第20話 「策の終着点」
冬川はようやく合点がいった。桜庭の一連の言動に抱いていた違和感が、ここにきて一本の線でつながった。桜庭はもともと、業績が右肩下がりのサニーズへの多額融資には慎重だった筈だ。そして、サニーズを再生させるには、隣接するYUZUNOKIとの合併が最善ということも考えていたのだった。
しかし、サニーズに融資をしていたわけではなく、サニーズの社長にM&Aを依頼されたわけでもなかった。銀行員として、YUZUNOKIに買収提案をするなど論外だった。そこへ橘がYUZUNOKIの相続税融資の話を持ってきたのだ。
この話を聞いた時、桜庭は正面からYUZUNOKIに融資話を持ち込みたかった。そしてYUZUNOKIとサニーズの合併へと持っていきたかった。しかし友人であり、且つ、この話を持ってきた橘は、サニーズにYUZUNOKIを買収させたがった。常識ではありえない話だった。
しかし橘は、柚木家の次男・二晴に取り入り、YUZUNOKI本部の弱体化を狙った。失敗しても、橘自身にはリスクもデメリットもない、狡猾なやり方だった。秋葉宗一が怒るのも当然だ――と桜庭は考えていた。
「さて、橘さんは帰られてしまいましたが、まだ続きがあります」
秋葉はふたりの視線を受けながら話を続けた。
「実は…今回の話をサニーズの社長に持っていきました。サニーズの社長、怒ったそうです。サニーズの社長も創業者ですからね、相続争いにつけ込んで他社を買収しようなどとあり得ないと」
秋葉の心にはわずかな悔いがにじんでいた。本来ならこの話を橘に伝えたかった。クライアントが怒っていることを聞いて、反省して欲しかったのだ。しかし橘は「お説教は十分」と、この話を聞く前に帰っていった。橘の行動に残念な思いもあったが、感情的になった自分の言い方が悪かったと反省した。
「ちなみに、サニーズの社長へ話を持って行ったのは私ではありません。柚木社長です」
「柚木社長と言うと……それは…」
桜庭は怪訝そうな顔をして訊いた。
「私の父のYUZUNOKIの社長です」
三鷹が答えた。そして秋葉が言う。
「柚木社長は気付いていましたよ。あなた方の仕掛けを。不自然すぎるんですよ。二晴さんに三十五億の融資の話を持っていくことも、金利の低さも。具体的な買収だとかはわからなかったそうですが、そこは百戦錬磨の柚木社長。どこかが何かを仕掛けてきている…と思ってたそうです。ですので、もともと二晴さんに勝ち目はありませんでした。のぞみ銀行がどんな条件を持ってこようと一誠さんに決めるつもりだったそうです。そして―」
三鷹が代わって続けた
「そして今回の話を父にしたら、すぐにサニーズの社長のところへ飛んで行きました。あっという間に合併の話を決めてきましたよ。まぁまずは業務提携からですが、早い段階でYUZUNOKIと一緒になるでしょう。そして新会社へ移行した後、上場を目指します」
三鷹はそう言いながら、心の中では別のことを考えていた。
(まだまだ親父には敵わない。あっという間にサニーズの社長と合意してくるなんて、俺にはできない)
彼は気を取り直し、続ける。
「そこでのぞみ銀行さんにはサニーズの融資をお願いします。保証というか裏付けは、YUZUNOKIです。そしてサニーズを買収する資金の融資もお願いします。今後はYUZUNOKIのメインバンクとして。それと――」
一呼吸置いて、さらに言う。
「可能であれば、新会社への出資の検討もお願いします。五%で、いいですよね」
その言葉を聞いて、意外な顔をしたのが秋葉だった。のぞみ銀行をメインバンクに――というところまでが秋葉のシナリオである。しかし三鷹は独断で銀行からの出資について切り出した。
桜庭に、否はなかった。




