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第3話 ヤヌスの門は未だ開かず(3)「空を飛ぶ時、無性に両手あるいは片手を前に突き出したくなるのは何故だろう」

 ※前回までのあらすじ

 [まほうつかい]

 *「ゆめ に でてきた みらい の

  ししゃ が とぼけた じゅもん を かけた▽


  くしゃみ して めざめたら まあ たいへん

  その けっか が このザマ よ!▽


  たすけて ケノービ!▽

  …じゃなくて カイル!▽」


  はい

  ▷いいえ


 *「え…?▽


  そんなっ!

  ひどいっ!▽」


 ※注釈


 ※登場人物紹介

 *カイル・アリラハン・サッカーモンド

 本作主人公。

 本名、坂本 珂依。

 聞き間違えられてカイルとかサッカーモンドになった。

 異世界に転生し、アリラハン王国唯一の勇者として魔王を倒す。

 本作は魔王を倒したその後のお話である。

 アリラハンの名は王から授かった。

 自称21歳だが、それは転生前の話であり、精神年齢的にはもっと歳を食っているし、肉体年齢的にはもう少し若い。


 *ドイツ軍

 本作の真の主人公。勇者のラノベ主人公特有のチート能力に対抗出来るだけのチート主人公補正を有している。

 真の主人公なので、ただの主人公である勇者如きには絶対に負けない事が世界の理によって確定している。

 一時的に追いつめられる事もあるが、それは演出の都合上そう見えるだけであって、最終的には勝つので特に心配は要らない。

 また、第二次世界大戦で負けたのも、それは演出の都合上そう見えるだけであって、既に勝っているので特に心配は要らない。

 好きな軍隊はフランス軍。※ドイツ軍に毎回ボコられるが、何度も懲りずに挑んでくるモブキャラである事が世界の理により確定している。実はドイツ軍に片想いしている。

 嫌いな軍隊はソ連軍。※ドイツ軍が真の主人公である以上、本作に於けるラスボスである事が世界の理により確定している。実はダークサイドに堕ちた父親である事が最終話で判明する。

 そしてアメリカ軍。※ドイツ軍とは因縁のライバルだが、最後は協力して一緒にソ連軍を倒す事が世界の理により確定している。実は血を分けた兄。

 更にイギリス軍。※ドイツ軍をいじめてくる悪の女幹部だが、根は優しい。最終決戦でドイツ軍を庇って死ぬ事が世界の理により確定している。

 同盟軍はイタリア軍。※互いに気付いてはいないが実は両想い。つまり本作のメインヒロインである。しかし最後は闇堕ちしてドイツ軍と戦う事が世界の理により確定している。

 そして日本軍。※大好きなドイツ軍先輩のために役立とうと頑張る後輩キャラ。ずっとドイツ軍が好きだったが、途中から敵であるはずのアメリカ軍が好きになってしまい、照れ隠しでウッカリ真珠湾を攻撃する。最後まで自分の気持ちに正直になれずにいたが、ソ連軍に無理矢理NTRされそうになったところをアメリカ軍に助けてもらい、最終的に結婚する事が世界の理により確定している。


 *エイラ

 カイルとともに住む魔族の少女。ていうかぶっちゃけ魔王の娘。

 何やかんやあって今は勇者と一緒に住んでいる。

 その“何やかんや”に関してはまたいずれ。


 *リアナ・ディア

 元勇者パーティーの魔法使い。

 元々はボインなお姉さんだったがいつの間にか子供になっていた。

 エイラからは「ロリアナちゃん」と呼ばれて小馬鹿にされているが本人はそれが気に食わないご様子。



「はい、では…とうちゃーく!」


 ズシャッとぬかるんだ地面に降り立ち、着地と同時に泥水が跳ねた。

 どうやら雨が降っていたらしく、中庭は泥だらけであった。


 本当に文字通り()()()()()()であった。

 飛翔魔法で空を飛ぶ事、十数分。

 私とエイラ、それにロリア──リアナは王城の中庭にこうして到着した。


 RPGでよくある“既に行ったことのある町に瞬間移動する魔法(ルーラ的なやつ)”なども存在するし、実際にそれを使えぬ事もないがアレには少し欠点があるので余程急がない限り私は遠出する際にはこうして飛翔魔法を使う。

 まあ、東京~大阪を飛行機で行くか新幹線で行くか、ぐらいの違いだと思ってくれれば良い。

 ちなみに私は新幹線派である。


 リアナは自力で飛べるので問題ないのだが、エイラは飛翔魔法なぞ使えない。

 故に彼女を連れて行く時は仕方ないが彼女を所謂“お姫様抱っこ”の形で抱えて飛ぶ。


 そういった理由で、エイラは随分とご機嫌だ。

 車を運転中の彼氏に頻りにちょっかいをかけたがる何処ぞの彼女の如く、私の両手が塞がっているのを良い事に道中色々と悪戯(詳細はご想像にお任せする)を仕掛けてきやがった。

 まったく…本気で落としてやろうかと思ったぞ。


 腹いせ混じりに泥んこの中に落としてやろう、と彼女を抱く手を離すが、そんな事は分かってましたとばかりに彼女は優雅に着地。

 どうやら私の行動など計算済みだった様である。


 目の前には、上空から降ってきた我々を見て目を丸くしている衛兵の姿。

 両手で槍──王城警備の衛兵は比較的短いものを持っている──を構え、可哀想な程にビビりながらもこちらに精一杯威嚇してくる。


 腰には短剣、頭には革製の兜兼帽子。

 カワセミの様に綺麗な青い制服に金色──無論、本物ではなく磨いた真鍮の色である──のボタン。

 肩のワッペンからは、まだ彼が新人である事が分かった。


「貴様ら!…こ、ここが王の居城と知っての狼藉か⁈何者だ!」


 無理もない。

 ここは王城。王の住まう所である。

 警備は尋常でなく、普通なら魔法を使ったって簡単に入り込めるものではない。

 転移系の魔法を阻害する目に見えない結界が張ってあるし、その結界のせいで空を飛んで侵入してくるのも本来は不可能なのである。

 そこに、こういとも容易く侵入されれば警戒して当然だ。


 では、何故私は侵入出来るのかというと全ては“勇者だから”の一言で片付いてしまう。

 勇者は何でもアリなのだ。


「あー、いや、脅かしてすまんな。我々は怪しい者ではない。そう、えーっと──」


 詰まる私にエイラが捕捉する。


「──ただの偉大な勇者様とただの可愛い魔王の娘、そしておまけにただのロリアナちゃんです」


「ロリアナ言うなっ!」


「あ、すいません間違えました。ただのラブラブ新婚カップルとただのロリアナちゃんでした」


「だから、ロリアナ言うな!」


 一応言っておくが、ラブラブでもなければ新婚でもないしカップルでもない。

 “ロリアナ”部分以外全て間違いだな。


 こんな呑気な我々を前に、新入り衛兵君もポカーンとしている。

 仕方ない、誰だって空から人が降ってきてそいつが自分を勇者だと名乗ったら戸惑うに違いない。


「え、あの…失礼ですが…あなた様があの、名高い勇者様なのですか?」


「ああ。一応、私がその名高い勇者様だな。別に有名になったつもりはないが。姫に呼ばれてな、こうして急ぎ参上した訳だ」


 まあ言う程急いではなかったけどね!


「疑う訳ではないのですが…何か証拠はありますか?」


 可哀そうな衛兵君は、こんなのマニュアルに載ってないぞ!と言いたげな困り顔で証拠の提示を求めてきた。

 証拠…?証拠ねえ…そんなものあるかなぁ?

 少し困ってしまって、エイラとリアナの方を見る。


「ふふふ…証拠も何も、私を見れば一目瞭然でしょうに。勇者パーティーのリアナとはまさに私の事!この美しい赤い髪こそが何よりも証拠よ!疑い様が無いと思うけど?」


 まさに自信満々といった様子で彼女はセクシーポーズ。

 しかし残念ながら、幼女がやっても全く色気など感じられない。

 それどころか微笑ましくさえ思えてくる光景だ。


 えっと…あー…今の君がリアナを名乗ったって信じてもらえる訳ないと思うんですけど?


「ちょっとこの子リアナに憧れててねぇ~ははは、気にしないでね~」


「そうですよロリアナちゃん。大人を困らせる様な事言っちゃダメですよー」


「だからロリアナ言うな!」


 はあ…


「んー…他に何か無い?」


「ユリシーズはどうですか?」


「あ、そうだな」


 右手を掲げ、心の中でその名を呼ぶ。

 ここ暫く()を呼んでいなかったから、随分と久し振りだ。


 ──出番だ、ユリシーズ。


 すると、眩い光と共に突然その右手に剣が現れる。


 この剣の名はユリシーズ。

 簡単に言えば勇者の剣である。

 うーん、シンプルイズベストなデザインといい何といい…素晴らしい実用美に溢れた剣だ。

 勇者の剣に飾りなど要らん!


「ほい、勇者の剣。どうだ?これで信じてもらえるか?」


「ほ、ほ、本物の…ユリシーズ…魔を討ち払う剣だ…」


 うん、まあ、レプリカとかではないな。

 残念ながら隣で踏ん反り返っている魔王の娘は討ち払えない剣だが。

 魔族や魔獣に対して特効を持つので先の戦争では大変重宝しました。

 また、今ご覧に入れた様に、現れたり消えたり思いのままなので持ち運びが楽という優れ物である。

 儀礼用ではないのだから、勇者の剣たるもの、実用性があってナンボである。最強の携帯性を誇るこの剣は、まさしく天下の名剣と呼ぶに相応しい。威力とか見た目とかなんて二の次だ。


「もし本物かどうか証明してみせろと言うなら今ここでそこの魔王の娘をぶった斬って威力を実演してみせるが?」


「い、いえ!それには及びません!本物の勇者様でした!失礼をお許し下さい、直ぐに殿下にお伝えして参りますので──」


「──いや、結構。それには及ばない」


「はい?」


「結構毛だらけ猫灰だらけ、だ。あの姫のいる場所は分かっている、我々が直接そこに赴こう」


 そう、何だかんだでオリンダ姫とは付き合いが長い。

 あの姫様のいる場所など大体予想がつく。


「は、はあ…しかし…」


「大丈夫だ。だって、私は勇者なのだからな」


 そう言って、とっておきの営業スマイルを披露する。イケメンだからこそ可能な、白い歯を二カッと見せるアレだ。

 勇者というだけで何故か説得感が出てくる。

 やっぱり、勇者って便利だなぁ。



 *



「カイル、来てくれたのだな」


「そうですね。馳せ参じましたよ、こうして」


「それは随分と素敵だが…カイル、知っているか?」


「何をです?」


「──ここは風呂場だ」


 ここは風呂場。

 更に言うとオリンダ姫専用の風呂である。

 現在真っ昼間であるが、姫様はまるでし◯かちゃんの如くご入浴中であったらしい。

 …と言うか、それを知っていてこうして風呂場に突入したのであるが。


「いやあ、申し訳ありません。どうせ姫様の事だから昼間っからお風呂にでも入っているのだろうと半ば冗談でお風呂を覗いたら本当に入浴してらしたので…これはもう突乳──じゃなくて、突入するしかないな!…という話になりまして。まあビックリ、姫様のあられもないお姿を拝見出来たし、お変わりなく元気そうで何よりですし、この勇者カイル、嬉しゅうございます」


 そんな訳で中学生男子の様なノリでこうして突入しちゃったのである。


「いや、おかしい!その理屈はおかしい! 何が嬉しゅうございますだこの野郎っ!おい魔王の娘、そなたが止めんか!」


「すいません、殿下との感動の再会を邪魔する訳にはいかないと思って許可してしまいました」


 テヘッ☆とでも言いたげにエイラがそう返す。

 オリンダ姫は苦々しげな表情だ。


「まあまあ姫様、そう水臭い事を言わずとも。私とあなたの仲ではありませんか。何ならまた一緒に風呂に入っても良いですよ?お背中流しましょうか?」


「カイル、そなただけならば兎も角も、よりにもよって…」


 姫は、エイラとリアナを無言で指差した。この二人を風呂場に連れてきたのが気に食わなかったらしい。


「照れてるんですか?」


「どちらかと言うと呆れておる」


 さてさて、ここまでの会話を聴くと、まるで私が女の子のお風呂に乱入する変態野郎の様に思えてしまうかもしれない。

 しかしそれは勘違いである、と先に述べておこう。

 誤解を解くために詳しく説明しようと思う。


 紹介しよう、()()こそがオリンダ姫。


 灰色の短めの髪に可愛らしい顔。

 美少女である。

 ちなみに現在16歳。


 そんな彼女だが──


「ええい、取り敢えず出て行け!私の風呂場は神聖不可侵!しっしっしっ‼︎」


 じゃぼんっと勢い良く立ち上がった()()の股間には、私の股間に同様に垂れ下がっているアレと同じものが…


「キャアー!姫のエッチ!」


 リアナが目を押さえて、きゃーっと悲鳴を上げながら出て行く。

 ちょっと嬉しそうだ。


「殿下の変態!露出魔!」


 これまた楽しげにエイラもそう捨て台詞を吐いて走って風呂場から出て行く。


 そう、このオリンダ姫…実は男なのだ。


「…ったく、久し振りに会ったと思ったらこれだものなぁ…」


 実はこれには理由(わけ)があって、話は16年前にまで遡る。


 当時この国では、王にまだ世継ぎとなる子供がいなかった。

 そのせいで玉座を狙う親戚・一族の者も多く、内戦ギリギリのところにまで達していた。


 そんな時、王にやっと待望の世継ぎが生まれる。それこそが目の前の彼である。

 しかしその様な状況下で王に世継ぎとなる男の子が生まれたとなると、その子供の命が狙われかねなかった。

 当然である、玉座を狙う者達からすれば彼の存在は目障りこの上ないものであろう。


 そこで王は閃いた。

「そうだ…!女の子って事にすれば良いではないか!」…と。

 こうして、この男の子は自分を“姫”として偽る事を強いられたのであった。


 そして月日は流れ…現在に至る。

 王国が政治的に安定した今になってもその名残りが形だけ残っており、公式的には未だに彼は()()()()なのである。

 無論、今では国民の誰でも知っている様な有名な話であるが。


「姫様こそ、急に呼び出してどうしたんです?」


「それなりの事情があるのだ、説明する。ふう…もう風呂は出るか」


 父親が病で臥せっているので、彼はこの若さにしてもう王国の事実上のトップ。

 代わってやろう、なんて親切心は湧かないが、ちょっと協力してやりたくもある。


「まあ、姫様は姫様で大変ですな…そうだ、お風呂上がりの飲み物でも持って来てやりましょうか?コーヒーミルクでもどうです?それとも、みっくちゅじゅーちゅ?」


「私は昔からバナナ牛乳派だ」


「え?ミルクはミルクでもママの──グハッ…!」


 軽い下ネタで和ませてやろうと思ったのに、腹に全力でアッパーを食らう。

 男の娘のクセして勇者を殴るとは良い度胸である。


「カイル、先に私の部屋で待っていてくれ」


 彼は何事も無かったかの様にそう言うと、悠然と歩いて行くのであった。

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