第2話 ヤヌスの門は未だ開かず(2)「中身(推定)アラサーの幼女って、ロリババアと呼んでも差し支えないのでしょうか?」
※前回までのあらすじ
[オリンダひめ]
*「だいじな おはなし が あります▽
ゆうしゃ カイル よ
すぐに おうじょう に くるのです!▽」
はい
▷いいえ
*「え…?▽
そんなっ!
ひどいっ!▽」
※注釈
*抗魔大戦(架空)
魔王軍の人間界侵攻をきっかけに始まった戦争の人間側での呼称。
緒戦は魔王軍の圧倒的優勢で推移し、多くの国が滅んだが最終的には勇者の活躍によって人間側の勝利に終わった。
戦争は約6年間にも及び、人間界も魔界も共に荒廃した。
本作は時系列的にはこの戦争の終結から数か月後程度である。
ちなみに「降魔大戦」ではないので悪しからず。
え?ネタが古い?あはは~…
※登場人物紹介
*カイル・アリラハン・サッカーモンド
本作主人公。
本名、坂本 珂依。
聞き間違えられてカイルとかサッカーモンドになった。
異世界に転生し、アリラハン王国唯一の勇者として魔王を倒す。
本作は魔王を倒したその後のお話である。
アリラハンの名は王から授かった。
自称21歳だが、それは転生前の話であり、精神年齢的にはもっと歳を食っているし、肉体年齢的にはもう少し若い。
*ドイツ軍
本作の真の主人公。勇者のラノベ主人公特有のチート能力に対抗出来るだけのチート主人公補正を有している。
真の主人公なので、ただの主人公である勇者如きには絶対に負けない事が世界の理によって確定している。
一時的に追いつめられる事もあるが、それは演出の都合上そう見えるだけであって、最終的には勝つので特に心配は要らない。
また、第二次世界大戦で負けたのも、それは演出の都合上そう見えるだけであって、既に勝っているので特に心配は要らない。
好きな軍隊はフランス軍。※ドイツ軍に毎回ボコられるが、何度も懲りずに挑んでくるモブキャラである事が世界の理により確定している。実はドイツ軍に片想いしている。
嫌いな軍隊はソ連軍。※ドイツ軍が真の主人公である以上、本作に於けるラスボスである事が世界の理により確定している。実はダークサイドに堕ちた父親である事が最終話で判明する。
そしてアメリカ軍。※ドイツ軍とは因縁のライバルだが、最後は協力して一緒にソ連軍を倒す事が世界の理により確定している。実は血を分けた兄。
更にイギリス軍。※ドイツ軍をいじめてくる悪の女幹部だが、根は優しい。最終決戦でドイツ軍を庇って死ぬ事が世界の理により確定している。
同盟軍はイタリア軍。※互いに気付いてはいないが実は両想い。つまり本作のメインヒロインである。しかし最後は闇堕ちしてドイツ軍と戦う事が世界の理により確定している。
そして日本軍。※大好きなドイツ軍先輩のために役立とうと頑張る後輩キャラ。ずっとドイツ軍が好きだったが、途中から敵であるはずのアメリカ軍が好きになってしまい、照れ隠しでウッカリ真珠湾を攻撃する。最後まで自分の気持ちに正直になれずにいたが、ソ連軍に無理矢理NTRされそうになったところをアメリカ軍に助けてもらい、最終的に結婚する事が世界の理により確定している。
*エイラ
カイルとともに住む魔族の少女。ていうかぶっちゃけ魔王の娘。
何やかんやあって今は勇者と一緒に住んでいる。
その“何やかんや”に関してはまたいずれ。
*リアナ
元勇者パーティーの魔法使い。
「どうしてどいつもこいつも扉を粉々に破壊するんだ…はあ…ねえ君、聞いてる?」
ひゅうーっと冷たい風が部屋の中に吹き込んでくる。
私の目の前には大きな穴。
元は玄関扉があった場所には、今はただの木片となった扉の残骸が転がり、壁にまん丸な穴が開いていた。
私の足下にはどこかで見た様な、見た事ない様な少女の姿。
今回この玄関拡張工事を敢行してくれたリフォームの匠である。
どこのお嬢さんだか知らんが、他所様の家の玄関扉を破壊する様な悪ガキは叱ってやらねばならない。
この少女を正しい道に引き戻すためならば進んで雷オヤジになってやろうではないか。
…と、決心を固めた私だったが、その直後に面食らう羽目になる。
「カイルーーーーー!会いたかったーーーーー!」
「え…?何、何ですか?どちら様⁈」
少女は何やら突然抱きついてくる。
もう何が何だかさっぱりである。
こんな子、知らないぞ⁇
他所様の子に知り合いなんていないぞ⁉︎
「もう忘れちゃったの⁈リアナよ、リアナ!リアナ・ディア‼︎」
頼んでもないのに無償で玄関を拡張してくれた素晴らしいそのお人は、自らを“リアナ”だと名乗った。
かつての戦友、リアナ・ディアを名乗る謎の少女。
抗魔大戦*に於いて敵軍からは「殺戮光線」と呼ばれて恐れられ、味方からも「FFリアナちゃん」の名で恐れられた、あの、我が勇者パーティーの魔法使いリアナ…?
こんな子産んだ覚えありませんよ?
燃える様な赤い髪に理知的な瞳。
行く手を阻む者は全て(物理的に)消し去り、度々勇者パーティーのブレーンとして皆に頼られたあのリアナの姿は無く、そこに代わりに謎の少女の姿が。
──2階で荷作りをしていたら突如聴こえた爆発音。
急いで階下に下りていき、玄関の悲惨な惨状を目撃し、今に至る。
この少女、こちらに到着したかと思えば突然ドアを魔法で破壊した挙げ句、何があったのかと私が表に出ればいきなり飛び付いてきてコレである。
何者だ、こいつ…
「おい、私が見ていないうちに何があった?…てかコイツ誰だ?」
こそこそっと隣のエイラに耳うちする。
「さあ、どこの雌ガキでしょうね。私とご主人様の愛の巣に魔法をぶち込むなど良い度胸です。まあ…そんな事を平気でやらかす人物など思い当たる限り一人しかいませんがね」
私の知るリアナは確か20代だったのだが…?しかしどうやらエイラはこの少女をリアナとして認識している様である。
胸がデカくて露出度の高い服ばかり着ていて、いつもいつも私を揶揄う様なお姉さんキャラだったのだが⁈
目の前の少女はどう見たって小学生ぐらいにしか見えない。
「リアナはリアナ!」
…の一点張りである。
「じゃあ…もしかして…リアナの娘、とか?」
この世界は平均寿命が低く、それ故に大人と見なされるようになる年齢も低い。
12歳にして成人扱いされ、大人と一緒になって働いたりする。
人権活動家が見たら「児童労働っ!」とか「子供の人権!」とか間違いなく騒ぎ立てそうなレベルである。
そしてそれに応じて結婚年齢も低く、12歳で成人したと思ったら直ぐに結婚、なんて事もザラにある。大抵は十代のうちに結婚してしまう。
故に二十代のリアナが実は人妻で、これくらいの歳の娘がいたっておかしくはない。
「いえ、これは間違いなくリアナですね。このケバケバしい色の髪にふてぶてしい顔、間違いなくリアナ本人です」
エイラはそう言い切った。
「これがリアナ…?おかしいだろ、私の知るリアナはもっと大人だったぞ?まさか若返ったとでも言うつもりか?」
「その“まさか”でしょうね。理由は分かりませんが。取り敢えず事情を訊くべきだと思いますが?」
えっ…いきなり玄関を破壊して抱きついてきた得体の知れぬ少女を?
「ようこそロリアナちゃん、私とご主人様の愛の巣へ。ホットミルクでも飲みます?それともココア?美味しいドーナツでも作ってあげましょうか?」
「“ロリアナ”言うな!くっ…相変わらずね、エイラ…ばーかばーか!」
お子ちゃまな罵倒。
私の知る彼女はもう少し刺々しい罵詈雑言を吐くのが得意だったはずだが…?
もっと女王様って感じの人だったのだが⁈
「え、待って。コイツはもうリアナっていう前提なのか?」
「だからリアナはリアナだってば!」
「そうですよ、この子はロリアナちゃんです」
「ロリアナ言うな!」
*
「取り敢えず、ホットミルクでもどうぞ」
「あ、どうも」
さも当然といった態度で私の膝の上に座を占めた彼女。
隣に座るエイラが嫉妬してか機嫌悪そうにしているが、私としては何も感じない。
未だにこの小学生ぐらいの少女があのリアナだとは信じられなかった。
「先ず初めに…確認するぞ?お前はリアナなんだな?」
「だから、リアナはリアナだってば」
明らかにリアナではない少女がその様に主張する様は少し滑稽だった。
しかしエイラ曰く、彼女は本物のリアナだという。
「じゃあ…合言葉も全部分かるんだな?」
こくん、と彼女は頷く。
「“信じる者は”?」
「“救われる事もたまにはあるけど基本的には救われない”」
「“だーい好きなのは〜”?」
「“他人の奢りで食べる肉”」
「“女湯を覗く時”?」
「“女湯もまたこちらを覗いているのだ”」
全て即答。
勇者パーティーのメンバーしか知らぬはずの合言葉を全て。
「嘘だろ…コイツ、本物だ…」
「まあその謎の合言葉には触れないでおくとして…だから本物だとさっきから申し上げておりましたのに。こいつ、リアナですよ」
私の膝の上でホットミルクを飲むこの少女が?
若返りの秘訣でも教えてもらいたいものだ。
「どうして子供になってるんだ?教えてくれよ」
「…朝起きたら子供になってた。それが五日前の事。それで手紙を送ってここまで来たのよ」
彼女は淡々とそう説明する。
馬鹿げた主張だが、その顔は真剣そのものだ。
朝起きたら子供に⁉︎笑止!…と言いたいところだが、事実なのだから仕方ない。
信じ難くてもこう証拠をみせられてはな…
原因は不明だが実際にそうなのだからその事実を受け入れるしかない。
「なるほど、あの手紙はそういう事だったのか。ふざけた内容だったクセに割と一大事じゃないか」
「だから、死んじゃうって書いてたでしょ?」
うん、まあ…書いてたな。
「で、何故ウチに来るんだよ?私にはどうする事も出来んぞ?」
「知ってる。でも他に行き場も無いし…」
はあ…何じゃそりゃ…
「それよりも、小さくなる前の記憶はあるんだよな?そのクセどことなく子供っぽくないか?」
見た目は子供、頭脳は大人!…的なヤツではないのだろうか?
「いえ、身体に合わせて精神的にもある程度幼くなっているのでしょう。人間の思考というものは頭脳に依存しているのですから。元は大人でも、今やただのガキですよ。いい気味です」
エイラがニタニタ笑いながらそう得意げに語る。
…でも確かに、常識的に考えれば彼女の言う通りだ。
天才高校生探偵が薬を飲まされて、身体が縮んでしまったと仮定して、果たして彼はそのまま凄腕名探偵であり続けられるのか。
…まあ、無理だろう。
脳が縮めば、思考能力も比例して低下するはずなのだ。
「ガキじゃないし。子供扱いしないで」
と、今の彼女に言われてもなぁ…
「しかし、さっきからヤケに詳しいな…まさか何か知っているのではなかろうな?」
よくよく思い返せば、エイラは最初からリアナが本物だと確信していた。
「まさか私がやった、とか疑ってます?」
ご主人様ヒドイ!とか言いながら、エイラはヨヨヨと噓泣きをする。
「いや、別に。お前にそんな事出来るはずもないしな。まあ良いや…」
そう言えば、何か忘れている様な…
「そうだ、思い出した!玄関だ、玄関!何故玄関を破壊したんだ?」
「…運良くクソエイラに当たったらラッキーだなって思ったの。テヘペロ」
そんなラッキーがあって堪るかこの馬鹿…
もうこれは精神年齢がどうこう以前の問題だと思うのだが…
「出掛けてる間に直してもらうか…で、これからどうすべきだろう?」
「この女も今やただのメスガキです。最早私にとっても脅威になり得ませんし、当初の予定通り一緒に王城に向かうべきでしょう」
リアナの現状を見てよっぽどスカッとしたのか、エイラは一転してご機嫌だ。
今にも鼻歌でも歌い出しそうな様子である。
「リアナ、これから城に向かうところだったんだ。一緒に来るか?」
「お城?どうして?」
やはり彼女にまで連絡は行っていなかったか。
「姫がお呼びだ。取り敢えず話だけでも聞きに行こうと思ってな」
「へえ…どうしてだろうね?」
「さあな。ま、ちゃちゃっと行って、ちゃちゃっと帰ってくるつもりだ。一応お前にもお呼び出しがかかってるが…どうする?」
文字通りちゃっちゃと行けるからな。
「じゃあ私も付いていってあげる」
「そりゃあどうも」
「そうと決まればロリアナちゃんも準備して下さい。直ぐに出ますよ?」
「だから…ロリアナ言うなっ!」