第4話 虚言の姫
クラロは気づく。今日は同盟国――プエンテ王国の王女であるイルシオンとの、月に一度のお茶会だと。
「……申し訳ございません。せっかくのあなたとの時間なのに」
「いいのよ。あなたに考え事を運んでくる、小人さんを見ていたから」
彼の脳内に、またイメージが浮かぶ。ガーデンチェアに姿勢よく座るクラロのもとに、緑の三角帽子を被った手のひらサイズの小人が何かを持ってくる。小人の手には、彼女が想像する『難しいこと』なのだろう、意味不明な数式の羅列や長くこ難しい単語が書かれていた。
イルシオンの祝福は『虚言の祝福』。虚言を吐いた瞬間、イルシオンが思い浮かべるイメージが周りに共有される。彼女の想像を周りの人が楽しむことのできる、そんな祝福だ。
「……また嘘を」
「ええ、嘘よ。でも、楽しいでしょう?」
イルシオンはニコニコ笑う。クラロにはよくわからなかった。また沈黙し始めた彼に対し、彼女は微笑む。
「今日のクラロは静かな森ね」
その瞬間、クラロの形に切り取られた森が浮かび上がる。木々がさわさわと揺れ、木の葉が光を柔らかく遮る。
「……森」
「ええ。好きでしょ、森。というより、静かな景色かしら。例えば……、サファイアの海底。地上の光が、うっすら届くの。真珠貝のソファに腰かければ、目に入るのは揺らめく青ばかり」
クラロの脳裏に映るのは、ただひたすらに藍色の水底。視界が勝手に辺りを見回す。青の中に光る虹、つるりとした貝のソファの感覚が脳に流れ込んでくる。
「……私は、これが好き……?」
「あら? 違った?」
「……分からない」
彼は視線を落とす。イルシオンは笑顔を浮かべながら「じゃあ、色々見てみる?」と問いかけた。
クラロは答える代わりに目を閉じる。現実を、正解を、判断を、真実を閉ざす。ただ空想を受け取るために。
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