っ払って、終わりならいいがな……)
翌朝、結衣が旅支度をしていると、イタカレが入って来た。
「イタカレどうしたの?」
「ユイ姉、俺も行くよ。」
「駄目ですよ。遊びに行く訳じゃないんだから」
「俺だって、三年間毎日訓練してきたから戦えるよ」
確かにイタカレは、毎日薙刀を使った訓練を真面目に行い。結衣の目にもその実力は、初級騎士並みに見えていた。
「訓練と実戦は、まったく違うの、イタカレは足手まといになる」
結衣は、諦めて貰うために厳しいことを言った。
すると、イタカレは顔を真っ赤にして
「実戦を経験しないと、いつまでたっても半人前のままじゃないか」
「訓練は、自分達の身を守る為にやってるの、実戦を経験することがないのはいいことよ。」
結衣が言い放つと、イタカレは不貞腐れた顔をして出て行った。
「気持ちは解るけど……」
結衣は少し寂しげな顔で呟く
帝国と王国の国境は二千メートル級の山々が連なる山脈となっており、両国を繋ぐ街道は二本あるが、特別な許可を得た人間しか通行できない。
結衣達は、険しい山道を徒歩で進まなければならないが、アビラ砦までは、国王軍の馬を届けると言う名目で馬を借りる事が出来た。
馬に乗れないホベルトは、ヨナの後ろにまたがり、結衣とリナはその横を並走し、三頭の馬は四人を乗せてアビラ砦へと向かった。
少し距離を置いて、監視するように付いてくる一頭の馬に、コンサは気が付いていたが、他の者は解っていない。




