サナ姫
反乱軍との戦いの後、王との謁見の為に、王都へと赴いた結衣達は、先に戻っていた兵達の噂により、大歓迎され凱旋パレードのように迎えられた。
王都の民達は、軍神、女神などの歓声を上げたが、最後には敵軍がつけた国王軍の白い悪魔と言う通り名が定着した。
しかし、王との謁見で結衣が願い出に、民達は震かんした。
結衣は、王から望みを聞かれた際に、軍からの退官を申し出したである。
退官は認められたが、王はそれだけでは、国としての面子が立たないからと言われ、結衣は本をたくさん読みたいと願い出て、王都の図書館の蔵書を全て写本し、アルマサン城塞都市の図書館へ寄贈した。
それから結衣は、アルマサン城塞都市の図書館で読書三昧を続け、三年の月日が流れた。
結衣は、カールハインツ公爵の隣のお屋敷で、リナ、ヨナ、ダニエラと三十人の孤児達と暮らしている。
サナは、カールハインツ公爵の側近の騎士と結婚しお屋敷では暮らしていない。チャナは、十人長として兵舎に寝泊まりしている。反乱軍鎮圧後は、戦争のない平和な日々が続いていたのである。
結衣、リナ、ヨナ、ダニエラの四人は、図書館の帰りに久しぶりにサナの家に遊びに行く事にした。
すると、サナの家の前に人だかりが出来ていた。
「なんだろう?」
「まさか……サナ姉になにか!」
と、リナとヨナが人だかりを掻き分けて行くと、サナの家の前で、男が土下座していた。
「人んちの前で何してんの? 人だかりが出来ているじゃない」
リナが腹立たしさを隠さず男に言うと、男が
「!? リナ様ではないですか」
と、リナにすがるような目を向ける。
しかし、リナは冷たく
「あんた誰? アルバド国の人なんだろうけど、もう私達は関係ないから!」
ヨナが男の顔を見て
「この人……」
「ヨナ知ってるの?」
「リナ姉わからない?」
リナがまじまじと男の顔を見るが思い出せない。
「知ってるなら、言いなさいよ」
「奴隷商人から助け出してくれた時、いた人だよ。ヨナを抱きかかえくれたから覚えている」
男はヨナを見ると
「ヨナ様なのですか……随分と大きくなり、お美しくなられたようで……」
「悪い人じゃなさそうね。よく解らないけど、ここじゃ人目に付き過ぎるから、サナの家で話しましょう」
結衣が男を起こして、サナの家に入る。
四角い箱に窓を明けただけのような、小さく質素なサナの家に入ると
「もうー 何でその人家に入れるの! 帰って貰って下さい!」
と、サナが憤慨する。
結衣が「どうしたの?」とサナに聞いたが、サナが何か言う前に男が
「サナ姫、どうかアルバド国を救って下さい。」
と家の中で叫んだ。
サナがヒステリックな声で
「もう! 帰って下さい!」と繰り返した。
「サナさん一度、私達にも説明して、そしたらこの人連れ出すから」
と、結衣に言われ、サナは渋々男を居間へ通した。
居間へ入ると男は、用意された椅子には座らず、床に正座してアルバド国の実情を説明し、サナに国に戻り農民を率いて盗賊団から国を守って欲しい、そして女王として国を治めて欲しいと嘆願した。
一通り話を聞いた結衣が
「事情は解りました。盗賊団に関しては、厄介だけど、一国の女王に戻れるなんて良いことじゃないのサナさん?」
サナは失笑をこらえながら
「結衣さん、国といっても、民は一万人もおりません。王国基準で言えば村長ですよ。今の快適な生活を捨ててまでなるほどの物じゃないです。」
「もうこれ以上話しても無駄ね。約束通りホベルトさんは連れ出しますね。」
と、結衣は正座して頭を床に付けているホベルトを抱きかかえ、家の外へと出た。
「ず、ずいぶん荒っぽいこと」
と、ヨナは笑いながら言うが、ホベルトはびっくりして目を丸くしている。
家の外で降ろされたホベルトが
「お願いします。サナ姫を説得して下さい」
と、また道路で土下座をする。
流石に結衣にも怒りの感情が芽生え
「いい加減に諦めなさい。サナ達は国を追われた後、命を懸けて戦い。今の生活を手にいれたの、戦いもせず、今さら助けて下さいなんて都合が良すぎるわよ」
「……」ホベルトは何も言えない。
暫くの沈黙のあと結衣が
「泊まる所はあるの? なかったら今日は私達の家に泊めてあげますよ」
「安宿をとっているので大丈夫です。申し訳ございませんでした。」
と、ホベルトはどぼとぼとした足取りで、街の中へ消えて行った。
今まで一言も話さなかったダニエラが
「あのおじちゃん悪い人じゃないよ。助けてあげないの?」
「困っているのは解っているわ、でもね……皆戦って自分の生活を守っているの。自分で戦いもせず、人に頼るだけじゃ……」
結衣も助けて上げたい気持ちがあるので、その言葉は弱い
「でもお百姓さんがいなかったら、ご飯食べれないよ」
「……そうね」
結衣は遠くのホベルトの背中を見つめながら呟いた。
翌日は、朝から酷い雨となった。
結衣達は、朝の訓練を中止しお昼ご飯を食べてから図書館へと向かった。
サナはカールハインツ公爵の元で文官として働き、夫は遠征訓練中なので留守なのである。そんなサナの家のまえで、土砂降りの雨の中、ホベルトが土下座していた。
結衣がホベルトに駆け寄り声を掛けると
「サナ姫、お願いします……無礼は承知で……お願いします……お願いします……」
と、ホベルトは意識がもうろうとしながら念仏のように同じ言葉を繰り返していた。
「体がこんなに冷たくなってる……、ホベルトさんをお屋敷に連れて行くわよ。ダニエラは先に戻ってお風呂にお湯を沸かしておいて!」
「わかった!」
ダニエラはお屋敷の方へ走って行く、結衣はホベルトを抱えその後を追った。
結衣達は、ホベルトの濡れた服を脱がし、お風呂へ入れたあと、ベットに寝かせた。そしてその傍らでヨナが一晩中汗を拭きとるなどの看病を行ったのである。
――翌朝
二階の寝室のベッドの上に横たわり一人のホベルト男が宙を見つめていた。幾度このため息にも似た呟きを漏らしたのだろう。
扉が開き結衣が寝室へ入ってくると、ホベルトはベットから降り、その場で正座し頭を床に付けた。
「申し訳ございません。ごめんどうをおかけしました。」
「あの雨のなか何時間も地面に座っていたら死んじゃいますよ!」
結衣は厳しい口調で言う
「……私なんて死んでもいいんですよ。」
「じゃあなぜ、あなたは死ぬ気で盗賊と戦わないの?」
「誰か一人でも歯向かえば集落全員が皆殺しにあい、焼き討ちされてしまうのです。私の妻は目の前でさらわれて行きましたが、私はただ見ていただけでした。」
「それでサナを担ぎ出して、皆で力を合わせて死ぬ気で戦おうってことなのね」
「そうです。農民のなかにも、何度か戦に借りだされた者もいますので、剣を振ることは出来るのですが……」
「が?」と、結衣は首を捻る。
「……戦い方を知らないのです。」
「じゃ手伝いましょうか?」
「は?」と、今度はホベルトが首をかしげた。
(この親切なお嬢さんは、私を馬鹿にしているのか……)
ベットの横で看病していたヨナが
「ユイさんは、あの有名な国王軍の白い悪魔だよ」
「ええええええええええええええええええええええええ」
とホベルトは奇声を上げて、ベットから飛び起きた。




