第16話 空想が現実になった日
数日後。イスラで実験が行われた。対象となるのは、距離が短く風の穏やかな海峡だった。
簡易的な高い足場が組まれ、互いにロープで繋がっている。滑車にはハンドルがついていて、これで籠を動かす仕組みだった。
「行きます」
クラロや重臣が見守る中、足場の上に立った男が籠から手を離す。そして、滑車をぐるぐると回し始めた。
籠は海を渡っていく。だが、穏やかな風でも籠は大きく揺れる。見守っていた者たちの間にざわめきが走った。
「だめだったか……」
誰かがそう呟く。だが男は手を止めなかった。歯を食いしばり、ゆっくりとハンドルを回し続ける。籠は揺れながらも、少しずつ前へ進んでいく。
やがて対岸に近づき、待ち構えていた者がそれを掴んだ。籠が着地する。
一瞬の静寂の後、どよめきが広がった。
「すごい!」
「船だったら、半日はかかるぞ!」
地元の者たちが叫ぶ。クラロは小さく「……いけるな。……改良は必要だが」と呟いた。
「王子様、これ、撤去するのですか?」
「その予定だったが……、どうした?」
「これ、使わせてくれません?」
地元の者は真剣な目でクラロを見る。
「理由を聞こう」
「これがあれば、向こうに新鮮な野菜を送れます。特に葉物は、向こうに着く前に萎れてしまう」
「……まだ実験段階の設備だ。荷物の落下や怪我の可能性もあるぞ」
「使う際は十分気をつけますし、最悪落ちてもどうにかなるものしか運びません。使わせてください」
クラロは顎に手を当てる。目を伏せ、しばらく考えた。そして。
「……条件付きで許可する。監督をつける。運ぶ物資は限定しろ」
「ありがとうございます!」
男は深く頭を下げる。クラロは軽く笑いをこぼした。
◇
「クラロ、お帰りなさい!」
王宮に戻ったクラロを出迎えたのは、イルシオンだった。
「ただいま。今日は何をしたんだ?」
「お茶会よ。人の背よりも大きい花を見せたら、みんな喜んでくれたわ」
「……それは、見てみたかったな」
「じゃあ、また後で遊ぼう?」
「分かった」
彼は柔らかい笑みを浮かべる。
「ねえ、実験、どうだった?」
「……改良は必要だが、概ねうまくいったぞ」
「本当? イルも見たかったな」
クラロは少しだけ考えてから、言った。
「……実験はまたある。次は一緒に行くか」
「行きたい」
イルシオンはくすくすと笑いをこぼす。クラロもまた、小さく笑った。
これで完結です。読んでくださりありがとうございました。評価、いいね、ブックマークをしてくださると励みになります。
次作(2026/09/16投稿)→https://ncode.syosetu.com/n0366mp/




