イタカレ
初めてユイに会ったのは、僕が屋台のふかしイモを盗んだ時だった。追いかけて来た結衣を上手くまいて、石畳の下の僕たちの領地へ逃げ込んだが、ユイはそこまで追って来た。
当時、リーダー格のダニエラが信じられる人だと言うので話を聞いたら、盗みは辞めなさいと言うのである。
僕たちは、盗みをしないと生きて行けないのに……
すると、ユイは食べ物を運んで来てくれるようになり、そして爆発菓子の作り方と道具、仕入先まで用意してくれたので、僕たちは屋台で商売をして生きて行けるようになった。
爆発菓子は、飛ぶように売れ屋台も二軒目、三軒目と増やしていた頃、反乱軍によりアルマサン城塞都市は占領され、僕たちは、また全てを失った。
そんな絶望的な状況の時、ユイがアルマサン城塞都市に潜入してきて、僕たちに助けてくれ と言うのだ。
僕たちは、石畳の下の迷路のような地図を作り、ダニエラと一緒に信用出来る大人達にユイ達の協力をお願いした。
すると、ユイは街の人と協力し反乱軍を追い出してしまったのだ。
本当に凄い人だと思った。
そして、ユイがカールハインツ公爵から褒美として貰った大きなお屋敷に、僕たち孤児全員を住まわせてくれた。
反乱軍の鎮圧で、大怪我を負って帰って来たユイを見た時、僕は自分の命と引き換えに、ユイの怪我が治るように神様に初めてお願いした。
僕のお願いが叶い、ユイの怪我は治り、ユイは戦果の報告の為に王都へと出向いて行った。リナ姉から聞いた話だが、王都では住民総出でユイ達を歓迎したようだ。
ユイは国王軍の英雄として君臨することになると思っていたが、ユイは国王との謁見で軍の退役を申し出た。
そして、ユイと僕たちの新しい生活が始まった。
ユイは軍を退役したが、武術の訓練は怠ることなく行われ、僕たちも自分の身は自分で守らなければならないと訓練が始まった。
毎日、陽が昇ってからお昼ご飯まで訓練し、お昼ご飯を食べてからは、爆発菓子の屋台で働き、陽が落ちる前には屋台をたたみ、お屋敷に戻ってご飯、ご飯の後は読み書きと計算の勉強と言う生活が三年続いた。
この三年で僕は、街の商人並みに読み書きと計算ができるようになり、剣の腕前にも自信があるし、馬にも乗れるし弓も引ける。
十五才にもなったので、ユイに軍に入りたいと言った時、ユイに
「なんの為に軍に入るの? 理由があるなら好きにしていいよ」
と、問われた時、僕は何も言えなかった。
僕に軍に入る理由がないのだ、爆発菓子を売っていれば生きて行けるお金は稼げる。毎日訓練しているから、自分や仲間の身を守ることが出来る。
そう僕は、単に力試しの為に軍人になりたいと思ったのだ、そんな理由をユイに言える訳がなく、国王軍への入隊は諦めた。
でも、僕は戦いたい。
出来れば、仲間を守る為、ユイの為に……
悶々とした日々を送っている時、お屋敷にずぶ濡れの男が運び込まれた。ユイ達の話を聞いていると、その男は、サナ姉に女王として国に戻って貰うために、帝国からアルマサン城塞都市まで来たと言う。
サナ姉が王族の血筋をひいているなんてことにも驚いたが、それよりもサナ姉に戻ってもらいたい理由に、僕は釘付けになった。
なんと、国を荒らす盗賊団を退治して欲しいと言うのだ。
そう僕の望んだ、誰かの為の戦いである。
事前にユイに相談すると、絶対に反対されることは解っていたので、僕は、出発日の朝までに準備をしてユイの部屋へと行った。
部屋へ入ると、ユイが怪訝な顔をして
「イタカレどうしたの?」
解ってるくせに聞いて来たので僕はそのまま
「ユイ姉、俺も行くよ。」
と、言った。
ユイが僕の実力をある程度認めてくれているのは解っていたので、意気込みを伝えたが、ユイは実戦経験のない事を理由に僕を足手まといと言うのだ。
誰だって最初は実戦経験は無いじゃないか。兵士が初陣で多数命を落とすことは解っているが、それじゃいつまでたっても僕は半人前のままだ。
僕はこれ以上何を言っても無駄と思い、とりあえず理解したふりをして何とか一緒に付いて行く手段を探した。
ユイ達は、国王軍の馬を借りてアビラ砦まで行き、そこから徒歩で国境の山を抜けてアルバド国へと入るとのことだった。
僕は馬を借りる為に、国王軍の厩舎へ向かうユイ達に付いて行って城門で大きく手を振って見送った。
――その後、僕はもう一度国王軍の厩舎へ行って、ユイがもう一頭連れて来るようにと嘘を付き、馬を借りてユイ達を追った。
アビラ砦には行ったことがあるので、無理にユイ達に近づくことなく、ユイ達の砂埃が微かに見える程度の距離を置き付いて行った。
陽が落ちたら夜営し、陽が昇ると直ぐにユイ達の影を追った。ずっと続いていた草原もアビラ砦に近づくにつれ、谷や森が多くなってきた。アビラ砦近くの深い森に入ると、少し嫌な感じがした……
ドサッ! と上から強い衝撃を受け、僕は馬から振り落とされると、首筋には短剣が押し付けられていた。
「はい。イタカレ君死亡ね。」
とリナが冷たく微笑んでいた。
主を失っい無秩序に走っていた馬は、ユイとヨナに受け止められ落ち着かされている。
短剣を押し付けられ地面に横たわっている僕を囲むように、三人が立ち尽くしていた。
「これが戦場なら、もうイタカレは死んでるんだよ? これでも戦場に行く気?」
結局僕は、この人達にはかなわないのである。反乱軍との戦いで何度も死線をくぐり抜け、英雄的な活躍をして来た人達なのだから……自然に涙がこぼれ落ちた。
「なに泣いてんのよ~男のくせに」
ヨナが僕の顔を覗きこんで、からかうように言う。
僕は思わずヨナを突き飛ばし叫んだ
「ぼ、ぼくは、強くなりたいんだ! 強くなってユイを守りたいんだ!」
尻もちを付いたヨナを起こしながらユイが
「しょうがないわね。付いて来なさい。」




