第15話 蜘蛛の輸送路
翌日。クラロはイスラの件について、重臣たちを集めた。長机の上に広げられたのは一枚の紙。点と線で構成された、奇妙な図だった。
「これが、イスラの計画図だ」
島々が点として置かれ、それらがいくつもの線で結ばれている。だが線は均一ではない。短いもの、長いもの、途切れているもの。
「……橋の計画図では、ございませんな」
老臣が眉をひそめる。クラロは静かに言った。
「違う。輸送路の設計だ」
「輸送路?」
「ああ。全ての島を繋ぐ必要はない。全てを同じ構造で繋ぐ必要もない。距離と風と地形を加味し、それぞれに適した方法で、近い島同士を結ぶ。流れを作る」
指が紙の上をなぞる。
「使用する橋も変えるのですか」
「ああ。基本的にはコストの低い桁橋。風が強ければトラス橋やアーチ橋、距離が長いなら吊り橋も候補に入れる」
別の臣が口を開いた。
「しかし、それでは全体としての統一が」
「不要だ」
間を置かずに返す。
「必要なのは通すことだ。形ではない」
室内がわずかにざわめく。
「それと」
クラロは紙の端に、新たな線を引いた。
「橋だけではない。ロープを使った簡易輸送も併用する」
クラロはそう言って、一枚の設計図を出す。魔石のエネルギーを滑車に通し、物資を運ぶ仕組みだった。
「……それは、仮設に過ぎぬのでは」
「恒久である必要はない」
淡々とした声が続く。
「魔石の採掘が始まれば輸送量は増える。その時に再設計すればいい。初期段階で過剰な投資は不要だ」
沈黙が落ちる。重臣たちは互いに顔を見合わせた。
「……あまりに、雑ではありませんか」
誰かがそう言った。
「蜘蛛の巣のようだ」
小さな笑いが漏れる。クラロはその言葉に、わずかに目を細めた。
「そうだな」
紙の上の線を指でなぞる。
「蜘蛛の巣だ」
そこで一度、言葉を切る。
「だが、獲物は確実に捕らえる」
室内の空気がわずかに変わる。
「流れができれば、人も物も自然に集まる。全てを一度に繋ぐ必要はない。繋がりは増やしていけばいい」
視線が重臣たちを順に射抜く。
「半分のコストで始められる」
誰もすぐには口を開かなかった。否定も、賛成も出ない。ただ、完全に切り捨てることもできない沈黙だけがそこにあった。
「……机上の理としては、成立しております。突飛な案ではございますが……」
沈黙を破ったのは宰相だった。
「ただし、失敗した場合の損失は、決して軽くはございません」
彼はじっとクラロを見つめる。
「誰が、その責を負われますか」
「……私が負う」
声に揺らぎはなかった。
「……承知いたしました」
室内の空気が静かに引き締まった。
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